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第8話 村人B、弟子と元勇者を引き連れ旅に出る

 ロウは村の坂道に目を向けながら、手にした小さな火打石を指で弄んでいた。古びたそれは、彼が初めて自分で火を起こした時に使ったものだった。


「おい、それ持ってくのかよ。縁起物か?」


「俺の原点みたいなもんだ。悪いか?」


「いや、いい。むしろロウらしくて笑えるわ」


 クラウスは肩をすくめて歩き出す。エリナもそれに続く。三人が歩む先は、緩やかに続く山道。そしてその遥か彼方、世界の終わりと噂された場所《終焉ノ坩堝》がある。


 そこに眠るのは、かつて伝説の鍛治師《創鋼の熾火》が神の力すら恐れて造り上げた究極の装備群《神滅装》。


 あまりにも危険すぎるその力を恐れ、彼自身の手で封じた、過去最大の“過ち”とも言える遺産。


「ロウさん……その“神滅装”って、いったいどんなものなんですか?」


 道中、エリナが恐る恐る尋ねる。


 ロウは少しだけ歩みを緩めた。


「一言で言うなら、“この世界で戦う必要がなくなる装備”だ」


「え……?」


「手にした者は無敵になる。戦いも争いも、全部終わる。ただしな」


 彼は空を見上げた。青空に一筋、風が走る。


「それを持つ者が“正義”じゃなかった場合、この世界は滅ぶ」


 クラウスが口を挟む。


「……実際、俺も一回あれの試作に触ったことがある。軽く振っただけで魔物の群れが蒸発したからな。笑えなかった」


 ロウは苦く笑った。


「だからあれを……封じたんだろう。俺自身も二度と使わないって誓った」


 静かな沈黙が三人を包む。だが、エリナは拳を握り、はっきりと言った。


「じゃあ、その力を正しく扱う方法を……私たちで見つけましょう」


 その言葉に、ロウとクラウスが互いに視線を交わす。


「……大したもんだな、お前の弟子」


「だろ? 才能だけじゃなく、根っこが強い」


 そう言って、ロウは前を向く。


「行こう。まずは《古霊の谷{これいのたに}》を越えた先、旧ギルド跡に立ち寄る。俺の“隠し倉庫”がある」


「……また物騒な名前が出てきたな」


「クラウス、お前は黙ってついてこい」


 ――こうして、ロウ、クラウス、そしてエリナの三人は《終焉ノ坩堝》を目指し、新たな旅へと足を踏み出した。


 だがその裏で、既に世界は動き始めている。


 王都では、鍛冶ギルドの幹部たちがロウの再起を察知し、次なる動きを始めていた。


 彼らの中には、ロウを「師」と呼ぶ者の姿もあったという──。

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