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逆ハーレムフラグ叩き折ってみました。

逆ハーレムフラグ叩き折ってみました。その後は責任持てません。

作者: 水瀬柳

続編書きました。上のシリーズ名がリンクになっているので、そちらもよろしくお願いします♪

 なんだかなぁ、と思いつつ目の前の光景を眺める。うん、やっぱり現実にこれはないわぁ。

 そんな事を考えてため息をつく。そして、事態が動くのを待つ間に状況説明といきますか。


 私、篠井(しのい)彩香(あやか)はとある乙女ゲームの世界に紛れ込んだらしい。よくある転生ものということだろう。はい、お約束とか言わない。

 私の立ち位置は、メイン攻略対象である篠井雅浩まさひろの妹だ。と言っても血のつながりはないし、戸籍上もまったくの他人なのだが。これは単に私が今の両親との養子縁組に抵抗しまくったせいである。無論、雅浩兄様が好きだとかそういうとち狂った事はあり得ないので期待しないように。

 ただ単に、実の両親が事故死して今の両親に引き取られるという話が出る前に、乙女ゲームの世界に転生したらしいという自覚があったというだけのこと。そして、今の両親に引き取られると、これまた攻略対象だったりする雅治兄様より二つ年上の従兄である久我城くがじょう)克人(かつととの婚約から逃げられなくなるとわかったからである。

 こう、元々非常に冷めた――可愛げのないともいう――性格の私は、将来捨てられる可能性が高いとわかっている相手と恋愛をするとか勘弁してください、と思ったわけでして。養子縁組なんて嫌だ、私は父様と母様の子供だと訴えた。それでもまわりの大人達は渋ったが最後には雅浩兄様と克人兄様が味方をしてくれたおかげで無事養子縁組の危機を逃れて今にいたる。

 あ、今更かもしれないけど、篠井家も久我城家もかなりなお金持ちで旧家だったりする。その辺はお約束って事ですね。


 さて。そろそろ目の前の現実にも少し目をむけよう。

 乙女ゲームのヒロイン様、逆ハーレムコースを失敗してゲームにはなかった吊るし上げルートに突入、というのがこの状況。そして、そのコースを作ったのは私だったりする。

 ……いや、ヒロインが普通に誰か一人と恋愛して終わるんだったら私も何もする気はなかったんだ。覚えている限りでは二人の兄様もそれぞれのルートのハッピーエンドだと家族ともうまく折り合いをつけて幸せになれる感じだったからね。攻略されなければ普通に別の相手を見つけるんだろうしさ。

 だけど、逆ハーレムルートって……。

 確かに面倒そうだから恋愛対象にはしてない人達だけど、私にとっては大切な家族なんだから、逆ハーレムの一人にされてお終いって、気に食わないんだよね。

 なので、彼女の事で悩んでいる雅浩兄様に

「一般の家庭の方なの? なら、前もって身辺調査をお願いしておいたらどう? 篠井家に相応しくない親戚や過去がないとはっきりさせておけば説得しやすいんじゃない?」

 とかなんとか言ってみた。

 そしたら出るわ出るわ。八人いる攻略対象すべてと恋愛イベント起こしてたんだもの。いくら恋は盲目でも、ね? そして、元から学園内で――雅浩兄様とヒロインさんは高校一年だし、他の攻略対象も全員幼稚園から大学まであるこの学園の関係者だ――付き合いのある面々と情報交換した結果、見事吊るし上げルート発生。

 ちなみにこのヒロイン様、影ではヤマタのビッチとかいう素敵な二つ名を献じられておられます。

 私は兄様二人を待つという名目でこの場にいるわけだけど、半分は二組の親からちゃんと別れて来たか確認して欲しいと頼まれたからでもある。……中学生にそんな事頼むなよと言いたかったけど、生徒である私の方が都合がいいのは確かだったから引き受けた。

