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赫姫 -TSおっさんの転生記-  作者: 此方かなめ
2章 冒険者として

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初任務 上

 


 ――冒険者とは。

 街の外に出て、魔物を討伐し、素材を獲得する。

 魔物から得られる資源は人類の発展に大きく寄与し、それを持ち帰る冒険者は恐れられつつも一定以上の名声を得られていた。

 元の世界で広く知られている冒険者像と大差はなかった。

 だが、ヒメカの知っているゲームなどでよく見る冒険者とは決定的に違う部分がある。


 彼らは――文字通りの冒険者なのだ。

 あるいは開拓者とも言える。

 未知を愛し、人の可能性を拡げ、安全を作る。

 ――そのために命すら惜しまぬ者たち。


 この大陸において人類は胸を張って「街」と呼べる場所は、今やイリガルドただ一つ。

 それは約千年前、魔物が突如として発生し、襲い来る魔物に対抗することができずに多くの国や都市が滅んだのだ。

 そんな中、魔物が使う魔法を解析し、人類が行使できる技術が開発された。

 ――それは魔術と呼ばれたが……しかし、遅すぎた。

 新たな力のおかげで全滅することは免れたが、この大陸に安寧の地を作ることはできず、退去せざるを得なかった。

 まさしく敗北の歴史だった。


 今も各地には、滅びた旧王国の影が眠っている。

 そこで人類は新天地で体制を整え、魔術を洗練し、様々な研究を進めた。その成果として、ようやく魔物と戦える土台が出来上がったのである。そして、人類は満を持して魔物が支配する大陸を奪還するべく舞い戻ったのだ。

 防衛都市イリガルドは魔物との最前線であり、それを支える冒険者たちもまた、人類の期待を背負う英雄たちなのだ。


 ――と、ぱらぱらとめくった手引書に概ねそのようなことが書いてあった。

 ヒメカはあの後、メリナから「冒険者手引書」という冊子を渡されており、きちんと読み込むようにと念を押された。

 城壁を行き来する馬車に揺られながら、暇をつぶすため手引書を開いていた。


(手引書があるって、どうにも初心者に優しいな……まあ、助かるけど)


 冒険者は――仕方のないことだが――殉職率が高い。

 わざわざ危険に飛び込むようなものだから、さもありなん。

 つまりは人手不足である。

 その問題を解決するため、ギルドは少しでも初心者の離脱を防ぐように、様々な施策を行っているのである。

 この手引書や、今ヒメカが身に着けている『駆け出し冒険者セット』などがいい例だろう。

 先人たちの失敗が今につながっているのだなと、しみじみ思い、手引書を閉じて馬車の揺れに身を任せる。


 ――初任務である。

 一通りの流れは先ほど読んだ手引書に書いてあったが、実際にするのは全くと言っていいほど手古摺るだろう。

 これから行うのは「小鬼(ゴブリン)」の討伐。

 ……そう、転生初日に見た、緑色の小さい子供のような魔物だ。

 城壁の外に広がる大平原に生息している彼らは、とにかく短い期間で数が増える。

 放っておくと上位種が生まれることがあり、無視できない脅威になる可能性がある。

 このため適度に間引く必要が出てくる。

 単体ではそこまでの危険性もないため冒険者入門用として、ギルドは初心者に依頼を出しているのだ。

 ヒメカは深く息を吸う。

 澄んだ空気が肺に満たされ、わずかな熱を乗せた息が吐き出される。

 ヒメカはそれ以上の化物と戦っているから、まあ負けはしないだろうと気楽に考えていた。


(なんといっても、ゲームでの最序盤の敵だからな)


 そうこうしているうちに、城壁が見えてきた。

 段々と近づいてくる人と魔物の境界線に、緊張が走り、武者震いをする。

 頬を叩き、気合を入れる。

 冒険者としての第一歩を踏み出すべく、壁の向こうを睨みつけた。


 ――そこにあったのは地平線まで見える大草原だった。

 ヒメカの腰まで伸びる草が生い茂っており、足元が見えず不安になる。

 背の高いものは所々生えている木程度で、視界を遮るものは何もない。

 しかし目を凝らしてみると、なだらかな丘が連なっていることが分かる。

 振り返ってみると、空を裂くように城壁が伸びている。

 門兵に冒険者証を見せることで、問題なく通ることができた。

 その際、装備をじろじろと見られ、とても生暖かい目をされたのは記憶に新しい。


(……ぴっかぴっかの一年生じゃい)


 胸を張り腰に手を当てて、ふんすと荒く息を突く。

 そんなことは置いておいて。

 ぶんぶんと横に頭を振り、余計な思考を隅に追いやる。気を取り直して、手引書の内容を思い出した。

 今回の標的である小鬼(ゴブリン)は、群れという共同体を形成し、それぞれに役割がある。その役目を全うするべく方々に散って働いている。

 ヒメカがいきなり群れの中心に入っても、ボコボコにされる未来しか思い浮かばない。


 狙うのは群れから離れている斥候や、食料を確保している個体だ。

 当然そいつらも複数で行動していることが多い。

 そのため、何かしらの方法で注意を惹いて一匹だけおびき寄せて、それを叩く。

 いくら小鬼でも、いきなり複数体の戦闘は避けたい。


 そこで、手引書にあった方法を試すべく、用意したものがある。

 それは、この大平原に生息する動物の鳴き声を再現した笛だ。

 これを鳴らせば小鬼たちは反応するだろう。


 彼らも注意深い。

 まずは一匹が索敵に出て、獲物の姿を確認する。自分たちでもなんとかできるレベルの獲物であれば仲間を呼んで倒すらしい。

 なので、ヒメカの最優先事項は最初におびき寄せた一匹を奇襲して、呼ぶ声を出させずに討伐することにある。

 成功できれば、あとは繰り返して殲滅するのみだ。

 ごくりと唾を呑む。

 クロエとの約束を果たすため、わずかに震えた脚で踏み出した。



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