ブラックジョーク
――― 疑似現実 ―――
「オレはどうなるんだ?まさかRV車の荷台に載っている機器とオレの脳が入った瓶を運び出すとは思わなかったぜ」
フロランが疑似現実の研究所でAIのラチエ博士と会話をしている。
「恐らくキミの脳を弄り倒すだろうと本物のラチエは言っていたよ。ラチエも狂人ではあるがパストル・ドミンゴと比べればまともに見えるだろうな」
SSBRが持つ技術の研究開発を第一線でやってきたパストル・ドミンゴは世界大戦のときに残虐非道な武器と兵器の開発をやっていた人物として知られている。
捕虜になった兵士に自白させるためと称して様々な人体実験を行っていたがその当時の政治家たちはそれを知りながら目を瞑っていた。
『あの博士に捕まるぐらいなら死んだほうがマシだ』と研究所に行く前に自害した捕虜も少なくない。
実際に左脳と右脳をつなぐ脳梁を切断したり、快楽ホルモンが出続ける薬を打ち続けて廃人にしたこともあった。
そんな正気の沙汰とは思えない非人道的な行いをするドミンゴ博士も若い頃は真面目な好青年だった。
博士は若くして結婚し幸せな家庭を築いていたのだ。
SSBRの研究者としてはそれほど目立った特異なところは一切見られなかった。
ある日を迎えるまでは・・・。
――― 青年時代のパストル・ドミンゴ ―――
「じゃあ行ってくるよ」
若き日の新婚生活を満喫しているパストルは妻のアマリアに玄関先でキスを交わしてからSSBRの施設に出勤するのが日課だった。
「あなた忘れ物はない?」
小さな気遣いができるアマリアはとても素敵な女性だった。いつも朝は微笑みながらパストルの出勤を見送る。パストルが机に忘れていた鞄を持ってきて「これは?」と言うとハッとした表情でパストルが鞄を受け取った。
「ありがとう、アマリア」
ハグをしてからパストルは玄関を出て行くのだった。
研究所の資料の整理や研究結果をレポートにまとめるのが彼の仕事だ。
普通に働いているサラリーマンで何の変哲もない日常を送っていた。
研究所ではパッとせずプライベートも地味な生活を送るがとくに不満はない。
パストルが妻と暮らす家はパストルの祖父母と家が近く、よく父親がアマリアの作ったご飯を食べに遊びに来ていたが、その度に「早く孫の顔が見たい」と言っていた。その父親は釣りが趣味の優しい人だった。
その当時は北大西洋条約機構が世界の平和を維持するために活動し東南アジアや北半球で小競り合いをする国々と戦争を繰り広げていた。
常にどこかの国が武力を持ち、テロリストになることもあれば敵国になることもあった。その規模は大小問わず、NATOが争いの鎮静化に力を注いだ。
パストルからすれば無関係な戦争だったはずがNATO加盟国の内のいくつかの国がNATOを離脱すると同時に大規模な武力行使を行い、世界を分断する”Xデー”が突然起きた。
加盟国32ヶ国の内の約半分の国が反旗を翻して近隣諸国への攻撃を仕掛け敵地殲滅を開始した。
NATOの支配率は、この地球の70%以上に及んでいたがそれが突然35%まで引き下げられ、今まで従順だったはずの味方の国のコントロールも効かなくなって世界大戦へと発展することになった。
その原因は各国に入り込んだカルト宗教がどんどん勢力拡大していき、カルト宗教を隠れ蓑にしたスパイが暗躍することによって世界の平和は崩される形となってしまった。それは後の調査結果でわかっている。
民主主義の国の政治家を垂らし込み、「信者の票を集めて当選させてあげる」と耳元で囁いた。若いモデルのような女たちが政治家を囲んで、毎晩SEXをする。
薬の服用と複数の女による乱交プレイで政治家の理性は完全に飛んでしまった。
言いなりとなった操り人形は誤った国の政策を通して国民を地獄に導いた。
軍事産業メーカーの『Strategic Systems & Black Research』通称SSBRとNEXA MILITECHは過去最高益を更新すると同時に敵を倒すための効果的な方法を模索していた。
『一体どうすれば敵が自滅するか』が研究対象となっていき、コストをかけずに敵地に広がる薬によって爆撃や兵士の現地投下以外の方法で『敵は自滅するか?』が次第に試され、これが次世代の研究開発のテーマとなった。
各国が爆撃に使うミサイルを大量生産すると鉄の流通量を圧迫し世界中から鉄製品が姿を消した。
SSBRの研究所の予算は年々増額され、人員の増加が著しく、業績が右肩上がりゆえに飲み会も多くなった。パストルは仕事が終わったらすぐに妻の元へ帰りたかったが新人歓迎会も含めた飲み会となると断り切れずに参加することも屡々あった。
