兄妹
フェルナは自分が忘れていた大事な記憶を思い出した。というより紅月より返された。
「やっと長年の疑問が解けた」
「それはよかったわね」
フェルナは自分が持つ、自分が希望をかけた剣を見てもう一度、頑張ってみるかと思った。
「じゃあまずこいつらを倒すか」
「ええ、さっさと倒しましょ」
フェルナは紅月を構え、そして神虫に斬りかかった。
フェルナは先程とは比べものにならない程のスピードで神虫達を殺していった。
神虫たちは抵抗する暇もなく、ただただ殺されるのを待っているだけだった。
そこで神虫を殺していたフェルナの視界に何匹かの神虫と戦っているミミ達の姿が入った。
「な・・・・・・」
「どうするの?」
「決まっているだろう!!」
フェルナは紅月を火炎の剣から伝説の剣に変え、一気に加速し、神虫とミミ達との間に入った。
「へっ、フェルナ?」
ミミは情けない声を上げていたが今はそんな場合ではない。
フェルナはミミ達に襲いかかっていた神虫を火炎の剣に戻した紅月で斬った。
何が起きているかわかっていないミミ達にフェルナは言った。
「少し下がってろ」
そう言い残し、フェルナはもう一度、神虫達のもとへ戻っていった。
今のフェルナは、神をも倒しそうな勢いだった。
それを天空より見ていた、謎の人物はどこか楽しそうだった。
「ふっ、やっと紅月が目覚めたか。これからはもっと面白くなるぞ」
言って、謎の人物はその場から消え去った。
そこには何も残ってはいなかった。
フェルナは神虫達を斬り裂き、燃やした。その数はもう万を超えていた。
神虫達はとうとうフェルナを畏れ、逃げ出した。
フェルナには、もう追撃する力が残っていなかった。
彼は空を見上げた。その目には涙が浮かんでいた。
そこにミミ達がやってきた。彼女は心配そうにフェルナに声をかけた。
「フェルナ、大丈夫?」
「・・・すこし、一人にしてくれないか」
そう言ってフェルナは街の近くの湖の方へと行ってしまった。
「フェルナ・・・」
ミミは追いかけようとした。が、彼は「一人にしてくれ」と言った。
彼女は悩んだ。そんな彼女に側近であるアルファが声をかけた。
「ミミ様。悩んでいないで行かれてはどうです?
肉親であるあなたが、彼を救ってあげないで誰が彼を救ってあげるんです?」
そう言われてミミは、彼の行った湖へと駆け出した。
「はぁ~、ミミ様がもう少し判断力のある人なら・・・」
アルファは、自分の主人が湖へ走って行くのを見ながらつぶやいた。
その横に同僚の、弟であるベータが来た。
「仕方ないだろう、まだあの方はお年頃の少女、迷うことも沢山あるさ。」
ベータが、兄のアルファに対して敬語を使わないのは、以前アルファが
「敬語を使うのは、やめてくれ」
と言ったためであった。
「そうだな。まぁそのへんの仕事は俺たちの仕事だからな」
「そうだ、これからはフェルナ様の仕事になるのかもしれないがな」
「ふっ、違いない」
アルファは後ろの部下達に笑顔でこう告げた。
「おいお前ら、歓迎会の準備だ」
フェルナは湖のほとりに座って、センチェル王国にいた9年前を思い出していた。
だが、そこで後方に気配を感じたので
「誰だ、そこにいるのは」
と言った。
「私よ」
帰ってきた声は成長した自分の妹の声だった。
「・・・一人にしてくれと言ったはずだが?」
「ごめんなさい、でも・・・」
少しの間、沈黙が流れた。
しかし、その沈黙を打ち破ったのは、ミミではなくフェルナだった。
「・・・少し昔の話をしよう」
「え?」
「俺がまだフェルナ・センチェルと呼ばれていた時の話だ」
当時、俺は6歳だった。
けれど、同い年の誰よりも賢く、そして力を持っていた。
そんな俺には妹がいた。
俺のように力も無い普通の女の子だった。
