V-HUB
初のネオグライドは惨敗してしまったノアたち。即席チームで勝てるほど甘くはなかった。酒場に集まり大型モニターでネオグライドを観戦する。熟練者たちの戦い方は統制が取れていてムダがないように思えた。制限時間は3分、ゲームの回転は早い。次から次に参加するチームが切り替わっていく。
ノア「みんなイイ武器持ってるなぁ」羨ましいより関心のほうが強かった。「ゲームに参加して賞金を稼げば武器も買えるさ。武器を買ったらオレが持っている素材を分けてやるから錬成しな」ファン・ロイがノアの気持ちを察した。
アントン・ケイ「チーム名を決めませんか?何か案があればどうぞ」鞄から紙とペンを取り出して執筆する準備を進める。
レナータ・ライ「私はあなたたちに任せるわ」相変わらずの塩対応だ。
ノア「そうだなぁこれからどんどん強くなってスキルアップしていきたいから、そういうチーム名がよくない?」「具体的には?」箇条書きでスキルアップと書きながら質問を返すアントン・ケイと悩んで腕を組むノア。「オレもチーム名には興味がない。お前らに任せるよ。次あったときにチーム名を聞かせてくれよな」ファン・ロイがそういうとフェードアウトして消えた。
「ああ、そうだ。ロイさん今日は用事があるとか言ってたな、時間が来たらフェードアウトするって・・・」アントン・ケイが酒場に集まったときにファン・ロイに言われた言葉を思い出した。
ノア「じゃあふたりでチーム名を考えようか?とりあえず明日、酒場に来たときにいくつかチーム名を出し合おう」席から立ち上がり、体を伸ばしてノアが手を振りながら酒場をあとにした。アントン・ケイが取り出した紙とペンを鞄にそっと仕舞う。
弱小チームほどチーム名にこだわりを持たない。上位ランクのプレイヤーたちのチーム名は神々しさまで感じるほどに洗練されていて、そのチームメイトはチームの名に恥じないプレイを心がけている。そこには上位ランカーのプライドがあった。初心者たちが通る通過点に彼らは立っていた。
ノアがチーム名を考えながら中央公園の噴水を横切って奥へと進む。噴水の奥には幾重にもリングが重なり合った地球儀が時空錨の施設の頭上に光り輝いていた。ここがすべてのはじまりの街『エルディオス』だ。そのシンボルともいうべき地球儀が空に光輝き、その下には常に行き交う人々が絶え間なく歩いていた。時間帯によっては人が多すぎて歩道の向こう側が見えないほどだ。その集まった人々を避けながら広場を抜けて行く。英会話スクールにドローンバイクの教習所、料理教室にボクシングジム、仮想現実の中に企業が運営する店舗がちらほら存在していた。ノアのお気に入りはゲームショップ『V-HUB』だ。
建物の外観はタワー型PCの形を模している。青い光のラインが左右に2本鮮やかに走り、建物中央の丸い起動ボタンに『V-HUB』のロゴが浮かんでいる。この建物を見て入らないゲーマーはいないだろう。ノアが酒場に居ないときは、この通称”ブイハブ”に入り浸りになっている。建物の外観に一目惚れして以来、お気に入りの場所となり今でも初入店したときのドキドキ感は忘れられない。
夜になるとV-HUBの屋上ではレイヴパーティが開催され、いろんな国のダンスと音楽が体感できる。ここは仮想現実の世界だがドラッグが流行り、現実社会の風紀の乱れは度々ニュースで取り上げられるほど問題視されていた。会場で話しかけてくる怪しい男はバイヤーだ。できるだけ若い子をターゲットにして話しかけている。興味本位でバイヤーからドラッグを買うと自宅までドローンが飛んで来て小さな小包を落として去り、スマートフォンに『配達完了』と表示されている。
「なんだろう?」と思って段ボールを開けるとさっき仮想現実の会場でバイヤーから買ったドラッグが自宅に送り届けられていたことに気づき「せっかくだから・・・」と強いドラッグをキメてダンスをすると幻覚と幻聴が始まり、乗り物酔いを起こして自宅の室内で嘔吐する。仮想現実の世界では女の子のアバターが急に四つん這いになったように見えるが現実世界では女の子が部屋の中でゲロを吐いている。アバターの若い女のケツを見ながらパーティを楽しむ、それが風物詩となっているようだ。
そっちは18禁なのでノアが立ち入ることはできなかった。13才ぐらいから出入りしている若い男女もいるらしいがそいつらのIDは偽装したもので表の世界では手に入らない。ダークウェブサイトで売買されているIDはアカウント所持者が死亡して死亡処理のあとにアカウントが削除されなかった貴重品(?)レアアイテムらしい。
今日はV-HUBの前を通りすぎてさらに街の奥へと進んでいく。ノアがスマートグラスのAIに話しかける「今、僕たちのチーム名を考えているんだよね。何かヒントを与えてくれそうな施設ってないかな?」数秒の沈黙のあとAIが話し始める『それなら歴史博物館はいかがですか?人類が歩んできた歴史を知ることで何か新しい発見があるかもしれません』「なるほど、じゃあ歴史博物館までナビしてくれる?」『はい、承知しました』こうしてノアは歴史博物館へ向かった。