 あ〜あ、はやく修羅場終わらないかな。


 なんて思っていたら、人の群れが割れて攻略対象達が散り始めた。その先頭を切ったのは兄様達で、少し離れて見守っていた私に近付いて来ると笑顔を見せてくれた。

「お待たせ、彩香。……嫌な事に付き合わせてごめんね」

 先に声をかけてくれたのは雅浩兄様。なんでもそつなく人並み以上にこなすけどずば抜けて得意な事はない秀才肌の雅浩兄様は、優しくて裏表のない直球タイプ。

 その隣で苦笑いの克人兄様は腹黒参謀系だけど実はスポーツマンだったりする。

「ずいぶん待って疲れただろ? 彩香の好きなケーキでも食べて帰ろうか」

 直球で謝ってくる雅浩兄様に対して、疲れた時は甘い物と切り出す克人兄様。この辺、性格が出てると思う。

「雅浩兄様、気にしないで。元はといえば私の発言がきっかけなんだから」

 まずは雅浩兄様の謝罪に頭を振ってから克人兄様を見上げる。雅浩兄様も背が高いけど、克人兄様は更に背が高いんだ。

「克人兄様に誘ってもらえたのは嬉しいけど、兄様達はそんな気分じゃないでしょ? また今度、楽しめる時に三人で行きたいな」

 笑顔でおねだりをまぜた返事をすると、克人兄様はやはり苦笑いで私の頭をなでた。

「彩香はいつも、三人で、だな」

「だって、三人の方が楽しいでしょう?」

「まぁな。――さ、帰るか。今日は俺も篠井で夕飯をもらっていいかな?」

「もちろん。克人兄様が来てくれると父様も母様も喜ぶもの。鞄、取って来るね」

 傷心の二人にうるさくないだろうくらいの笑顔と挨拶を残して踵を返した私は、後ろで克人兄様が肩をすくめたことも、それを慰めるように雅浩兄様が背中を叩いたことも気付かなかった。

 

――――――――


 結局、久我城家と篠井家総出の食事会になった夕飯が終わり、私は早苗さなえ姉様――克人兄様の姉で私より八つ年上だ――と二人でお茶を飲んでいた。こんな子供と付き合うのは退屈だろうに早苗姉様は二家族が集まった時はいつも私の相手をしてくれる。

 長く伸ばした黒髪がとても綺麗で、これぞ日本のお嬢様って雰囲気のこの人は、実は憧れの人でもあったりして。

「今回は彩香ちゃんにも迷惑をかけてしまったわね。嫌な役目だったでしょう? ごめんなさいね」

 紅茶のカップを置いた早苗姉様に言われて、小さく頭を振る。

「ううん。元はと言えば私が雅浩兄様に余計な事を言ったせいだもの」

「そうかしら? 彩香ちゃんの言葉がなかったら二人とももっと深みにはまってしまったはず。他の家の方々にとっても、騒ぎが学園の外に出る前にわかってよかったのだと思うわ」

「ならいいんだけど……。兄様達には少し嫌われてしまったかも」

 保険をかけるつもりで、私はとにかく二人の兄様にべったりまとわりついていた。こと、雅浩兄様が高校に進学してからは定期テスト前後、夏休み中の登校日、休み明けのサマーフェスティバル――要は相応しい振る舞いを覚えるための授業としてのダンスパーティと各種イベントだ――、文化祭、クリスマスに年末年始、バレンタイン、と大きなイベントはすべて甘えたおねだりで、三人一緒にいるよう仕向けたのだから。加えて、放課後もできるだけ二人につきまとったし、休みの日も買い物だ勉強だって理由をつけて二人に側にいてもらったのだ。たぶん、かなりうっとうしかった事だろう。

 齢一桁で両親を亡くした私に甘い二人は、私がおねだりすれば大抵のことは聞いてくれる。多分、私が必死に養子縁組を嫌がった事も関していると思うけど、でもこの一年はやり過ぎだったと自分でも思う。

 まぁ、最初はここまでするつもりはなかったんだけど、四月早々、複数の攻略対象との間に恋愛イベント起こしてるのを確認できたから、二人とヒロインさんのイベントを潰そうと頑張った。……色々、自分の評価とか友情とか犠牲にした感が半端ないけど。クラスの友達からはしっかりブラコンのレッテルはられてますが、兄様達の幸せを買ったと思えばまぁ、我慢できる。

