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タヌキとたまご

作者: 時輪めぐる
掲載日:2026/03/28

 若葉が萌える五月中旬のその日、


 タヌキのお母さんは、大きなブナの根元で、白くて、つるつるした、温かい卵を見つけました。前年の秋に落ちた枯れ葉が覆う地面の上にポツンと転がっていたのです。クンクンと臭いを嗅いでみると、中に微かに命の気配がします。生きていると思ったら、ちょっと嬉しくなりました。


「独りぼっちなの? 良かったら、お家においで」


 タヌキのお母さんは、壊さないようにそっと咥えると、巣に持って帰りました。少し前に生まれた子供達の教材になるかと思ったのです。




 お母さんは卵を、そっとふかふかの枯草の上に置きました。五匹の毛玉のような子ダヌキ達は興味津々で集まって来ます。


「おかあさん、これ、なぁに」


「クマゲラの卵よ」


「これ、どうしたの」


「落ちていたの」


「ええ? 卵のお母さんが探しているでしょ」


「クマゲラのお父さんは、一番初めに生まれた卵を持ち去って、捨ててしまうんだって」


「なんで?」


「何でかは、知らないけど。中にね、命の気配がするの。このままだと死んでしまうから連れて来たの」


「あたためようよ、ぼくたちで」


「ほら、こうしてさ」


 子ダヌキ達は、おしくらまんじゅうのように、体を寄せ合い卵を温め始めました。


 そこへタヌキのお父さんが帰って来ました。


「子供らは何をしているんだ」


 お母さんはクマゲラの卵の話をしました。


「そんなこと出来るのかなぁ」


 お父さんは、疑わし気でした。


「出来るかどうか分からないけど、やってみることは大切ね」


 子ダヌキ達が、代わりばんこに卵を温め始めてから、半月ほど経ちました。


 卵は、うんともすんともいいません。かといって、腐ってしまった訳でもありませんでした。


「ほら、やっぱり」


 お父さんは言い、子ダヌキ達も末っ子を除いて、温めることに早々に飽きておりました。末っ子は、温めると言い出した子です。


「だいじょうぶ、だいじょうぶ。こわくないから、うまれておいで」


 兄弟の中で一番体の小さいその子は、父親に捨てられた卵に話し掛けます。


 コン、コン。


 卵の殻に内側から穴が開けられ、可愛い声が聴こえます。やがて、小さな雛が生まれました。


「おかあさん、おかあさん、うまれたよ!」


「おめでとう。頑張ったね」


 お母さんは、末っ子を褒めてあげました。


 鳥の臭いがします。


「……旨そうだな」


 お父さんが目を細めると、兄弟達も、何だか変な目で雛を見ました。


「やめて! このこは、ぼくの、……いもうとだよ」


 雛が男の子か女の子か分かりませんでしたが、末っ子はそう言って、背中に雛を庇います。


 体が小さくて気が弱いのに、精一杯体を大きく見せて怖い顔を作りました。


 それでも、そんな事は意に介さず、お父さんと兄弟達は、クンクンと雛に鼻を近付けようとします。お母さんは、末っ子とお父さん達の間にどっしりとした体を入れました。


「あんた達! やめな。この子が一生懸命、卵から孵したんだよ」


 お父さんも兄弟も、思わず後ずさりします。


「だって、旨そうだよ」


 お母さんは、ギッとお父さんを睨み、毛を逆立て低く唸ります。


「や、やだなぁ。冗談だよ」


 お父さんは、首を横に小刻みに振ります。


「いい? これからも、この雛にちょっかい出したら、あたしが許さないから」


 念を押すように言うと、皆、コクコクと頷きました。


 刷り込み(インプリンティング)によって、末っ子は雛の親鳥と認識され、雛は末っ子の後をヨチヨチついて回ります。


「おかあさん、このこになにを、たべさせたらいいの?」


 お母さんは、クマゲラが、カミキリムシの幼虫などを、雛に与えていたのを見た事がありました。


「ちょっと待ってて」


 そう言うと、外に出て幼虫を取って戻って来ました。末っ子は幼虫を見て、うわっと思いましたが、端っこを咥えると、雛の口元に持って行きました。


 動くので、中々上手く口に入れられませんでしたが、何とか食べさせることが出来ました。


「わぁ、たべたよ」


 お母さんは、子供達の食べ物とは別に、雛の為の餌も取って来るようになりました。


 夏になると、末っ子も狩りの練習を始め、自分で取った餌を与えるようになり、クマゲラの雛はすくすくと大きくなりました。




「さぁ」とお母さんタヌキが末っ子を促します。末っ子は、雛を口に咥えると、ブナの木に近い岩の上に置きました。


 クマゲラは、パタパタと羽ばたきをして、羽根の調子を確かめています。


 そんな事を何日か繰り返したある日、ブナの幹の一番下の枝まで上ると、末っ子の方をじっと見てから、パァッと大空に飛び立っていきました。


「さよなら、ぼくのいもうと。……げんきでね」


 末っ子は、クマゲラの姿が見えなくなるまで見送りました。その後ろ姿を、お父さんとお母さんは、やがて訪れる子別れの時を思い、見詰めていました。









 了

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