回想~教会に居た日々~ その2
魔獣というものは、人外の者を総称して呼ぶ。
地を這うもの、空を飛ぶもの。
種類は様々だ。
だが、どの種にも魔法が使える。
人間と一緒で使える魔法は限られるが、威力は人間よりはるかに高い。
そんな魔獣たちの王が今、フェルナの前にいた。
「・・・」
「・・・」
先程から無言のにらみ合いが続いていた。
魔獣の王は攻撃する意図がないように思えた。
だが、念には念をだ。
腰にさげた剣をぬこうと思ったとき、あちらから喋り始めた。
「安心しろ、危害を加えるつもりはない」
「・・・それを信じろと?」
オレの予感は当たっていたが、それでもまだわからない。
あちらがこちらの油断を誘ってるのかもしれない。
「まあいい。
私がここに来たのは、あることをお主に伝えてやろうと思ったからだ」
「・・・」
オレは返事をせず、魔獣の目を見ていた。
その目は嘘をついているように見えなかった。
「・・・なんだ?」
だから、オレは話を聞く気にやっとなった。
魔獣はオレの返事を聞き、言葉を続けた。
「教会の子供が一人、この森に入ったぞ」
「なんだと!?」
いったい誰が?
そう思っていると魔獣は
「私も教会のメンバーは知っているが、あれは初めて見たぞ」
ということは・・・。
「そいつはどこにいる?」
「森の真ん中の広場だ。
何のためにきたのかはさっぱりだが」
司祭どもが力を見るために送ったのだろう。
それならそれで誰か護衛を付ければいいものを。
「教えてくれてありがとう」
オレは魔獣に礼をし、森の真ん中へと走った。
「おい、待て!」
魔獣の静止の声が聞こえたがそれを無視し、オレは右手で魔法陣を描いた。
風の強化魔法『疾風』。
発動した瞬間、体が軽くなり、オレは木の間を縫うように走った。
後ろに気配を感じるのは、魔獣が追いかけてきているからだろう。
別に気にすることはないだろう。
今は教会のやつの方だ。
もう二度と、あんな悲劇を起こさせない。
オレはもう1段階、加速した。
その頃・・・。
イラは魔獣と遭遇していた。
もともとここに来たのは、魔獣の討伐任務を受けてきたのだが、任務の魔獣は目の前にいるような奴ではなかった。
今目の前にいるのは、任務の魔獣よりも数倍大きく、硬そうだった。
「少女よ、ここに何をしに来た?」
魔獣はイラに話しかけてきた。
イラはそれに答えず、『プロミネンス』の魔法陣を展開し、魔獣に撃った。
その時間。僅か1,5秒。
高等魔法使いの平均時間が3秒なので、その時間は異常である。
『プロミネンス』は真っ直ぐ魔獣へと向かい、直撃した。
大きな爆発を起こし、魔獣は消滅したかのように見えた。
しかし・・・
「・・・挨拶もせずに攻撃するか」
爆発が収まると、そこには先ほどと同じ姿で魔獣が立っていた。
それも無傷で。
「そんな・・・」
「そんな生易しい炎で、我を倒せると思ったのか」
魔獣は口に魔力を集中させた。
「さあ、お返しだ。
塵も残らず消し飛べ!!」
魔獣には固有の魔法『咆哮』というものがある。
魔法使いの高等魔法と同等以上の威力と攻撃範囲の広さを誇るそれを今放とうとしていた。
最悪なことにイラは防御魔法を一切使えなかった。
今から逃げようにも、もう遅かった。
「くっ・・・」
ここまでか・・・。
やっと新しい仲間と暮らせると思ったのに。
イラは目を閉じ、咆哮が放たれるのを静かに待った。
だがいつまでたってもその時は来なかった。
代わりに
「グハッ!!」
という魔獣の声が聞こえた。
恐る恐る目を開けると、そこには魔獣の腹に剣を突き刺している人がいた。
しかもその人は見覚えがあった。
確か
「・・・フェルナさん?」
数分走っていると、開けた場所が見えてきた。
それと同時に強い魔力を感じた。
フェルナは直感で魔獣が咆哮を放とうとしていると気づき、剣を抜いた。
森を抜けると、魔獣は直感通り咆哮を放とうとしていた。
その射線上には教会の新入りが立っていた。
「あの馬鹿!!!」
フェルナは疾風によって強化された跳躍力で10メートル飛び、魔獣の腹めがけて剣を突き刺した。
「グハッ!!」
だが剣は思ったよりも突き刺さらず、致命傷を与えることはできなかった。
すぐさま剣を引き抜き、フェルナは間合いを取った。
「この頃の人間は礼儀がなっとらんな」
「よく言われるよ」
そんあ軽口を叩きながらフェルナはイラを背に庇うように立った。
「あの・・・フェルナさん?」
「ちょっとミッションカードを見せてくれ」
そう言うとイラはミッションカードをフェルナに差し出した。
ミッションカードは教会から与えられた任務が書かれたカードのことだ。
そこに書いてある討伐対象にフェルナは目を通した。
そこに書かれていた魔獣は低レベルのものだった。
「なるほど、イレギュラーってわけか」
フェルナはミッションカードをイラに返し、剣を構えた。
「イラ、少し離れてろ」
「え、でも・・・」
「言っただろ、コイツはイレギュラーだ。
お前が相手をする必要はない」
それはフェルナも同じでは?