俺はそんな妹を大事にしていた。
そんなある日、事件は起きた。
俺がいつものように妹と遊んでいたとき、いきなり妹が痛みを訴えた。
俺は心配になって彼女を見ると、目が黒くなっていた。
俺は彼女がある病気にかかっていることに気づいた。
その病名は『魔力誘発病』。
体内の魔力が増大する病気で、最後は魔力が体内に収まりきらなくなり、発症者もろとも爆発する。
その対処法は、体のどこかにある魔法陣の形をした痣に他人の魔力を流さなければいけない。
俺はまず痛みで泣いていた彼女を魔法で眠らせ、痣を探した。
しかし、どこにも痣はなかった。
俺は焦ったさ。このままだと大事な妹が死んでしまうと思ったからな。
だから俺は、もう一度くまなく探した。
けれど、やはり見つからなかった。
その時俺は生まれて初めて『力』を欲した。
そんな俺の目にある力が宿った。
その目で彼女を見ると、一瞬で痣の場所がわかった。
俺はすぐに痣に魔力を流し、どうにか妹の命を救った。
そこに父さんと母さんがやってきて、俺の目を見た途端、
「ば、化け物!!」
と言って俺はある教会に預けられた。
その教会は最悪でな、数年後、クズと言われて教会を追い出された。
妹の命の代償は、自分の人生だったってわけだ。
別に俺は妹を恨んじゃいないぜ?
俺が旅をしている理由は、妹を探す為だ。
あと、復讐する為。俺を見放した親と教会にな。
そのために俺は強くなった。もう捨てられのは嫌だからな・・・。
「これで、俺の昔話は終わりだ。どうだ、笑えるだろ?」
フェルナは笑いながらミミに尋ねた。
「笑えるわけ・・・ないじゃない・・・」
ミミは泣きながら答えた。
「センチェル王国が壊滅したとき、あなたは私を助けてくれた。
実の妹である私を・・・」
「・・・」
「どうしてあの時、知らない顔をしたの!?」
「・・・言えなかったんだ」
フェルナは瞳に涙を浮かべて、そう言った。
「7年も離れていて、顔も覚えているかわからない妹にいきなり
俺はお前の妹と言って信じてもらえると思うか?」
「それは・・・」
「少くとも俺はそうは思わなかった。」
ミミは何も言えなかった。
「俺は君にひどいことをした。今更兄を名乗る資格なんて・・・」
「それは、自分勝手なだけじゃない!!」
「・・・!!」
フェルナは驚いた。
妹が声を荒げるのを見たことがなかったから余計だったかもしれない。
「お兄ちゃんは私の気持ちを考えたことあった?
お兄ちゃんがしてきたことは、ただの自分勝手じゃない!」
「自分勝手だって?」
「ええそうよ」
さすがにフェルナはこの言葉に少し怒った。
「自分勝手はないと思うぜ」
「そう・・・じゃあ」
ミミは大鎌をフェルナに向けた。その目は真剣だった。
「私と勝負しましょ。
勝った方が我を通すということで」
フェルナは少し迷ったが、それも数秒だった。
「いいぜ」
フェルナとミミはそれぞれ武器を構えた。
そしてどちらからともなく、二人とも走り出した。
ミミは大鎌でフェルナを横薙しようとしたが、そのフェルナが視界から消えた。
「なっ・・・!!」
フェルナはミミの後ろにいた。
その手には剣を持っていなかった。
フェルナは拳に魔力を乗せ、ミミを殴ろうとした。
が、ミミはギリギリでフェルナのパンチを大鎌の腹で受け止めた。
フェルナは止められたのをまるで予想していたように次の行動にうつっていた。
ミミはフェルナのパンチを止めたのと同時に、後ろに大きく跳躍した。
そして魔法『プロミネンス』を放った。
ミミは彼がよけるか、何らかの攻撃で返してくると思っていた。
その予想通り、フェルナは魔法は手の平に炎球を作っていた。
しかし、おかしいことが二つあった。
一つ、魔法に必要な呪文の詠唱はしていなかった。
