偵察
――― 疑似現実 ―――
フロランとAIのラチエ博士が研究所にいる。現実世界の博士から常時SSBRの内部情報は共有され、SSBRの地下1階に大きなアンドロイドが秘密裏に製造されていることが明かされた。
「なるほど、面白くなってきたな博士」
フロランはSSBRが企てる国家転覆を狙った動きに驚嘆したがそれと同時にそれを渇望している自分がいることに気づいた。その情報の開示によって心が躍り、それは自分が待ち望んでいたかもしれないという微かな期待でもあった。
「もしSSBRの地下1階にあるアンドロイドが戦闘用であるならば国は黙って見過ごすわけにはいかないだろう。その証拠があれば直ちに政府の手によってSSBRは解体されるはずだ」
なんとか首の皮一枚のところでラチエ博士はNEXA MILITECHから命を狙われずに済みそうだとわかり安堵の表情を浮かべた。
「心配しなくてもオレが博士の代わりにまたSSBRに偵察に行ってやるよ。まさか瓶に入った脳が偵察に来ているとは誰も思わないだろうよ(笑)」フロランが自虐しながら笑った。
「よし、頼んだぞ。私の身に何かあればお前も一緒に死ぬことになる。この研究所も何もかもが終わりになるんだ」
頼みの綱はフロランだけだった。彼がいなければSSBRへの侵入は不可能だといえよう。
「それより博士、前に話してたNeon Coreはできたかい?」
フロランが話題を変えた。Neon Dustを服用した後に発動させることでアバターにAIを搭載させることができる代物のことだ。前に開発したNeon Coreは疑似現実の博士の研究所から何者かによって盗み出されてしまった。
「ああ、Neon Coreはできている。今度、ネオグライドに参加したときに使うがいい」
博士が球をフロランに手渡した。その球の内部には電気が迸り、紫の稲妻が中心から絶え間なく放出されている。
「そうそう、これこれ。これが欲しかったんだよ」
フロランがニヤリと不敵に笑い、球をポケットに仕舞った。
――― SSBR専務専用オフィス ―――
秘書のゲレーテがブルック専務のスーツのネクタイを締め直していた。
ブルック専務の首元に左手を回し上目遣いでそっと右手をネクタイに添える。
そこにいるのはただの男になったケネス・ブルックだった。
毎日にようにキスをして抱き合い、お互いに愛を確かめては寄り添う。彼女はそっと彼の首元に極小のクモに似た機械を取り付けた。恋は盲目、あの冷徹非道だと噂されていたケネス・ブルックも好きな女の前では従順だった。上機嫌で彼女のやることはなんでも受け入れている。
――― 現実世界ラチエ博士の研究所 ―――
博士が大きなRV車にまたたくさんの機器を積み込む。
遠くから双眼鏡でそれを確認しているのはカジョ・レオンとエロディ・シャリエールだった。
無人のRV車が走り出すと急いでカジョ・レオンたちは尾行を開始した。
「やっと動いたわね」
エロディがしびれを切らしたように言う。
「待ったかいがあったようだ。あの車にはきっと秘密があるはずだ」
無人で走り出した車がどこへ向かっているのかはわからないが博士の焦っている姿から想像すると何か重要な意図があることは間違いないようだ。それをカジョ・レオンたちは突き止めようとしていた。
大きなRV車はSSBRの施設の近くにある路上のスペースに停車した。
2~3台ほど車が縦列できるほどのスペースを空けてカジョ・レオンが車を停める。
カジョとエロディは双眼鏡でまたRV車を覗き込む。
RV車の窓が開き、小型のドローンがSSBRの施設のほうへ飛んでいくのが見えた。
相変わらず車からは誰も降りる気配がないようだ。
「あれは一体、誰が操縦しているのかしら?」
彼女は無人のRV車がただの自動操縦のようには思えなかった。まるでそこに人がいて操作をしているように感じられたのだ。さっきまで動いていたRV車が止まり、今度はドローンが動き出す。人為的な操作を疑った。
ふたりは車を降りてRV車のほうへ近づき、そっとドアに手を当てて開けようと試みるが車のドアはロックされていた。
カジョ・レオンは手に持っていた双眼鏡を暗視スコープのモードに切り替え、スモークガラス越しに中を覗き込む。
「なんだ?これは・・・エロディ見てみろ」
そこには荷台に積まれた装置とガラス瓶に入った脳があった。
暗視スコープで中を覗いてエロディ・シャリエールは言葉を詰まらせた。
「これって・・・もしかして生きてるの?」
この日、カジョ・レオンとエロディ・シャリエールはガラス瓶に入った脳がSSBR施設を偵察していることを知ることとなった。
https://note.com/hiroumimetavarse/n/n1b59a53e519b?app_launch=false
画像はnoteに置いています。




