盲目な仔羊
『UNIT-8』がネオグライドに登場すると酒場で闇賭博をしている連中たちから歓声が上がった。
電光掲示板に表示されたオッズを皆が一様に眺める。オッズは跳ね上がった。
対戦するのはノアたちのチーム『Lv.BEYONDER』と上位ランク『The Blind Lamb』さらに他には中堅クラスのチーム1組が参加している。
MCが会場を盛り上げるために順にチームを紹介してゆく。
盛り上がり次第では莫大な資金が投入され勝ったチームの賞金は大幅に増額される。
ネオグライドは賞金と物資を賭けた戦いだが、そのゲーム性が薄汚れたイメージを払拭していた。
『Lv.BEYONDER』のノアとレナータは以前に購入したハプティックスーツを初めて着用して、あまりの嬉しさに浮足だっていた。
何度も鏡を見ながら最新の触覚スーツの感触を確める。着心地は最高に良い。
仮想現実で土を掘れば本当に土に触れたようなザラザラ感があり、水に触れれば水が手をすり抜けていく感触がある。
安いスーツとリストバンドでは味わえない本物の感触を体感した。エルディオスの街を通り抜けていく風が気持ちいい。
「ハプティックスーツ、なんて気持ちいいんだ!」
ノアが叫んだ。
(もし、この感触でレナータに触れれば・・・堪らないだろうな)
ネオグライドのAIが場所を選択する。
戦車や戦闘機、戦闘ヘリが散りばめられたフィールドが選ばれた。
フィールド説明のテロップが消え、いよいよゲームがスタートする。
フィールド『ミリタリーデポ』
カウントダウンが始まる『3、2、1、GO!』スタートの合図の空砲が鳴ると同時に各チームがフィールド中央を目指してローラーブレードで滑走してゆく。
『UNIT-8』のフロランたちが名もなき中堅チームを蹴散らして前線を陣取る。
フロラン「なんだ、同じランクだからもっと強いと思ってたぜ!さっきのチームにはガッカリだ」
通信をライブに切り替えて仲間と連携を始めると少し離れたところにいるピムにハンドサインを送って『前に行け』と指示を出した。
彼らの獲物は『The Blind Lamb』である。
さっき倒した中堅チームの戦い方に呆れて上位ランクに標的を移した。
ライフルのオートフォーカスで『UNIT-8』が、こっちに向かっていることを察した『The Blind Lamb』のゴットヘルフは「ナメやがって」と呟き、『UNIT-8』がこちらを標的にしたことをすぐに仲間に報告した。
「構わないよ。いいじゃないか、迎え撃つ準備はできている。お前らいいね?」
女帝エルナが貫録のある声でチームメイトに伝えると振り返り、後方に姿を消した。
一方、『Lv.BEYONDER』のノアとレナータも『The Blind Lamb』のスタート地点に向かうが、その道中で『UNIT-8』と鉢合わせとなった。
戦車の影に隠れていたピムとフロランがサブマシンガンで応戦する。
ノアはふたりが撃つサブマシンガンを曲芸のようにかわしながら戦闘機の影に隠れた。
ノア「サブマシンガンを持った敵がふたり、残りのふたりはここにいないよ」
通信をライブにして仲間に伝えた。
アントン「狙撃手がふたりいますね。こちらから100m後方にライフルを構えているのが確認できました」
『UNIT-8』で前線にいるのはフロランとピムだけのようだ。
もし敵の罠に引っかかっても2人は生き残るようにわざと距離を空けているのだ。
ノアとレナータはフロランたちと応戦しながら少しずつ前に進んで行くのだった。
フロラン「なんだ?あいつらの動きは・・・同じ中堅クラスでもさっき倒したチームとは雲泥の差だ」
フロランは『Lv.BEYONDER』のふたりに興味を示した。
『Lv.BEYONDER』と『UNIT-8』は拮抗したまま、気づけば『The Blind Lamb』のスタート地点付近にやって来ていた。
2組が応戦しながら女帝エルナとチームメイトを探す。
ハンドガンやサブマシンガンでは弾が届かない中距離からアーロンが狙撃してきた。
それを警戒して避けると次はゴットヘルフが素早く狙撃してくる。
さらにそれを避けるとシードルが狙撃してきた。
