始まりの街『エルディオス』
真っ白な建物が立ち並び、レンガ調の縁石も白く歩道の両脇にキレイに並んでいる。歩道は濃い赤色のゴム素材で雨が降っても水はけがいい。
この街の名前はルミナリアといい、世界大戦後に誕生した。世界人口は20%まで減少し人類は16億人しかいないとAIによって算出されている。
日中に外を歩いても街を歩く人はほとんど見かけない。世界大戦後に復興したといってもそれは名ばかりの復興で中身はスカスカのままだ。まるで実験都市のようなこの街はAIによって設計が成された。
この街には、まるでムダがない。
地下深くの下水道に雨水は流れて浄化設備へと運ばれていく。その上の層が上水道、さらにその上の層にはガス管が張り巡らされ、地表にピットがあってその中には電線が通っている。
建物も街並みも道路もすべてがどこか無機質だった。標識も存在せず店の看板すら設置されていない。
この街の人々は常にスマートグラスを掛けている。スマートフォンのナビ機能とBluetoothで同期したスマートグラスに即座に行き先が映し出される。そして、スマホのアプリを使えば無人のドローンタクシーが家の前まで飛んでくるのだ。
この街で生まれ育った少年ノア・キャッシュマンにとっては、これが普通の日常である。
16才になってやっと特別訓練が終わり社会に出られる日がやって来た。教育はAIによって行われ、バーチャル空間での体験がメインとなっている。
その特別訓練が終了しなければ社会人になることは叶わなかった。
世界大戦前のような詰め込み式の教育はまったく意味を成さないムダなものとして処分され、実社会での行動シミュレーションが重要視されるようになった。格闘技や銃の射撃訓練を受ける。バーチャルでの訓練が多い。
「やっとデジタル修了証がメールで届いた。これでやっと僕もゲームに参加できる」
無機質な白い部屋にアナウンスが流れる。
『おめでとうございます。特別訓練を修了しました。ゲームへの参加許可が出ています』
ホログラムの光の文字が壁に流れた。
「よしさっそくだ。ゲームを始めよう。まずはアカウントを登録するか・・・」
ノアはキーボードを叩いてIDとパスワードを入力した。
アカウントの開設にはデジタル修了証に入った認証パスの入力が必須となっている。
スマートグラスが仮想現実を映し出し、始まりの街エルディオスがノアの目の前に現れた。
そこには色褪せた現実世界とは違い重厚な歴史ある街並みが存在していた。
「ここが中央公園か。なるほど、ここから色んなところに移動できるわけだ」街を眺めながら歩いていく。
スマートグラスには初心者向けの補足説明が表示され、ノアは街を歩きながら学習を始めた。これがこの時代の学習方法である。
「音声ガイダンスを頼むよ」
独り言のようにノアがしゃべるとスマートグラスが返事をする。
『わかりました。音声ガイダンスを開始します』
まるでバスガイドのように街の紹介が始まる。
『広場の奥にある空に球体が浮かんだ場所、あの下の施設からワープとセーブができます。中央公園はマルチバースの拠点です』
たしかに地球儀が施設の頭上に浮かんでいる。
『広場の右にある酒場がギルドが観戦を楽しんで情報交換をしたり、チームの募集をするプレイヤーの溜まり場です。ネオグライドをするなら、そこがオススメです』
ノアが振り向いて酒場を確認する。
『ネオグライドへの参加はアカウント作成時に承認されました』
ノアは一瞬立ち止まり「えっ?そうなの」と声を上げた。
広場へ向かう足をそのまま酒場のほうへ方向を変えて進む。
多くのアバターが広場を通じて色んな世界にワープしていく。
中央には噴水がありそれを囲むような形で石板のベンチが置かれている。
木々や葉っぱは季節ごとに彩りが変わり夏場の朝露に濡れた朝顔の花は実に美しい。
ピンク色の髪の女性が広場のベンチに座っている。
キャミソールの隙間から背中の左の肩甲骨の辺りに黒い薔薇のタトゥが入っているのがはっきりと見える。背中に咲く黒い薔薇の葉っぱには『SSBR』の文字が刻まれていた。
スーツ姿にハットを被った男が後ろからその女性に近づき声をかける「魚は泳いだか?」そういうと男は立ち止まった。どこか冷たい雰囲気が漂っている。
この女性は微動だにせず石板のベンチに座ったまま振り返らずに応える「黒い薔薇は枯れない」合言葉を交わして安心した男が話す。
「ここがマルチバースの拠点セントラルスクエアだ。詳しい情報はチップに入っている。よく確認しておいてくれ」
そういうと男は小さなアイテムを女性に手渡して去って行った。




