寝返り
「ほうほう、この瓶にはUSBポートが付いているのか・・・なるほど、どれどれ」
ドミンゴ博士は脳が入った瓶のUSBポートにケーブルを差してノートパソコンと接続する。
次に専用ソフトのインストールを始めた。
台車に載っている機器のメーカーと型式がわかれば必要なソフトは自ずと見えてくる。
遠隔監視用モニターのソフトが必須となっていた。
ソフトを立ち上げて、そこに映し出された映像はこの研究所だった。
「ん?どういうことだ。防犯カメラが私を映している」
ドミンゴ博士を見下ろす形で映像が映っているが(どういう仕組みになっているのだろうか?)
そんなところに防犯カメラがあるのは不自然すぎる。
ドミンゴ博士が見上げると天井に防犯カメラがある。なぜか不自然な位置に設置されているように感じた。(この違和感はなんだろう?)
遠隔監視用モニターの右側のチャット欄に「オレが見ている目線だよ」とコメントが打ち込まれた。
ドミンゴ博士はハッとしてもう一度、防犯カメラを見上げた。
「この映像は、この脳が見ている目線だったのか・・・なるほど」博士もチャットを返す。
「キミは一体、誰なんだい?」
「オレはフロランだ。戦争で体を失ってラチエ博士に助けてもらった軍人だよ」
フロランはこの際、もう自分を名乗ったほうが助かる見込みがあると踏んでドミンゴ博士に歩み寄ることにした。
「フロラン、なるほど。キミはイシドール・ラチエ博士の実験体ということになるね?」
単刀直入にドミンゴ博士がフロランに訊く。
「まぁそういうことになるな、今の状態はオレにとってそう悪くない」とフロランはチャットを返した。
「どうして、あの防犯カメラの映像がこのモニターで見えているんだい?」
「それはオレがドローンで侵入したからだ。防犯カメラ型のドローンだよ。本当は偵察に来たんだがオレの本体が回収されたから、オレはこっち側につくことにした」
フロランはあっさりと寝返ったことをドミンゴ博士に伝える。
「ほうほう、面白い・・・なるほど」アゴに手を当ててドミンゴ博士が考える。そして、フロランにチャットを送った。
「復讐したくないか?」
――― 1時間後 ―――
ノートパソコンには音声ボイスチャットの機能が追加され、チャット欄に書き込まれた文章は音声ボイスに変換されるように仕様が変更された。
ドミンゴ博士はピンマイクとイヤフォンをつけてフロランとの会話を試みる。
「キミにやってほしいことがあるんだ。これはキミじゃないとできないことだからね、フロランくん」
ドミンゴ博士の優しい言葉はラチエ博士から聞いていた人物像とはかけ離れていた。
紳士的で穏やかなイメージだ。
「オレにやってほしいこと?脳しかないオレにできることなんてあるか?」
「フフフッそうだね、キミには脳しかない。でも、それがいいんじゃないか」
ドミンゴ博士が不敵な笑みを浮かべた。
ドミンゴ博士は防犯カメラ型のドローンを手の平に乗せて話しながら歩く。
「戦闘用アンドロイド07の調子が悪くてね、AIがどうしても馴染まない。
どういう不具合があってそうなっているかもわからないんだ。そして、このアンドロイドが載る予定だった戦闘用ロボットがあるんだけど、これをキミに乗ってもらいたいんだ」
博士が立ち止まり、目の前には巨大なロボットがそこにあった。
足元には4本のタイヤがあり、両腕には物を掴むことができる可動式の強力なクランプが付いている。
戦車のような装甲に手足をつけたような見た目をしたロボットだ。
胸元に『07』の号機番号が浮かぶ。
「なんだ?これ、カッコイイじゃねーか」フロランは思わす声を漏らした。
「フフフッ乗ってみたいかい?これでもかなり軽量化したほうなんだよ。時速も80キロまで加速できる」
博士はフロラン専用に改良することを約束した。
フロラン「ぜひ乗りたいね」まんざらでもない様子だ。
疑似現実のことをドミンゴ博士に話し、フロランにとっての現実世界はそこにあることを伝えた。
「その話は実に興味深いな、なるほど」ドミンゴ博士はアゴに手をついて深く考察する。
(恐らく脳だけの存在に疑似現実を与えなければ脳が現実を受け止めきれずに暴走する。現実に似た領域が必要なのがわかる。
ゲームをプレイするときのように一人称画面で自由に自分の意思で動かせる世界があれば案外、人間はそこを現実と認識する・・・なるほど)
一方、SSBRのブルック専務と秘書のゲレーテはカジョ・レオンとエロディ・シャリエールの個人情報をすべて聞き出していた。
念のためにNEXA MILITECHのIDカードのデータもパソコンに取り込んである。
ケネス・ブルック「悪く思わないでほしい。私もこれが仕事なんだ。しかし、お互いに世界大戦のときと状況は違い、政府に支配された世界にいる。もう戦争屋のビジネスは存在しない。
私はNEXA MILITECHと新しい関係を築いていきたいと思っているんだ。どうだい?」
この問いかけに対してカジョ・レオンの答えは『ノー』だったがエロディ・シャリエールが沈黙する彼の代わりに応えた。
「ええ、私たちも実はそう思っていたの。
武器や兵器は売れなくなったし、そろそろ違う方向へ進むべきよね。
もしブルックさんのような方とパートナーになれるなら私たちはなんでもやるわ」
にこやかな笑顔にブルックの機嫌は良くなった。
双方合意という契約書にサインを書かされ、NEXA MILITECHがSSBRに協力するという内容が記載されていた。これはつまりケネス・ブルックの心理テクニックを用いた罠だった。
断れば警察に突き出されるし、合意すればSSBRに対して敵対的な行動は取れなくなる。そして、何よりこのふたりはNEXA MILITECHでの立場を失う。
カジョ・レオンとエロディ・シャリエールが生き残る道はスパイのようにNEXA MILITECHの情報をSSBRに提供することだった。
ケネス・ブルックは不敵に笑う。
『利用できるのものはなんでも利用する。これでネクサミリテックをコントロールする糸口が掴めた』
彼の心の中でドス黒い野心が動き出していた・・・。
https://note.com/hiroumimetavarse/n/n30727c81a2b8?app_launch=false
画像はnoteに置いています。




