出会いの交錯
ノアが夜の『エルディオス』を散歩する。
ノアが住んでいる現実の街『ルミナリア』とは違って、そこには色とりどりの仮想店舗が連なっている。特に夜の街は怪しくも美しい光を放つ。サイバーパンクの街と化している。
この街に来るまでノアは16年間、ルミナリアの街しか見たことがなかった。真っ白な建物と道路、赤いゴム素材の歩道、完璧に区画整理されてどこも均一に整った街並み・・・実はこっちが仮想現実じゃないか思うぐらい殺風景だった。
特別訓練を受けているときによく耳にしていたのが『仮想現実は病みつきになる』という言葉である。親世代とは違い、世界大戦も知らないし僕らの世代は既に仮想現実が主流になっていた。近所に住んでいる少し年上のお兄さんやお姉さんとも出会わなくなったが、理由はそれである。
ルミナリアでは自宅のパソコンから食材を発注すれば商品は10分で家に届けられる。
家から出るのは気分転換や散歩ぐらいでしか意味を持たないが味気ない街並みを見ても気分が上がることはなかった。
子供の頃は山や川や海で近所の年上の子たちと遊んでいた。
だが仮想現実が主流になってから、彼らの姿を見ることはなくなった。
仮想現実の中で出会い結婚する。国や地域も関係なく結婚したら移住していく。
いつしか世界はグローバルでフラットな社会構造になっていた。
このエルディオスの夜の街をノアは気に入っていた。街を一巡してから、またいつもの場所に向かう。
V-HUBに入って、店内の商品を見てまわる1階から順に4階まで商品をじっくり見ていく。
毎月、新作の商品がどんどん入荷され見飽きることはなかった。
4階のエスカレータを上がった先でばったり彼女に出会った。レナータだ。
ノア「やぁレナータ!キレイな衣装を着てどこに行くの?」
お互いにネオグライドの戦績が振るわなかった者同士、少し気まずいとノアは思った。
レナータ「私は今から映画を観るわ。とっておきの怖いホラー映画。その後はレイヴパーティに参加するの」
レナータは笑顔で話していた。酒場にいるときとは大違いだ。
ピンク色の髪にパーティ用の衣装、衣装に散りばめられた宝石が光輝いて美しい。
ノア「そうなんだ。その映画、一緒に観てもいい?僕は16才だからレイヴパーティには参加できないから映画を観たら帰るよ」
「いいよ。ホラー映画、ひとりで観るの怖いからね。スマートグラスを取ってトイレに行けなくなる。私が買った券、ふたりまで同席できるからね」
レナータも案外、自分の戦績の悪さを気にしてからか、対応が少し柔らかくなったように感じた。
(これはデートだといってもいいのではないだろうか?)
ノアはドレス姿のレナータに密かに想いを寄せた。
いつもと違った雰囲気で宝石で彩られた彼女は美しかった。
ふたりで5階の映画館に行き、チケットのQRコードをゲートで読み込ませて中に入った。真ん中の後ろの席にふたりで並んで座る。放映時間になると館内は暗くなり、プロジェクターに映し出された映像に意識が集中した。仮想現実の中で体験するアナログな手法も悪くない。
想像以上に怖い映画だった。
何度かレナータがノアの腕を掴んでギュッと抱きついていた。
(これがゲーミングウェアじゃなくてハプティックスーツの感覚フィードバックだったらよかったのに・・・)
映画を見終えて帰るころには、ふたりは手をつないでまるで恋人同士のようになっていた。
ノア「じゃあ僕は先に帰るよ」
そういうとレナータの握っていた手を離した。
「楽しかったわ。じゃあ私は今から上のパーティに行ってくるね」
そういうと彼女は笑顔で手を振って屋上に向かった。
まるで恋人同士がはなれ離れになるような感覚だった。
塩対応以外のレナータのあどけない女性の可愛さを見た気がした。初めて酒場で彼女と出会ったときからは想像もつかない姿だ。可愛い。
次のネオグライドで一緒に戦うときは活躍して、彼女に”カッコイイ僕を見て欲しい!”と心に強く思った。
V-HUBをあとにして中央公園へ向かう。セーブポイントでセーブしてからログアウトするのがいつもの流れだ。頭上に地球儀が浮かんだ施設は時空錨と呼ばれている。
街の中で行動したことは経験値として加算され、それも微小だがe-sportsで得られる賞金に影響を与えていた。
ノアが中央公園の噴水の前を通りがかる。
22時になるとさすがに薄暗い。
誰もいないと思っていたところから急に声をかけられた。
「ねぇ君、このドラッグ買ってくれない?」
振り返るとそこには金のド派手なドレスを着て胸元に大きなダイヤの装飾をつけた可愛い女性が石段のところに座っていた。
耳元の大きな蝶のヘアピンが特徴的だ。
ノア「いいよ。お姉さんバイヤーなの?」
「そう、そんなところかな・・・」
そういうと紫色のカプセルを手に乗せて前かがみになってノアの前に手を差し出した。
金のドレスから胸元の谷間が見える。
彼女が手に乗せたカプセルをひとつ手に取った。
「じゃあ紫のカプセルをひとつもらうよ」
ノアは彼女が手に乗せた紫色のカプセルを買うことにした。購入すれば10分後には家に届く。
ドローンが空からやってきて小包をベランダに落していくのがバイヤーとの取引のセオリーだ。
「ありがとう」
飛び切りの笑顔を見せた後、彼女は姿を消した。
https://note.com/hiroumimetavarse/n/n1ca7b7da8425?app_launch=false
画像はnoteに置いています。