二つ、彼の手の平にある炎球がこの世に存在する魔法じゃなかったからだ。
そんなミミの心を読んだかのように、フェルナは言った。
「驚いているな。まぁ無理もないか。
これはおれが創った魔法だ」
そう言って彼は、その炎球を魔法名とともにこちらに投げてきた。
「炎陽球!!」
フェルナの放った炎球はプロミネンスを飲み込み、ミミに襲いかかった。
ミミは大鎌に魔力を込め、炎陽球を斬り裂いた。
ミミはそのままフェルナに突進していった。
フェルナは不敵に笑い、
「強くなったな」
と言って、紅月を抜いた。
二人は同時に斬りかかり、
ザクッ
という肉を裂く音とともに二色の血が飛び散った。
一つは、人の赤い血。
もう一つは、神虫特有の青い血だった。
「あ・・・あぁ・・・・・・」
ミミは自分がしたことに驚いていた。
なぜならミミはフェルナを大鎌で斬り裂いていたからだ。
彼女はフェルナがきっとよけるか受け止めるかをすると思っていた。
しかし結果、フェルナはよけることも受け止めることもせず、ミミの後ろにいた復讐しに来たであろう
神虫の残党を突き刺していた。
神虫は絶命し、灰となって朽ちた。
「くっ・・・・・・」
フェルナは紅月を放し、倒れそうになったところをミミが受け止めた。
「なんで・・・・・・」
ミミは自分の腕の中にいるフェルナに聞いた。
その目には涙が浮かんでいた。
「なんでだろうな・・・・・・まぁ、可愛い妹のためだろうよ」
フェルナは苦しくて顔が歪みそうなのに、笑っていた。
ミミが斬り裂いた腹部からは血がとめどなく流れていた。
「どうしよう・・・このままじゃ」
「・・・5」
「へっ?」
いきなり意味不明な数字を言ったフェルナに驚き、ミミは素っ頓狂な声を出した。
「何を言ってるの?」
「何って・・・分からないのか?」
そう言って、フェルナはよろよろと立ち上がった。
「敵に囲まれてる」
「そんな・・・いつの間に」
「まぁ、いつでもいいさ」
フェルナはおぼろな眼で敵を見ていた。
「って、そんな体で戦う気?」
「そうだ・・・」
フェルナは紅月を拾い、魔力を込めた。
「無茶よ、そんなボロボロの体で戦えるハズないわ1」
「やってないのにわからねえよ」
あくまで無茶をしようとするフェルナに紅月も呆れた。
「その体で私を使ったら、死ぬわよ?」
「死なない程度にやるさ」
「・・・好きにしなさい」
紅月はフェルナの魔力を自分に取り込んだ。
「・・・俺は、二度と後悔したくないんだ」
フェルナは敵に向かって走り出した。
「ああ、もうしょうがないわね」
その後をミミは追いかけた。
フェルナは敵を確認すると紅月を火炎の剣を振った。
すると炎の刃が神虫に向かって飛び、斬り裂いた。
ミミも自分の魔力を大鎌にのせて、神虫を斬り裂いた。
ミミはどう?と言おうと思いフェルナを見ると、彼は紅い炎を身に纏っていた。
「な・・・何それ?」
ミミがそう聞くとフェルナではなく、紅月が答えた。
「これは不死鳥の力、フェルナに流れる『血』の力よ」
「『血』?どういうこと」
「私にもよくわからないわ、
もしかして、親族の誰かに不死鳥の一族の者がいた?」
「父さんは違うと思う、母さんは・・・」
「知らないの?」
「ええ、母さんは謎の多い人だったから」
と、話している間にフェルナは炎を剣に纏わせて、大きく振りかぶった。
炎の刃は神虫を燃やし、斬り裂いて空へ消えた。
「これで終了だ・・・」
フェルナは紅月をしまい、ミミの方を向いて
「ああ、これで後悔せずにすんだ・・・」
と言って、その場に倒れた。
彼の傷からは血が大量出血していた。
「お兄ちゃん!しっかりして!!」
ミミはフェルナに駆け寄り、体を抱きかかえた。
フェルナは、その声で少し目を開けて
「ミミ・・・今までごめんな」
と言って、彼は完全に意識を失った。