Trance Jump
『Lv.BEYONDER』が酒場に集まった。ノアとレナータが頭を抱えている。
ふたりはテーブルに肘をついて頭を押さえて水を飲む。
「イテテッ・・・」
辛そうなノアとその横で同じように頭痛に苦しんでいるレナータの姿があった。
「お前ら大丈夫か?」
何があったのかさっぱりわからないといった様子のファン・ロイが声をかけた。
「ふたりとも頭痛ですか?まだ若いし遊び過ぎたんですね、きっと」
アントン・ケイがふたりを気遣う。
しかし、ネオグライドの対戦の予約は既に入っているので戦わないわけにはいかなかった。
体調管理と気分や調子を整えておくことがプレイヤーとして生き残るためには必要だった。
「まぁ仕方ねぇ。オレとアントンでなんとかするからお前らはやられても気にすんな。それより頭痛薬を飲んで早く治しな」
ノアとレナータはファンに感謝した。さすがにふたりがこの状態ではファンとアントンも戦いにくいだろう。
おまけに複数いる対戦相手のうち2つのチームは中堅上位にいる奴らだ。
『Lv.BEYONDER』に勝ち目はない。
「ファンとアントン。ほんとゴメンね」
頭を押さえながらノアが声を絞り出して謝った。横でレナータも頭を下げた。
自分が発した声さえも頭痛に響いて痛い。
レナータが声を発せられないほど頭が痛いのもよくわかる。気持ちを察するよ。
ネオグライドの対戦時間の3分前になったので僕たちは控室に転送した。頭痛と吐き気に見舞われながらギリギリそこで踏ん張っている。手が震えて照準が合わない。
(ヤバイなぁ、これ。今の状況だとまともに戦えない。恐らくレナータも同じだろうな)
チラッと彼女のほうを見るとロッカーに持たれかけたまま腕を組んで微動だにしない。
目を閉じて瞑想しているようだ。
一瞬だがレナータのアバターに縦の平行な線模様が走ったように見えた。
(アバターが一瞬だが消えるほど細くなったように見えたぞ・・・!?)
(なんだ?気のせいか・・・。これも僕の頭痛が原因かもな)
声には出さなかったが彼女のアバターに異変があったように見えた。
これはもしかしたら僕の頭痛が幻覚を見せているのかもしれない。原因はわからないが・・・。
時が来た。『Lv.BEYONDER』はフィールドに転送された。
フィールドにはたくさんのドミノが並んでいる。
目の前の空間にフィールド説明が流れ、それが終わると『ドミノワールド』と表示された。
テロップが消えカウントダウンが始まる『3、2、1、GO!』スタートの合図の空砲が鳴ると同時に各チームがフィールド中央を目指してローラーブレードで滑走する。
中堅チーム『戦術研究所』リーダーはパーヴェル、その仲間はダールマン、ユリエ、エリーヌだ。
もうひとつの中堅上位は『Iron Rain』リーダーはペール、その仲間はデオフィロ、レオ、キリルだ。
ドミノの影に隠れながら撃ち合いが始まった。ノアも巨大なドミノの影に隠れながら撃ち合いに参加する。
(それにしてもさっきから頭痛と吐き気がスゴイのだが・・・く、苦しい)
「クソー!ゲームに集中できない」
その場にうずくまり倒れ込んだ。頭を押さえ、身震いしている。
現実世界のマンションの一室でノアはうずくまり成す術がない状態となっていた。
同じようにレナータもドミノの影で、うずくまり倒れ込んで頭を押さえているのだった。そして、また彼女のアバターに縦の平行な線模様が走る。
今度はその時間が異常に長い。
近くにいたアントンが彼女を心配して声をかけた。
「大丈夫かい?リタイアするかい?」
しかし、その心配をよそに彼女はスッと立ち上がった。
「大丈夫。戦いはこれからよ」
さっきまでとは別人のようにレナータは機敏に動き始めた。
アントンはレナータの顔つきが変わったように感じた。
冷たい表情になり目に狂気が宿っていた。
「気のせいか・・・」
そう呟いたアントンが彼女を守るように援護射撃で敵が近づけないように予防線を張る。
アントンの護衛を気にせず彼女は敵に近づき、両手に持ったハンドガンで中堅上位の敵を翻弄して倒していく。
さっきまで頭痛で苦しんでいた人間とは思えない動きで敵を倒すレナータ、1人、また1人と・・・。
アントン「スゴイ!一体、何があったんだ?ほんとにあれがレナータなのか・・・」
今までに見たことがない彼女の軽やかな動きに驚きを隠せなかった。それはあまりにも人間離れしていた動きだった。もはや曲芸に近い。
敵の包囲網を突破して上空に跳ね上がると体をくねらせながら横回転をして前後にいる敵を同時に撃ち抜いて倒した。まるで野生の動物のような瞬発力と動体視力だ。
一方、ノアはドミノとドミノの間に隠れて、藁をも縋る思いで持っているアイテムの中から使えそうなものを探していた。
アイテムの中にNeon Coreと表示された球を偶然みつけた。
「なんだ?これ。あの球じゃないか!?」
その球はV-HUBでぶつかった男が落していったあの球だった。
まさかネオグライドで使える球だったとはノアは思いもしなかった。
「アイテムの取扱説明書を表示して」
スマートグラスのAIに話しかける。
『これはNeon Dustの使用者が持つことを発動条件にしたNeon Coreです。発動できますがどうしますか?』とAIが応答する。
「なんだ・・・それ、まったく意味がわからないぞ。まぁいいよ。じゃあ発動して」
ノアがNeon Coreを発動させた。
(ワンチャン、もしかしたらこれが頭痛薬だったりして・・・それはないか、仮想現実だしな)
発動した球は光輝き、球を持ったノアの手に融合し始めた。
「うおっ!なんだ、これ。僕の体に融合しているぞ!」
アバターと球が融合して手の中に溶け込んでしまった。
球は消えたが体には何の変化も起きていない。
(あれ?なんだったんだ・・・!?)