次々に角度を変えながら動いた傍を撃って来る。
その行き着いた先にはポッカリと空いた空間があった。
周囲の遮蔽物が不自然に途切れた、まるで罠のような場所だ。
戦車や戦闘機、戦闘ヘリが散らばったフィールドにあるほんの少しのポッカリと空いた空間・・・。
3人からのけん制攻撃によって2組はお互いの距離が近くなり、より緊迫した状態になってしまった。
お互いが目の前の敵で手いっぱいという状況、その状況を作るのが『The Blind Lamb』の目的だった。
フロランが気づく「これはマズイな」
実戦経験が長かった軍人の勘が働いた。これが何かの戦術であることを察した。
一方、後方で狙撃のために待機していた『UNIT-8』のノエルとセシルは『Lv.BEYONDER』のアントンとファンのふたりとライフルの応戦合戦を繰り広げていた。
仲間のふたりが接近戦、残りのふたりは遠方からの狙撃というスタイルの2組が戦ったとき、接近戦同士が戦い、遠方で待機している狙撃同士が戦うことはよくある。
これがまさにそういう戦いになっていた。
ノアとレナータ、フロランとピムは4~5mの距離を保ちながら応戦していたがそこに突然、上空で甲高い音が鳴り響いて近づいてくる。
「何だ?」
ノアが驚いて空を見上げた。
それに釣られて他の3人も空を見上げると大きな煙を噴き上げながらミサイルが飛んできていた。
「逃げるぞ!レナータ」
ノアは咄嗟にレナータを抱きかかえて全力で疾走した。
その速度はあまりにも早く、さっきまで応戦していた動きとはあまりにもかけ離れていた。
上空からのミサイル攻撃。
「ヤバイ!逃げるぞ」
フロランたちもこれには堪らず逃げ出した。
ミサイルが着弾して爆発すると周りにあった戦闘機と戦車は爆風によって向きが変わり、戦闘ヘリはコケて機体が横滑りした。
ピム「なんという威力!あれではひとたまりもありませんね」
「おい!気を抜くな、本番はこれからだ」フロランがピムに言葉を返した。
『The Blind Lamb』の3人の狙撃部隊は武器をライフルから両手持ちのハンドガンに持ち替え、フロランとピムを取り囲んでいたのだ。
「チッ!囲まれたか」
フロランたちはアーロン、ゴットヘルフ、シードルの3人と至近距離で撃ち合いをはじめたが、その撃ち合いの最中にまた上空から甲高い音が鳴り響き、その音がだんだん近づいてきていた。
『UNIT-8』のピムは一瞬、その音に気を取られアーロンの弾丸を浴びて消えた。
「しまった!」
ピムが撃ち抜かれた後、声を漏らした。
そこに残ったのはフロランだけとなってしまった。
3人の連携の取れた攻撃は凄まじく、誰かを狙って撃とうとすれば他の誰かが積極的に近づいて攻撃してくる。
気を抜けない状況が絶え間なく続く、そして、さっき上空から飛んできたミサイルはまったく違う場所に着弾して爆発した。
「クソ、やられたぜ!」
フロランはその戦術に気づいた。
1発目のミサイルはオレたちのいる場所に着弾したが2発目のミサイルは『The Blind Lamb』の仲間がオレたちの近くにいることがわかっているから、敢えて着弾する場所をズラしたんだ。
さっきピムが上空に気を取られたように相手の注意を逸らすことが目的だったことを理解した。
これには経験豊富なフロランも舌を巻いた。
3人の敵に囲まれて逃げ場を失い、絶体絶命のピンチである。
手に持っていたサブマシンガンを捨て、サバイバルナイフに切り替えた。
そして、敵のひとりゴットヘルフに向かって一直線に走りだすとナイフを振り回して銃を撃つヒマを与えず、間一髪のところでゴットヘルフが避けるとそのままフロランは走り去って逃げた。
これこそがフロラン流の無駄のない逃走経路である。
『The Blind Lamb』の3人は呆気にとられて追うことはできなかった。
単独行動で勝てるような相手ではないことは動きを見ればわかるのだ。
https://note.com/hiroumimetavarse/n/n36b0b6e3c248?app_launch=false
画像はnoteに置いています。




