利害関係
フロランの脳が入った瓶の中で黒いNeon Dustが溶液に触れて溶けだした。
化学反応によって黒いNeon Dustから小さな気泡がブクブクと溢れ出す。
ラチエ博士はそれを眺めながら測定器の観測を続けた。
フロランの脳波は異常値から正常値へ徐々に治まりつつある。
それを見てラチエ博士は安心したようにホッとため息をついた。
研究所のインターフォンが鳴る。ピピピッ♪
「誰だ?今日は何も予定はなかったはずだぞ」
博士がセキュリティモニターで確認するとそこには予期せぬ訪問者が立っていた。博士はそのことに苛立ちを覚えた。
「クソ!奴らか。良いところだったのに!」
急いでフロランの脳が入った瓶に布を被せ、ガラス越しに見える研究室の扉をロックした。
乱れた服装を整えると客人を出迎える。
ラチエ博士「おお、これはこれは、どうぞ中へ入りください」
インターフォン越しに挨拶を交わし、玄関の扉のロックを解除すると博士はエスプレッソマシンのスイッチを入れ、客人にコーヒーを入れる準備を整えた。
しばらくするとぞろぞろと10人の団体様が来られたようだ。
彼らはNEXA MILITECHの幹部連中だ。衰退した軍事産業メーカーの生き残りである。Neon Dustを作らせた張本人がやってきた。
持ちつ持たれつの関係というべきか、どちらもこの利害関係が切れなかった。
この国の政治をAIが行うようになり、政治家との癒着や談合もできずうま味を失い他の軍事産業メーカーは廃業に追い込まれていった。
ミサイル開発がなくなり武器が売れなくなってNEXA MILITECHも赤字経営が続いて破綻寸前だった。
そこで、この幹部連中がとった行動はイシドール・ラチエ博士に連絡を取り自白剤に使われていた強力に高揚感が得られる薬を合成麻薬として品種改良して欲しいというものだった。
作られた合成ドラッグはNeon Dustと呼ばれた。
次第に若者たちはレイヴとバーチャルSEXでNeon Dustを使うようになっていた。
――― 数年後 ―――
NEXA MILITECHの赤字は消えた。
軍事産業メーカーが直接、巷にアッパー系のNeon Dustを流通させることは世論が許すわけがない。
そこで登場したのがバイヤーの存在である。それも仮想現実で暗躍する奴らだ。
彼らから買ったNeon Dustは無人のドローンによって送り届けられる。
そのドローンは政府のセキュリティを搔い潜って購入者に商品を届ける小型のドローンに作り変えられている。
この所有者不明のドローンはNEXA MILITECHの倉庫に山ほど転がっていた。
このドローンの改良にも博士は関わっているのだった、多額の報酬と引き換えに・・・。
博士は、エスプレッソマシンで作ったコーヒーをカップに注ぐと
「どうぞ、混ざり物は入っておらんよ」
皮肉を込めたブラックジョークを言いながら軍事メーカーの幹部連中に美味しいコーヒーを振る舞った。
博士も席に座り、話を聞く体勢に入る「で、要件は?」
その問いを待っていましたと言わんばかりに幹部のひとりカジョ・レオンが話し出した。
カジョ・レオン「最近、Neon Dustを使った若者が事件に巻き込まれたみたいなんだ。
なんでも仮想現実に入るアカウントをハッキングされたとかでね。名前は・・・たしか」
そう言いながら隣にいるスーツ姿の女性のほうに目配せをした。
スーツ姿の女性がカジョ・レオンの代わりに話を続ける。
エロディ・シャリエール「彼女の名前はエリーサ・ホンコネン。Neon Dustの購入履歴が残っています。
彼女の住所のログデータもドローンに入っていました。その後、行方不明になり、マンションの家賃が未払いになっています。
そのときなぜかそのマンションに出入りしていた男がいて、ニュースで報道されたのでご存じだと思いますが警察が家に突入したタイミングで爆発事故が起きています」
カジョ・レオンが立ち上がりファイルを読み上げてくれたエロディ・シャリエールの肩を軽く叩いて「ありがとう」と言って博士の目の前にある机に座り直した。
カジョ・レオンは博士を見下ろしている。とても冷たい表情だ。
「どうも最近、おかしなことが起きているように思うんだ。
男はエルディオスの街でバイヤーと接触を図り、刑事に追われて仮想警察庁に連行された。
どんな取り調べを受けたかまではわからない。しかし、その直後に生身の男のほうで爆発事故だ。
行方不明になったエリーサ・ホンコネンはNeon Dustの購入者だった。それ以外にも未遂に終わった事件もあってな、博士」というとカジョ・レオンは指を鳴らした。
複数の男が博士を羽交い絞めにして押さえつける。
「何をするんだ!やめろ!」
博士はジタバタしながら抵抗する。その耳元でカジョ・レオンが囁く。
「もしNeon Dustに混ぜ物が入っていたら、どうなるかわかってるだろうな?
サンプル品に混ぜ物を忍ばせることができるのは博士だけだ。それも開発段階でな。
高度なハッキングが実際に起きている。作業者みたいなバカどもにそんな真似はできない。
わかるだろ?博士」
そういうとカジョ・レオンは手を振って、男たちに博士を解放させた。
「私がそんなことするわけがないだろ。今まで築き上げてきた信頼関係はなんだったんだ?
お互いに協力して、ここまで来たはずだ」
博士が幹部連中を睨みつけ怒りを露わにする。
カジョ・レオン「今日のところは引き下がろう。しかし、おかしなことはそれだけじゃない。
あのフロランがネオグライドで活躍していることを耳にした。
まだ奴をどこかにかくまっているのか?
上半身しかないあいつをどうするつもりなんだ?
何を企んでいるのか知らないがNEXA MILITECHが被害を被るようなことあればうちのボスが黙っていない。それだけは覚えておけよ」
そういうとNEXA MILITECHの幹部連中はぞろぞろと研究所から出て行った。
最後尾を歩いていたカジョ・レオンは振り返って博士に言う。
「オレたちが重傷患者を根回しして博士に渡したんだ。その恩を忘れるなよ、博士」
そっと扉を閉めて去って行った。
博士はヘナヘナとその場にしゃがみ込み、自身の研究がバレることを懸念した。
https://note.com/hiroumimetavarse/n/n872f66d6e5b8?app_launch=false
画像はnoteに置いています。