何も状況は変わっていない。
「チクショ!子供騙しのアイテムかよ!」
そう叫ぶとふらつきながら立ち上がった。しかし、さっきの頭痛は随分マシになっていた。
(ほんとに頭痛薬だったとか?そんなわけないよな・・・それだったら草生える)
Neon Coreがノアのアバターに融合したが現実世界に影響を与えるような代物だとは考えにくい。少なくとも頭痛薬には見えなかった。
(きっとネオグライドのゲーム内で影響が出るはずだ)
この時、ノア自身が気づいていなかったが物理法則のパラメータに異変が起きていた。
やっと頭痛が治り、戦う準備が整った。
両手にハンドガンを持って、遅れを取り戻すためにノアが巨大なドミノの間を滑走する。ドミノが倒れて戦った痕がある場所を通り、人の気配を追う。
そこは『戦術研究所』のパーヴェルとその仲間たちが罠を張った領域だった。
「しまった!」と思ったのも束の間、既に倒れたドミノの周りはパーヴェルとその仲間に囲まれていた。
『戦術研究所』のメンバーが一斉に煙幕弾をノアのほうに向かって投げつける。煙幕弾の使い方は二種類ある。ひとつは敵にぶつけて逃げるため、もうひとつは敵にぶつけて、敵がその煙を避けるために飛び出してきたところを迎え撃つため、今回の煙幕弾の使用は後者のほうである。
この煙幕弾はノアが煙に巻き込まれて堪らずに飛び出してきたところを迎え撃つためにある。
『戦術研究所』は、獲物が罠に引っかかるのをずっと待っていた。
流石、『戦術研究所』というべきか、一番やられたらイヤなやり方をやってくる奴らだ。
いつもならこういった罠に引っかかったときはノアはあっさり敵にやられていた。しかし、今日は違ったようだ。
(あれ?なんかあいつらの動き、遅いな・・・)
そう思いながら『戦術研究所』のメンバーが一斉に投げつけてくる煙幕弾を避けながらノアはハンドガンで反撃した。一番距離が近い女子ふたりに弾を撃つ。
自身が放った弾の動きもなぜかスローモーションになっている。
弾丸がクルクルと空気を切り裂きながら進んでいくのがはっきりと見える。
(何かがおかしい・・・・)
敵に着弾するまで時間があるから男のほうに向けてまた銃を構えて撃ってみた。
投げつけられた煙幕弾が床に落ちて煙が広がる。煙の動きもなぜかゆっくりに見える。
ノアはドミノの影に隠れて様子を見ることにした。
体感で5秒ぐらいが過ぎたころに女子ふたりが叫ぶ。
「きゃ!」
「いやぁ!」
ノアが発射した弾が当たって姿を消した。そして、さらに体感で2秒遅れで男が叫ぶ。
「クソッ!」
そして、男も姿を消した。
中堅上位の『戦術研究所』のリーダーであるパーヴェルが狼狽える。
「おいおい!ウソだろ。動きが速すぎて見えないぜ。なんでオレの仲間が3人同時にやられているんだ。解せぬ!」
その言葉でやっとノアは自分の変化に気づいた。
(あいつらの動きが遅いんじゃないんだ、きっと。僕の動きが速すぎるんだ!)
状況を理解した。
試しに巨大なドミノの影から飛び出してパーヴェルを狙って撃ちながら横に移動した。
弾4発が一直線にパーヴェルのほうに向かって飛んでいくのが見える。
弾丸はゆっくりと回転しながらパーヴェルのほうへ飛んでいくとパーヴェルの体に3発ヒットした。
ドミノから飛び出したノアにパーヴェルは反応していなかった。目線がドミノのほうを見たままだ。
本当なら反撃して撃ってくるはずなのにまったくそんな素振りは見られない。
(つまり僕の動きが見えていないんだ!)
気づけばノアはひとりでトラップを張った中堅上位の『戦術研究所』を倒していた。
https://note.com/hiroumimetavarse/n/nbbb1d6ec6c9b?app_launch=false
イメージ画像はnoteにあります。AI画像をお楽しみください。




