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赫姫 -TSおっさんの転生記-  作者: 此方かなめ
2章 冒険者として

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22/22

【白雷】アルバ 中



 それは有無を言わせぬ迫力があった。

 ヒメカに拒否権など初めから存在しないかのように、アルバは強引に距離を詰めてきた。

 ――友達。

 ヒメカは遠くを見つめ、日本時代を思い出す。

 社会人になってからも付き合いの続く友達は、ほんの数人程度だった。

 みんな忙しく、数か月に一回会えばいい方だ。

 会う約束は大体、飲み会ばかり。

 そこで近況報告をして、仕事の愚痴を言い合い、社会のつらさを慰め合う。

 果たしてそれは友達と呼べるようなものだろうか。

 昔のような、学生時代のような関係の友達はもういなかった。


(……なんか思い出したら悲しくなってきた)


 いきなり意気消沈し始めたヒメカに、アルバは不思議そうな顔をするが、そんなことは気にせずにぐいぐいと迫る。


「お友達になってくれるよね?」

「いやー、ちょっとかんが――」

「なるよね?」

「こころの準備が――」

「――なるんだ」

「あっはい」


 ヒメカの抵抗虚しく、首を縦に振るしか選択肢がなかった。

 そもそも赤級(ルブラ)冒険者が、緑級(ウィリダ)冒険者に盾突けるはずもなく、長いものにまかれるほかなかったのだ。

 渋々了承し、肩を落とすヒメカ。それを見たアルバは満足気に頷いた。


「……友達かぁ」


 アルバは噛みしめるようにぽつりと小さく呟く。

 それは幸いにもヒメカの耳には届かなかったようだ。

 気を取り直すように咳払いをしたアルバは、一つ提案をする。


「お友達になったから、お友達らしいことをしたいんだけど……どうかな?」 

「へいへい。――それで、お姫様は何をお望みで?」

(……友達なんて、もうできないと思っていたのに。――こんな形で、できるとは)


 いつだって友達とは、いつの間にかなっているものである。

 ヒメカは昔を懐かしみつつ、唯我独尊なアルバにからかい交じりの言葉を放つ。

 すんなりと提案が通ったことにアルバは驚きつつも、友達として何をすべきか考える。そして――固まってしまった。


「友達って……何をすればいいの?」


 心の底からわからないといった様子で、目をぱちくりとするアルバ。


「え? なんだって?」


 あれだけ強引に友達になることを強要していた少女が、あろうことか、友達という定義もわからずヒメカに迫っていたとは――驚きよりも心配が勝った。


「もしかして――オレが初めての友達?」


 ヒメカの問いにアルバは、迷いなくこくりと頷いた。

 まるで、それを誇らしく思っているかのように。


「あー……まじか」


 ポリポリと困ったようにヒメカは頭を掻いた。


「そうだなぁ……。一緒に遊び、買い物して、ご飯を食べる。それで気兼ねなく過ごせたら、もう立派な友達だと思うよ」


 ヒメカにとっても、この世界で初めて友人と呼べる関係になりそうな少女である。

 どこかズレている少女に、一歩踏み出した勇気ある行動に報いるように、ヒメカは言葉を重ねる。

 アルバはヒメカの放った言葉をかみ砕きながら、頭を捻らせる。

 その不器用な少女に内心微笑み、ヒメカは言葉を続けた。


「そんなに難しく考えなくてもいい。きっかけなんて人それぞれだし、何なら勝手になっていたなんてこともある。――んー、そうだ! アルバ、ちょっといいか?」


 ヒメカは何かを思いついたように少女に向き合う。


「何?」

「オレとデートしようぜ」


 その言葉に白い少女はきょとんとした顔をヒメカに向けた。


「デート? 友達同士でもデートってするの?」

「――もちろんするさ。仲のいい友達なら、なおさらだ」


 ヒメカは灰色の学生時代を思い出す。ヒメカ自体には女友達はいなかったが、自身の座る席の隣で女子が固まって話していることが多かった。その話の内容は、ほぼデートみたいなことを日常的に行っているとのことだった。

 その時は女の子同士ってキャピキャピしているな、という感想しか抱かなかったが、それが今になって参考になる日が来るとは思いもよらなかった。

 三十五年という人生経験は伊達じゃない。……たぶん。


「それで、お察しの通りオレは〈稀人〉でこの街の事情に詳しくない」

「うん」

「超一流の冒険者であるアルバは、当然この街にも精通しているわけだ」

「うん!」

「……言いたいことは、わかるな?」


 少しそっぽ向きながら無駄に含みを持たせて、ヒメカはアルバに言った。

 先ほどのデートという言葉が今になって恥ずかしくなってきたのである。

 やや顔が赤くなっているヒメカに、アルバはニヤニヤしながら、その頬を指でつんつんする。


「……ヒメカってかわいいね。――ありがとう。ボク、張り切って君を案内するよ」


 ああいや、とアルバはわずかに溜めて、言い直した。


「ヒメカ――一緒にデートしよ」


 からかうような笑みを浮かべて、アルバはヒメカを誘う。

 胸に灯る小さな火を逃さないように。

 耳に鳴り響く鼓動は、この出会いがアルバの運命を変えてしまうような、そんな予感に満ちた音だった。




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