正義と悪
酒場に迷彩服の男がやって来た。約半年間の特別訓練を修了して、初めてエルディオスの街に訪れたフロランだ。仲間を3人引き連れて意気揚々と入って来る。まるで常連客かボスの縄張りであるかのように立ち振る舞い、通路にいた客を押し退けて、そのまま一直線にカウンターに向かう。
フロラン「酒をくれ」
マスター「あんた新入りかい?それにしちゃ強そうな見た目をしているな」
コスプレイヤーのハニッシュとデュアにカクテルを作らせ、フロランの目をまっすぐに見つめた。
「よせよ、そっちのお姉ちゃんと見つめ合うのならいいけどマスター、オレは男には興味がねぇ」
フロランは素っ気なくカクテルを手に取るとテーブル席に座った。
「そうだ、忘れてた。博士がチーム名を考えてくれてたんだよ。このメモに書いてあるチーム名を正式に登録しといてくれねーか?ピム、メモ渡しとくぜ」
そういうと仲間のひとりにメモ用紙を渡した。
バーカウンターの横にある大型モニターでネオグライドを観戦する。白熱した試合と酒場にいる客たちの歓声で胸が高鳴なり、戦場の風景が回想する。
「思い出すな~、武器も昔とあんまり変わってねぇ。しかし、音がチートだな。あんな軽い音じゃねーよ」
フロランは葉巻を取り出すと先端をギロチンでカットした。口に咥えた葉巻にライターで火をつけて吸い始める。その態度のデカさが気に入らなかったのか近くにいた男がフロランに絡む。
「おい、お前は新入りじゃねーか?悪いがここの島でデカい態度を取りたかったらオレたちのチームに勝ってからにしな」
フロランの顔にギリギリまで顔を寄せて男が言い放った。
「ほう、お前は何て名だ?一応、聞いといてやる」
フロランが微動だにせずに言葉を返す。
「オレの名前はエドメ、上位ランカーだ。お前みたいなヒヨッコが話せる相手じゃねーよ」
その威勢のよさ、態度を見て、フロランが考える。
戦場で命を懸けて戦って来た男からすれば仮想現実のサバイバルゲームなどお遊びに等しいが、しかし、これで金を稼いで名前を売っている奴がいることを鑑みるとバカげているがプライドを持つことは間違いではない。相手は大真面目にケンカを売ってきている。
「エドメ、オレはフロランだ。お前の言い分はよく分かった。ここは男らしくネオグライドのフィールドで戦おうじゃないか。オレが勝ったらお前が持ってる武器を寄こしな」
男は戦いの中でしか分かり合えない、それがフロラン流の哲学だ。勝ったほうが正義、負けたほうが悪。いつでもその答えは決まっている。どんなに残虐で非道であっても正義には逆らえない。
正義こそが最強の悪なのだから・・・。
つまり悪と悪の戦いしか存在していないのだ。
小隊で敵のアジトを攻めたとき、男と子供を殺した。10人しかいない部隊で100人以上いる敵のアジトに向かい、真夜中の奇襲攻撃を仕掛けた。それは成功した。成功していなければフロランを含む10人は速攻殺されていただろう。勝ったほうが正義である。相手が寝てるか起きてるかなんて関係ない。
敵のアジトにいる100人の中で殺さなかったのは20人の女だけだった。
オレたちも生きるか死ぬかの極限状態で、幻覚を見る奴、視力を失う奴、聴力がなくなった奴、いろんな奴がいた。
ストレスだけで人間の体の機能は失われる。
そのストレスを緩和する慰みを与えてくれるのは奇しくも敵国の女だった。捕虜にした女をどうするかなんて誰も気にしちゃいない。レイプしても殺しても誰も文句を言う奴なんていなかった。なぜなら負けたほうが悪なのだから・・・。
毎日、とっかえひっかえ20人の女とSEXする。時には複数の女を同時に抱いているときもあった。その女たちも生きることだけを考えて逆らわない。それがその女たちにとっての正義だった。
わかっているはずだ、もし逆らえば次の日の朝を迎えられないことぐらい。つまり否応なく敵国の男に抱かれるしか生きる道は残されていないのだ。どんなに泣きわめいても残酷な現実は変わらない。
そいつらは捕虜として扱われるか正式に味方に寝返るかの決断を迫られる。捕虜のままだったらいずれ死ぬ。SEXに飽きた頃にあっさり殺される。味方に寝返れば女はハニートラップとして訓練され、敵国の男どもを誑かし重要な情報をリークさせる。
オレたちがエリアA15の拠点に向かったときに爆発したように・・・。つまりあれは仲間の誰かがハニートラップに引っかかっていたということになる。落下傘部隊が降りる地点からそう遠くないところにトラップが張られていた。そのときの正義は?もちろん敵のほうにある。負けたオレたちが悪だ。だから、多くの仲間が死んだ。
だが、それも終わったんだ。ラチエ博士が言うように時代は変わった。仮想現実の世界、エルディオスの街に来てオンライン・サバイバルゲーム『ネオグライド』に参加すれば金が手に入る。上位ランカーになれば名声も手に入るしスポンサーがついて企業の広告塔になれば装備に企業名が入っただけで収入が跳ね上がる。人類の主戦場は、e-sportsへ舞台を移したのだ。
フロランが率いるチーム『UNIT-8』とエドメが率いるチーム『The Living Corpse』がお互いに対戦希望を出して、ネオグライドへの参加をエントリーした。
退役軍人フロランの戦いは終わらない・・・。




