第4話 村人B、神剣の真名を暴く
金床の上、赤熱した刃の芯が淡く脈打つ。
それはまるで心臓のように、熱と魔力の律動を繰り返していた。
ただの金属ではない――何か“意思”を持っているかのように。
「……やはりな。中に“核鋼”{コアインゴット}が使われてやがる」
ロウは眉間にしわを寄せたまま、解体した芯の一部を鍛冶用の精密器具で測定する。
見れば、中心部にだけ別の金属が埋め込まれていた。銀でも鉄でもない、鈍く青白く輝く未知の合金。
「“核鋼”? それって、普通の金属と違うんですか?」
「違うなんてもんじゃない。これ一つで国家一つを買えるレベルの代物だ。下手に加工すれば、自爆する」
「じ、自爆!?」
「魔力に共鳴する性質がある。だから、封印代わりにも使える。こいつが暴れないよう、周囲に“縛り”の呪具が仕込まれてたわけだ」
炉から取り出した刃の芯を、ロウは丁寧に金床に置いた。
そして、特殊な工具で芯の中心部に刻まれた文字を読み解き始めた。
「……“ミュリア=フェンリス”。なるほど、名は残っていたか」
「それって、この剣の名前……?」
「ああ。神代に作られた対魔王用の神剣、《封鋼刃{ふうこうじん}ミュリア》」
その名を口にした瞬間、空気が震えた。
ガシャン!
隣で見ていたエリナが、工具を取り落とす。
「ミュリア……! それ、父がよく言ってた名前です……」
「お前の父親、まさか“封剣騎士団ふうけんきしだん”の――いや、今はそれよりこの剣だ」
ロウの目が一層真剣になる。
「この剣、完全に目を覚ましたら……いずれ“持ち主”を選ぶぞ」
「え……? どういうこと……?」
「“神剣”ってのはな、人が使う道具じゃない。剣が“使わせる者”を選ぶんだよ」
その言葉に、エリナは小さく息を呑んだ。
だが、ロウは続ける。
「けど安心しろ。俺が直してやる。……ちゃんと、お前が使えるようにな」
「ロウさん……!」
エリナの目が潤んだ。
ロウは一つだけ、笑ってみせた。
「ただし、修復には時間がかかる。お前も手伝え。火傷しても泣くなよ」
「……はいっ、弟子として頑張ります!」
こうして、伝説の神剣“ミュリア”の修復と、村人Bと少女の奇妙な師弟関係が始まった。