そう思ったがイラはそれには逆らわず、後ろに下がった。
「次はお前が相手か?」
魔獣はなんと今まで待っていてくれたらしい。
意外にサービス精神旺盛だなと思いつつ、
「そうだ、さっきの奴とは違うから覚悟しとけよ」
「楽しみにしているよ」
あ、そうだと魔獣は思い出したように
「オレの名はイシュタルだ」
と名乗った。
「オレはフェルナだ、特に覚えなくていいぞ!」
フェルナも名乗り返し、その瞬間に一気に間合いを詰めた。
そして剣を横に構え、足を薙ぎ払った。
だがそれは空を切った。
イシュタルはノーモーションで十数メートルを飛び、上から炎弾を撃ってきた。
それをフェルナは刀身に魔力を込め、全て斬り刻んだ。
だが、それはダミーだった。
イシュタルは長大なしっぽを落下と同時に地面に叩きつけた。
それを寸でのところでかわし、再び間合いを取った。
「ふー・・・」
息を吸い、フェルナはイシュタルを見た。
傷という傷はなく、なおも余裕そうに立っていた。
「お前もその程度か?」
「いや、まだまだイケるぜ」
「そうか」
イシュタルは再び咆哮の準備を始めた。
それも先ほどとはケタ違いの魔力量だ。
「これを受けきれるか!」
その魔力はまだまだ膨れ上がっている。
先程は不意打ちで止めることができたが、今度はそうもいかないだろう。
それに・・・
「フェルナさん・・・」
後ろにはイラもいる。
・・・受けきるしかないか。
フェルナはもう1度深呼吸し、そして
「来いよ、受け止めてやる」
イシュタルはにやっと笑い、そして
「グラァーーーーーーーーーー!!」
咆哮を放った。
咆哮は真っ直ぐにフェルナに放たれ、そして
大爆発を起こした。
・・・とイシュタル側ならそう見えただろう。
しかし、イラと魔獣の王側からならこう見えた。
圧倒的な炎が咆哮を防いでいる、と。
炎は咆哮を飲み込み、消した。
イシュタルは驚いた。
まさか人間ごときに自分の咆哮をとめられるとは思わなかったのだ。
しかしそこにいた。
炎の翼を持ち、全身に炎を纏った人間が。
「さて、ここからは手加減なしだ」
この時が初めてだった。
イシュタルが人間に恐怖を抱いたのは。
「消えろ」
フェルナは片手を上げ、大きな炎弾を作った。
その炎弾は密度も高い、炎だった。
その炎を見て、魔獣の王は驚いた。
なぜなら、その炎と同じ炎を持つ者にあったことがあるからだ。
そいの者とは・・・
「セイラと同じ、不死鳥だと・・・?」
フェルナは手を振り下ろし、炎弾をイシュタルに撃った。
恐怖で動けずにいたイシュタルは避けることも受けることもできず、炎に飲み込まれた。
「グハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
断末魔の叫びをあげ、イシュタルは塵と消えた。
フェルナはそれを見届けると炎を消し、イラたちに振り返った。
「さあ、これで終わりだ」
フェルナはそう言って、その場に倒れ込んだ。
いや、倒れこむ前にイラが支えた。
心配そうに覗き込んだイラはすぐに安心した。
「スーー・・・」
ただ寝ているだけだったからだ。
全く、と思いつつ、イラはそのまま寝かせてあげようと思った。
――まあそれから3時間起きなかったのはおいておこう。
回想編はあと1、2話で終わる予定です。
つまらないですが、飽きずに読んでください