第6話 村人B、神滅装の記憶を辿る
ロウは鍛冶場の奥、古びた棚の引き出しをひとつひとつ開けていた。
「おい、何してんだロウ。まさか本気で——」
「あるはずなんだ。“あの図面”が。」
クラウスの言葉を遮るようにロウは呟く。
木製の引き出しがきしむたびに、埃とともに古い記憶が呼び起こされていく。
「“神滅装”……あれは確かに、俺が作った。けど……」
ロウの手が止まる。ぴたりと、動かなくなった指先が震えていた。
引き出しの底から現れたのは、一枚の焦げた紙。そこに描かれていたのは、どんな伝説級の武具よりも禍々しく、それでいて美しいシルエットだった。
巨大な双剣。中心に刻まれた、神域言語{ルーン}——「滅神{めつしん}」。
「ロウ……これは……」
「これが、神滅装の設計図。いや、未完成の“核”{コア}だ。」
ロウは紙を手に取り、じっと見つめる。
それは彼がまだ若く、鍛冶に取り憑かれていた時代——ある戦いの最中に生み出された、破滅の兵装。
「この図面の残り半分……どこにある?」
クラウスの声に、ロウは首を横に振る。
「わからない。あの時、俺は“ある場所”に封印したはずなんだ。忘れたい記憶と一緒に。」
火床の炎がぼうっと揺れ、ロウの目に一瞬、過去の幻が映る。
炎の中、折れた剣を抱えて泣き叫ぶ少女。仲間を守るために倒れた戦士。
そして、神すら斬ると恐れられた黒鉄の双剣——神滅装。
「クラウス。これは……“あいつ”の仕業だ。」
「……“あいつ”?まさか、“黒鉄“{ヘルゼイン}が……」
ロウは立ち上がり、ゆっくりと鍛冶場の奥から巨大な金属箱を引きずり出す。
「準備がいる。次は、あの封印を解く。」
「やれやれ……お前のスローライフ、どこ行った?」
苦笑するクラウスの横で、ロウは焔のような眼差しを燃やす。
「平穏は、あとで取り戻せばいい。まずは、“作る”ことだ。」
その手に、再び鋼の意志が灯る。