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神々の黄昏  作者: 天魔の担い手
水の国編
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回想~教会に居た日々~ その5

悪魔のようになったグレイバルをフェルナは見つめた。

この姿になったのをフェルナはこれまでに2回知っている。

どちらも国内に魔獣が襲ってきた時だ。

なので多分、人に使うのはこれが初めてのはずだ。


「オレを連れ戻すんじゃないのか?」

「ええ、連れ戻しますよ。

 生きていれば、あとでどうとでもなりますので」


つまり、息をしていれば大丈夫だからそこまで痛めつけるということか。

まあ、あいつにそんなことができる訳が無いと思うが。

実際、あいつがあの姿になって正気を保っていたことなど、1度もない。


(さて、これは本格的にまずいな)


あいつを倒す、または追い返すこともできないこともできなくはないが、今は道具が足りない。


(手持ちはコイツだけだしな)


この剣は魔力との相性が良いため、愛用している。

だができることといえば、刃の強化ぐらいだ。

それに比べグングニルの能力はもう異常だ。


「おっと、そんなのんきに考え事などしてもいいのですか?」


その声に数秒間、グレイバルから意識を外していたフェルナは自分を責めた。

彼の手にはもう、グングニルが無かったからだ。

グングニルの数ある能力の1つの『空間湾曲』。

今のは空間を捻じ曲げてグングニルを投擲したのだろう。

普通ならどこから来るか分からないが、


「そこだ!!」


フェルナは前方を剣で斬り上げた。

剣は高い金属音をたてて何かを弾いた。

弾かれたものは徐々に姿を現した。

それこそが魔槍・グングニルだった。

まさか跳ね返されるとは思ってなかったのだろう。

グレイバルは驚きの表情でグレイバルをその手に戻した。


「・・・まさか跳ね返されるとは」

「お前は騎士だからな。

 どれだけ魔の侵食を受けても、そこは変わらなかったな」


つまりフェルナはグレイバルの騎士道精神を利用したのだ。

曲がったことをしても、結果的には真っ直ぐ前から攻撃する。

そう考えたからフェルナは前に剣を振ったのだ。


「さすが、とでも言っておきましょうか。

 ですが、こんな奇跡は二度と起きませんよ?」

「バカ言え。

 奇跡は起きるんじゃなくて、起こすもんなんだよ」


フェルナはそう言って一気に3つの魔法を展開させた。

但し、全部が別々の魔法だった。

それを見てグレイバルは馬鹿にしたように笑った。


「3属性の魔法を同時展開?

 正気ですか?」

「オレはいつでも正気だよ」


フェルナはまず風の魔法『風絶結界』を発動させた。

『風絶結界』はその名の通り、効果範囲の空間を凪の状態にする。

その次に土属性の魔法『ダストパウダー』を発動させた。

これはただ単に土埃を立たせるだけの魔法だ。

正直この二つの魔法は全く威力のない魔法だ。

それを知っているグレイバルも恐ることなしと見たのか、グングニルに魔力を溜めて勝負を終わりにしようとしていた。

イラもフェルナを助けようと、結界の外から魔法を放とうとしていた。

そう、この場で知っているのはフェルナだけだった。

ここで炎属性の魔法を使うとどうなるのかを知っているのは。

フェルナは勝利宣言をするように、最後の魔法を展開した。


「燃え盛れ、『フレイムバースト』!!」


その瞬間、『風絶結界』のなかで大爆発が起きた。

イラは一瞬何が起きたのか全く理解できていなかった。

フェルナにこの爆発のことを聞こうと思ったら、爆発の煙が一瞬で晴れた。

そこには悪魔の鎧がボロボロになったグレイバルがギリギリ立っていた。


「・・・まさか魔法にこんな使い道があるとはね」


グレイバルは今の現象がどのようなものか、知っているような感じだった。


「オレも最近知ったんだけどな。

 威力を上げるためにどうすればいいかって考えてたら思いついたんだよ」

「つくづくあなたの向上心には驚かされますよ」


グレイバルは苦笑した。

その中でイラは未だにわかっていなかった。

それもそのはず。

この現象を知っているのは王宮で教育を受けたものだけだからだ。


「はあ、さすがはフェルナ様ですね・・・」


グレイバルはそう言ってその場に膝をついた。

もう彼に戦う力は残っていなかった。

グングニルも先程までの輝きを失い、悪魔の鎧も解除された。


「・・・最後に聞きますが、戻っては来られないんですね?」

「ああ、戻る気はない」

「そうですか・・・」


グレイバルは空を見上げ、目を閉じこう言った。


「私はですね、正直どちらでも良いと思っていたのですよ」

「じゃあなんで連れ戻そうとしたんですか?」


そう聞いたのはイラだった。

それにグレイバルは笑って答えた。


「まあ一つは上からの命令があったから、もう一つは半心フェルナ様に戻ってきて欲しかったからですね」

「半心?じゃあもう半心は?」

「フェルナ様には一度、外に出てもらいたかったのですよ」

「!?」


これには一番驚いた。

確かにフェルナは2年前まで王宮のことしか知らなかった。

それは知る必要がないからと言われてきたからだ。

それもこの騎士団長に、だ。


「確かに私は幼少の頃からずっとフェルナ様に外のことを知る必要はないと言ってきました。

 しかし2年前、私は気づいたのですよ。

 フェルナ様は知る必要があると。 

 この王国のことを全てね」

「・・・」

「まあ今となってはどっちが良かったかなんてわかりませんけどね。

 今はこの選択が正しいことを祈りますよ」

「グレイ・・・」

「さあフェルナ様、もうすぐ騎士団がやってきます。

 今のうちに教会に逃げてください。

 彼らにはうまい言い訳をしておきますんで」

「最後に聞かせてくれ」

「なんでしょう?」

「ミミは無事か?」


そこでグレイバルの笑顔が慈しむ者の顔に変わった。


「ええ、無事でございます。

 あなたの身を案じられていますよ」

「・・・そうか」


それを聞いたとき、フェルナの顔が少し緩んだ気がした。

だがすぐに引き締まり、グレイバルに背を向けた。


「じゃあな、グレイ。

 あまり無理すんなよ?」

「あなたに心配されては一番隊隊長の名折れですよ」


そうだな、とフェルナは笑い、イラの手を握った。


「・・・いいの?」


イラはそう問うた。

フェルナはその質問の意味を違えずに


「ああ、それがあいつの願いだからな」


と答え、『疾風』の魔法を展開し、その場から去った。



それを見送ったグレイバルはかろうじて保っていた意識が遠のく感じがしていた。

すこし魔力を使いすぎたようだった。


「まああの人の成長を見られた代金なら、安いもんですかね」


そう言って彼は大地に寝そべった。

もうすぐ騎士団が来る。

グレイバルは最後に騎士団がこちらに来ている気配を感じ、目を閉じ、眠りについた。

その表情はとても戦いに負けた者の顔には見えなかった。

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