新人歓迎会の飲み会の席で先輩の研究者から全員に配られた手土産を持って、酔っぱらって家に帰ると妻に呆れられてしまった。
「アマリア、今、帰ったよ。これ手土産だ。受け取ってくれ」
パストルはそのときの記憶をなくしていたが確かに先輩が飲み会の席で何か説明していたというのは覚えている。それも酔っぱらっていたので何を説明されたかまではわからない。
次の日、いつものように妻とキスを交わして家を出る。
妻はパストルが朝食を食べた後の食器を洗って片付け、洗濯が終わった衣類を集めて物干しに掛けていった。その後、リビングで手土産の包装紙を破ると中身は箱に入ったお饅頭だった。
夕方、玄関のチャイムが鳴りドアを開けると祖父が釣った魚を氷を敷き詰めた発砲スチロールの箱に入れて持ってきて「おい!でかいのが釣れたぞ」と嬉しそうに話している。
「まぁすごく大きな魚、よく釣れたわね」アマリアも嬉しそうに笑顔で返事を返した。
祖父がリビングのソファに座ってデカイ獲物を釣ったときの様子を得意げに語る。
アマリアは紅茶を用意して旦那が手土産に持って帰ってきたお饅頭を祖父と一緒に食べようと皿に2つずつ取り出してテーブルの上に置いた。
「おお、なんだ?饅頭か、アジアの食べ物は珍しいな。世界大戦が始まってからそういうのはめっきり見かけなくなった」
祖父は息子が研究員として仕事をがんばっている姿を想像して誇らしく思う。
一口饅頭を食べた「おお、これはうまい。アマリアも食べてみろ」
そういうとまた一口食べる。
アマリアも一緒に饅頭を食べて「ほんと美味しいわね」と饅頭の味覚を楽しんだ。
しかし、包装紙と箱の隙間に入っていた注意書きをアマリアは見落としていた。
注意書きには『先輩より、このお饅頭は観賞用です。決して食べないでください』と書かれている。
このお饅頭は、研究所の先輩の『新人歓迎会のブラックジョーク』だった。
その中には快楽を促す成分と幻覚作用を引き起こす成分が含有されている。
その効果は遅延して起きる。それに気づかずアマリアと祖父はすべての饅頭を食べてしまった。
――― 20分後 ―――
ふたりが見ている部屋の景色が歪む。意識が朦朧としている。
快楽物質の作用でふたりは笑顔のままヨダレを垂らし祖父はアマリアが性欲を強く求めているように感じた。いつもより体のラインが強調されているように感じる。脳が活性化し五感が鋭くなっていることに気づいていない。アマリアの髪の香り、肌の艶、仕草、すべてが愛おしい。
アマリアもまた理性が飛び『今は誰とでもSEXしたい』と思うほど気持ちが高ぶっていた。次第にふたりは体を寄せ合って本能のままにSEXをしてしまう。
それはまるで野生の動物のようにお互いが求めるがままに抱き合い、本能が感じるままに心を解放していた。
誰も止めることができない衝動と快楽・・・・。
パストルは家路につき、玄関で物音がしていることに気づいた。
寝室の明かりがついている。
「アアッ・・・ア・・・アーン」
(誰の声だ?物音もするぞ)
警戒しながらゆっくりとドアを開けて家の中へ入った。
その後、祖父と愛する妻アマリアがベッドの上で抱き合っている姿を目撃してしまった。
激しくお尻を突きあげられてパンパン音が鳴っている・・・。
いつもの優しく穏やかな妻はそこにはいなかった。
そこにいるふたりはパストルが知っているふたりではなく、まるで野生の動物が盛っているかのようだった。
希望に溢れていたパストルは絶望した。彼は天を仰いだ。
「おお、神よ・・・」
この世でもっとも信頼していた人物ふたりを同時に失ってしまった。
この光景は10年経ってもPTSDとしてフラッシュバックしている。
そのため心療内科に行き精神安定剤やカウンセリングを受けることでなんとか自我を保つことができたが現実を受け入れることを拒否する自分がいた。
それでも妻と別れることはできなかった。
祖父はその後、自殺してしまったが何十年経ってもパストルは罪の意識を持ち続けている。
それは自分の過ちだと深く反省しているのだ。
それから軍事産業の研究と開発が彼の生きがいとなった。
誰かを痛めつけずにはいられない衝動に駆られた。
SSBRは国のお墨付きということもあって敵国の捕虜に対する人体実験や新薬の投与も”技術開発”の名の元に許された。
捕虜が苦痛に叫ぶ姿を見て、パストルはそこに自分の姿を重ね合わせていた。
自分よりも不幸な人間を見て安堵していたのだ。そこから彼の異常性が始まった。
https://note.com/hiroumimetavarse/n/nbd7dde3a44c9?app_launch=false
画像はnoteに置いています。(衝撃的なエロさ・・・かも)




