飢えた狼
研究所の裏に停めてある大きなRV車に朝から博士は荷物を積み込んでいく。
台車に乗った荷物を車に移して装置の前で何やら作業を始めた。
チューブやケーブルを機器と繋いでいるのだ。
「よし、これで設定は終わった。あとは任せたぞ」
そういうとハッチバックの後部ドアを閉めて少し後ろに避けた。
無人のRV車のエンジンがかかり車が走り出す。
それを博士が見送った。
一方、フロランはエルディオスの街へ行き、ネオグライドにエントリーしていつもの場所に向かうとカウンター越しのマスターに「強い酒をくれ」と言って度数の高いボトルをアゴで差し示した。
彼の体験は五感のすべてが機能している。酒の味も本物だ。
これも意識が疑似現実にある特性なのだ。試合にはエントリーしたが自分たちの出番が来るまでに時間があった。暇つぶしに酒を飲みながら仲間と闇賭博に参加することを決めていた。
フロラン「そろそろ試合が始まるな」
大型モニターにライブ中継された映像を見ると|A・I・W《アリス イン ワンダーランド》がネオグライドに参戦している。
下位クラスから上位クラスまでの複数のチームの戦いになり闇賭博のオッズが跳ね上がった。
ゴシック&ロリータの女、ジェニー・アリスが率いる『A・I・W』は上位の中でも下のクラス、中堅上位とは実力は僅差だった。
どちらが勝つのか予想が難しい試合となっている。
MCがゲームを盛り上げる「上位にいるのは『A・I・W』です。
メンバー構成はこちら!ジェニー・アリス、影丸、忍丸、千代丸となっています」
MCの左手が差し示す先には『A・I・W』のチームがスタート地点で待機していた。
MCはマイクを持ち替え、右手側にいるチームを差し示した。
「続いてお次は『The hungry wolf』だ!メンバーはジャンピエロ、リネー、ミクラージュ、ハリスンです。
とくに最近、頭角を現してきたルーキーに拍手!」
そして、MCは他の下位のチームも次々に紹介してゆくのだった。
MCは人工知能だが現実世界の証券会社から中堅上位がいる試合では「場を盛り上げてほしい」と頼まれていた。
闇賭博のオッズも跳ね上がって盛り上がっているが、それ以上に世界中の金持ちが”結果が予測できない面白い試合”に大金を賭けたくてウズウズしていた。
その依頼元を糺せば世界屈指の有名な資産家に辿り着く。
MCは多額の報酬をもらって、その依頼を引き受けた。
『A・I・W』と『The hungry wolf』は見た目も戦闘スタイルも対極のチームとなっている。
前者が統制の取れた完全なチームワークだとすれば、後者のほうは無法者の集まりである。
たしかに対戦カードとしては面白い。どちらが勝つのか予測不能だ。
証券会社からすれば、これはショービジネスとして成立する。
法の抜け道を通って独自の金儲けを企んでいるのだった。
ネオグライドを運営するAIが場所を選択する。
石垣やコンクリートの囲いが多いフィールドが選ばれた。フィールド説明のテロップが消え、いよいよゲームがスタートする。
フィールド『コンクリートジャングル』
カウントダウンが始まる『3、2、1、GO!』
スタートの合図の空砲が鳴ると同時に各チームがフィールド中央を目指してローラーブレードで滑走してゆく。
コンクリートの囲いに隠れて撃ち合いが始まった。下位から上位までのチームが集まった対戦は珍しい。
新規プレイヤーが集まったチームが短期間に下位から一気に順位を上げたことによって起きる現象だといわれている。
プレイヤーの間では別名『道連れ現象』とも呼ばれ、いつも下位クラスは上位クラスの生贄だ。
結局、残るのは中堅クラスに上り詰めたルーキーと上位ランカーだけである。
さすがに下位のチームは武器が弱い。経験値が低いためどんどん仲間を削られていった。
下位の中では上位だとしても中堅以上とは歴然の差があった。
3つの下位チームはあっけなく蹴散らされ、予想通り『A・I・W』と『The hungry wolf』の一騎打ちとなった。
フィールドの中央付近で『A・I・W』が場所を陣取り、『The hungry wolf』は単独行動でメンバーはバラついていた。
「よくあんな戦い方で勝ち上がってきたな」
ジェニー・アリスが仲間と通信をライブにしてしゃべっている。
影丸「お気をつけください、アリス様。
奴らの戦い方は予測不能です。
どちらかというとNeon Dustをキメて、ふざけて戦っている可能性すらあります。
さっき倒したハリスンという男の動きはまるでゾンビでした」
フィールドの中央から『The hungry wolf』の他のメンバーが見当たらない。バラついている敵を倒すなら今がチャンスだ。
千代丸「私が周囲を見て参りましょう」
そういうと千代丸はフィールド中央から『The hungry wolf』の拠点のほうへ向かった。
恐らくスタート地点に待機している奴がいるだろうという予想である。
「よし、忍丸。千代丸の援護を頼む」
ジェニー・アリスが忍丸に命令した。
「御意」忍丸は姿を消した。
「影丸、お前はここに残れ。中央から私を追ってくる者がいれば迎え撃て」