 ちなみに、私が法的には篠井家の娘じゃないというのは伏せてある。少なくとも私が大学を卒業するまでは誰にも告げないというのが、養子縁組しない条件なのだ。かなり遠いとはいえ親戚筋だったから、私が元から篠井姓だったのも幸いした。

「でも彩香ちゃん、本当はもっとはやくから何か知っていたのじゃなくて?」

「……え?」

 早苗姉様の言葉に思わず体が強ばる。

「彩香ちゃんは元から克人と雅浩さんが好きだけど、でも、この一年のまとわりつきようは少しおかしいわよね?」

 柔らかな微笑みで切り込まれ、今度は言葉につまる。

「……え、ええと」

「叔父様と叔母様が心配していらしてよ? 彩香ちゃんは学校でお友達とうまくやれていないのではないか、だから学校のお友達と遊びに行かないのではないかって」

「……そんな事は別にないよ?」

「そう? 克人が中等部の生徒会役員に聞いたら、彩香ちゃんに親しいお友達はいらっしゃらないみたいだと言われたって、気にしていたわよ?」

 ……何、公私混同して調べてるんだ、克人兄様……。生徒会長の立場はそんな事に利用するためのものじゃないでしょうが。

「雅浩さんも、中等部に入ってからの彩香ちゃんは急に甘えたになってしまって、何かあったんじゃないかって、とても気にかけていてよ?」

 たたみかけるように言われ、ぐうの音も出ない……。これは誤魔化せないなぁ。

「……不自然だったのは認める。でも、必死だったんだもの」

「何かあったの?」

「今だから言えるけど、四月の連休前にね、あの人が他の人とその……、かなり親しげにしてるのを見かけて。その後、兄様達にも近付いているみたいだったから」

 言葉を濁しがちに打ち明けると、早苗姉様はちょっと驚いた様子だったけど、すぐにいつもの優しい笑みを浮かべて私の髪をなでてくれた。

「彩香ちゃんは一生懸命二人を守ってくれていたのね」

「守るっていう程じゃないけどね。結局こんな騒ぎになっちゃったし」

 本当は二人の気持ちがあの人に向かなければ一番よかった。でも、私ではそこまではできなかった。やっぱり、恋愛ごとに張り合うのに妹って立場は不利だということだろう。私に二人を落とす気があれば別だったかもしれないけど、恋愛とか勘弁ですよ。しかもこんな身近な二人を逆ハーレムですか? 最低過ぎて反吐が出るわ。

「そんな事ないわ。二人は他の方達に比べてずいぶんあっさりあの方に見切りをつけられたもの。――中には一生取り巻きの一人でもいいからっておっしゃる方もいたとか。二人がそんな風にならずに済んだのは彩香ちゃんのおかげね」

 優しい言葉に小さく首を振って小さくため息をつく。

「みんなに心配ばかりかけて、何もできないなんて……。早苗姉様にもお手間をかけてしまってごめんなさい。今日は雅浩兄様達に頼まれてわざわざ来てくれたんだよね」

 早苗姉様だって大学の勉強や習い事で忙しいのに……。

「あら、私は久し振りに叔母様のケーキが食べたくて克人に便乗しただけよ? 叔母様のケーキがいつでも食べられる彩香ちゃんが羨ましいわ」

 笑ってそんな風に言ってくれた早苗姉様に私も笑顔でうなずく。これ以上心配をかけないためにも一人になってから反省会をするとしよう。


のりだけでやりました。

後悔は……してませんw


2014/7/12 誤字訂正

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― 新着の感想 ―
[一言] 身辺調査云々辺りで雅浩が雅治になってるのが二カ所ほどあります。
[良い点] ヤマタのビッチがツボに入りました。 読みやすかったです。 [一言] ランキングから来ました。 周りの視点も気になりました。
[一言] 立ってますよね、フラグ…
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