打算
「ドミンゴ博士、そっちにSSBRの部隊を2人向かわせたが荷台に載っている瓶に入った脳はラチエ博士の研究所からRV車で運ばれて来たものらしい。調べたら何かわかりそうか?」
ブルック専務はドミンゴ博士に調査を指示した。
「今、私の手元にあるよ。一応、調べてみるが・・・何かわかったら連絡する」
ドミンゴ博士は素っ気なく応えた。渋々、タブレットPCを手に取ると荷台に載せた機器のメーカーを検索する。
メーカー、型式、仕様がわかれば、だいたいどんなものか見当がつく。
ドミンゴ博士にとって造作もなかった。
手際の良さ、頭の回転の早さ、探求心、どれを取ってみても一般人の洞察とは一線を画していた。それをドローンの映像でフロランが見て焦る。
(ヤバイ!これは非常にマズイことになった。オレの本体がここにあるということは研究所には帰れない。それどころか瓶とつながった機器のバッテリーがなくなったらオレの脳の活動が停止する)
フロランはすぐに疑似現実にアクセスしてAIのラチエ博士にありのままを伝えた。
「なるほど、それは非常に厄介なことになってしまったな。RV車の回収も困難だがキミの回収はもっと困難な状況に陥っている。私がキミを救う手立てはないようだ。現実世界のラチエに伝えるが彼の判断はもっとドライだと思うよ。期待しないでくれ」
疑似現実にいるAIのラチエ博士は本物に現状を報告した。
「それなら・・・まぁ仕方がない。フロランは諦めよう。SSBRのドミンゴ博士は彼を弄り倒すだろう」
AIのラチエ博士より本物のほうがドライだった。
元々、研究対象としか見ていなかったフロランの安否など心配する素振りもない。
自身の保身だけを考えているのだ。
そんなことよりもSSBRの不正を暴き、国に報告して軍事産業メーカーとしての権限を奪うことのほうが博士にとって最重要事項だった。
元は捕虜になった敵兵の自白剤として使用されていた快楽ホルモンが分泌する薬があった。
NEXA MILITECHから『街で若者たちが遊びで使う流行りモノに改良してほしい』と依頼され、Neon Dustを開発した。
それが街で流行ると今度はSSBRにナノテクノロジーのAIを混ぜることを依頼され、多額の報酬に目が眩んで引き受けてしまったが、そこから話は拗れている。
最初、博士はNEXA MILITECHが収益の黒字化をしたことでSSBRが嗅ぎつけて来たのかと思って警戒していたが、その予想は違った。彼らの悪の方向は、そちらではなかった。
SSBRが求めたものは、社会の混沌だったのだ。
ライバル同士の軍事産業メーカーが衰退して”職がなくなる”ことを危惧して、生き残りを賭けて秘密裏に進めた収入の糸口は決して世に公表できるものではなかった。
どちらも世間にバレたら一発アウトである。その研究開発の資料はラチエ博士の研究所にある。
博士の身に何かあったときや研究所自体に何かが起きたときを想定して、疑似現実のほうにAIの博士を常駐させ、研究資料のコピーもそこに隠している。
NEXA MILITECHとだけ取引していればこんなことにはならなかったのにSSBRの依頼を引き受けたことで恨みを買って命を狙われるハメになってしまった。
ナノテクノロジーのAIの開発を私がやったことがバレたら本当の終わりだ。
私は消されるだろう。
Neon Dustという流行りの薬を傷モノにしてしまったのだから・・・。
混ざりモノがあるNeon Dustを使用するとナノテクノロジーのAIが脳内に侵入して、使用者の脳をハックする。
脳とAIが融合したユーザーをハックしているのはSSBR傘下の『The Code Divers』だ。
途上国に潜伏するハッカー集団で得体が知れない。
ハックされた人物のアカウントIDやパスワードは『The Code Divers』の手によってSSBRにあるパソコンの専用ソフトにアップロードされる仕組みになっている。
もちろん博士のパソコンにもその専用ソフトは入っているがアルファ版だ。
SSBRは独自にベータ版を製作したらしい。
仮想現実が主流となった世の中でアカウントIDとパスワードが流出するということは旅先で使ったクレジットカードのIDとパスワードが流出して不正利用されるのと同じぐらい危険がある。
住所、名前、生年月日、電話番号が晒され、それだけではなくデジタルアセットの横流しや身に覚えのない買い物まで様々な弊害が出て取り返しのつかないことになるのだ。
もしナノテクノロジーのAIをNeon Dustに混ぜたことが国にバレたら、それもまたほう助の罪に問われ、私は刑務所に入れられるだろう。
Neon Dustの開発者というのがバレたらもう二度と私は表に出て来れない・・・。
「イヤだ・・・」
SSBRの依頼だったとはいえ実行計画の主犯者として罰を受けることになる。
もしそうなればSSBRは『そんなことは頼んでいない』とシラを切るに違いない。ならばSSBRが秘密裏に開発を進めている戦闘用アンドロイドや兵器を国に密告して、SSBRを潰してしまえば私の助かる道は残されている。博士の打算が頭の中をグルグルとまわり始めた。
刑務所に入るか暗殺されるか、どちらにしても良い未来はなさそうだった。
行き着く先が頭を過ぎる。
https://note.com/hiroumimetavarse/n/n51285be87688?app_launch=false
画像はnoteに置いています。