ジェニー・アリスは下位チームのスタート地点の探索へ向かった。
影丸はアリスの背中を心配そうに見つめているが、忍びは主君の命令に逆らわない。
姫様こそが絶対である。
千代丸が『The hungry wolf』のスタート地点に来たが、周りには誰もいないように見える・・・。
が、しかし、背後からいきなりサバイバルナイフで切りつけられた。
「キャッ!」
予期せぬ咄嗟の出来事に声を漏らす。
「全身黒い服で顔が隠れているから男だと思ってたけど女だったのか?」
リネーは、なぜか足元がフラついている。倒れ込むように千代丸を上から押さえつけた。
「イイ体してるじゃん。揉ませてよ」
欲望のままに千代丸の衣服をサバイバルナイフで切り裂いていく。
千代丸は両手が押さえられて身動きが取れず思わず叫んだ。
「イヤァー!」
その叫び声がこだますると同時に『ドスッ』という鈍い音がした。
リネーの胸元から刀の刃が飛び出し、前のめりに倒れて消えた。
後ろからリネーを刀で一突きしたのは忍丸だった。
忍丸「大丈夫か?千代丸。手を貸そう」
リネーが消えたあとに落ちたドロップアイテムを拾い、それを胸元に仕舞って千代丸を抱きかかえて立ち上がった。
一方、ジェニー・アリスは下位チームのスタート地点のふたつ目を探索していた。
「おかしいな、どこにもいない・・・」
そのとき壁だと思っていたところから男が現れ、ジェニー・アリスに抱きついた。
そのまま羽交い絞めにされ身動きが取れない!
突然の出来事に振り返るヒマもなくジェニー・アリスは押さえ込まれてしまった。
「不覚だ・・・」
「アリス、お前のおっぱい超気持ちいい♪最新のハプティックスーツの感度はMAXにしている。この日のために新調したんだ」
羽交い絞めにされて後ろが見えないがどうやら『The hungry wolf』のリーダーであるジャンピエロのようだ。
「このクソ野郎!放せ!」
アリスは激怒した。
ジャンピエロはジェニー・アリスにロープを巻き付けて動けなくしたまま胸を揉みしだく。
酒場の大型モニターで見ている観客たちにもその醜態を晒した格好になってしまった。
ジェニー・アリスは恥じらい、世界中で観戦している大衆にこの光景が見られていることを想像して思わず目を閉じた。
常軌を逸した奴は強い。
その強さは誰の目も憚らぬ強さなのか、それともルールを無視した戦い方によるものか、どちらにしても欲望を満たすための参戦だったというわけだ。
『The hungry wolf』は初心者プレイヤーと女にめっぽう強かった。
その特性を活かして勝ち進み、素材とドロップアイテムを錬成して武器を強化して、のし上がってきた。
だが、その運と強さは、ここで尽きようとしている。
ロープをかけられて自由を奪われ、後ろから胸を揉まれている状態から脱するためにジェニー・アリスは膝をできるだけ高い位置まで持ち上げてガーターベルトに忍ばせていたナイフを手に取った。
そのナイフをジャンピエロの太ももめがけて思いっきり刃を立てた。
「ぎょえー!痛ぇー!」
ジャンピエロが思わずしゃがみ込む。
その隙にアリスはロープを切り落とし、武器選択画面を表示して素早くスクロールし相棒を選んだ。
戦闘ヘリ、大型車両の後部に搭載するミニガンM134が三脚付きで目の前に現れる。
『The hungry wolf』の戦い方は壁と同化して敵が油断するのを待ち、敵が背を向けたときに背後からサバイバルナイフで切りつけるという戦法だった。
そのときロープで相手を束縛してより確実に倒すという戦い方をしていたが飢えた狼は欲望に忠実なため女性プレイヤーがいたらなりふり構わずに背後から抱きついていた。
もはや理性が飛んだあとは勝ち負けなど考えていなかった。
明らかにそれはNeon Dust中毒者たちの蛮行だ。
敵との距離が1m以内であれば銃よりナイフのほうが強く、彼らの戦い方はそれを無意識に実証していた。
ただ欲望に身を任せた蛮行が勝率を上げる理論と合致していただけの話で彼らが理性でそれを選んだわけではない。
ブチ切れたジェニー・アリスがミニガンM134をジャンピエロの股間に狙いを定めて捨て台詞を吐く。
「最新のハプティックスーツの感度をMAXにしてお前イキたいんだろ?
私の手でイカせてやるよ!!!」
そのヤバさに気づいたジャンピエロが我に返った。
「あっ、ちょっとま・・・」
既に手遅れだった。
ジェニー・アリスがぶっ放したミニガンM134の弾丸をすべて股間で受け止め、現実世界のジャンピエロはあまりの激痛に気を失った。
『最新のハプティックスーツは現実に近い感触を味わえる優れものです』
観戦モニターにスポンサー広告が小さく差し込まれた。
『A・I・W』は、この戦いに勝利して女性人気が上がったという。
ジェニー・アリスの女性ファンは急増した。
https://note.com/hiroumimetavarse/n/nf6be22a018ba?app_launch=false
画像はnoteに置いています。
今回、ちょっとエロいです。




