プロローグ 「火を継ぐ者」
――遥か昔。
世界は、未だ混沌に満ちていた。
神と魔が刃を交え、地は裂け、空は燃え、命は灰になった。
その争いを終わらせたのは、一振りの剣だった。
「熾火{しび}よ。すべてを喰らえ――」
真紅の炎とともに打たれたそれは、神の加護すら貫き、魔の呪いすら焼き尽くした。
やがてその剣は、世界の均衡を保つ“鍵”として封印され――
そして、鍛えた者の名もまた、歴史の彼方へと消えていった。
人は言う。
伝説は、語られた時点で終わりだと。
けれど、それは本当だろうか?
もしもその“伝説”の継承者が、今も生きていたとしたら。
何食わぬ顔で、山奥の村でのんびり暮らしていたとしたら――
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「んー……今日の火は、ご機嫌ななめか?」
木の枝を足でくくり、炉にくべながら、男がぼやく。
がらんとした鍛冶場に、薪のはぜる音だけが響いていた。
煤けた前掛け。火に焼けた腕。年季の入った炉と、整然と並べられた工具の数々。
それらすべてを扱い、黙々と金属を鍛える青年――
彼の名は、ロウ・スミス。
年齢不詳、職業・鍛冶屋。
この辺りの村では「村人B」なんて妙なあだ名で呼ばれている、ごく平凡(に見える)青年だ。
今日も彼は、ひたすらに鉄を打つ。
理由? 特にない。
暇だから。炎が好きだから。何より――
「この程度、火遊びみたいなもんだしな」
鍛冶場に、カン、と乾いた音が響く。
火花の中で、金属が赤く光った。
それは、かつて神話に記された剣にさえ、匹敵する輝きだった。
だが彼は、その価値など意に介さない。
まるで“日課のように”、最強を作ってしまう。
知られていないだけで、
彼こそが世界でただ一人、**《創鋼の熾火{フォージフレイム}》**の継承者――
“最強を、作る者”だった。