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違う、コイツただのバカだ

初投稿です

「おはよう、火野君」

「お、おはよう、涼野さん」

 

 席替え。それは男子高校生にとっての一大イベントであり、近場に仲の良い友達がいるか否か。可愛い女子生徒がいるか否か、といった事項は、登校のモチベーションを大きく左右する。

 ハズレを引けば急転直下、授業中は他にすることがない故真面目に受けざるを得なくなるし、周りが野郎だらけになろうものならグループワークが地獄と化す。主に先生にとって、だが。


「……ぐっ、堪えろ俺。これは今まで席替えガチャを外し続けた火野に対する天の恵みだ、どうせそれも一時の物、すぐ元のゴミみたいな運に戻るはず……」

「ざけんな」


 涼野さんのファンクラブ自称会長を名乗る男ーーー俺が知る限りでこのファンクラブの会長は校内に約50名ほど存在するーーーは、一周期悶え終えた後、なんとも言えない視線を俺に向けてくる。

 

「何故だ。日々の祈祷を欠かさず行い、涼野神が住まわれている方向への礼拝も行っている。何故俺ではなく涼介が選ばれるのだ」

「それだろ原因、新興宗教か邪神崇拝の狂信者かよお前」


 古今東西の宗教ではやたら人を集めて祈らせたり礼拝させたりするが、俺にはその文化がまるで理解できない。不気味通り越して怖いだろその光景。そして、間違いなく目の前の男はファンクラブ会長ではなく怪しげな教団の教祖だ。


「まぁ流石に冗談だ。そも、貴様の家ならともかく、俺は涼野神の家を知らん」

「そりゃそーだ……なんでお前俺の家知ってんだよ」

「山本君に聞いたからだ」

「誰だよ山本君」

「小学校三年生の時の生き物係だ」

「誰だよ」


 誰だよ。


「山本君のことはどうでもいい。既に大阪に引っ越しているからな」

「そうなんだ」

「それよりも火野、貴様何をやらかしたら涼野さんから挨拶をされる立場になることができるのだ」

「ちょっと待て、お前さっき涼野神とか言ってただろ」

「大衆の面前でそのような呼び方をするわけがなかろう。ただのヤバいやつではないか」

「今もさっきも大衆の面前だし、お前は紛れもなくヤバいやつだよ」


 せいぜいトイレに行ってたやつが数人帰ってきた程度、いったいさっきと何が違うと言うのだろう。

 なんならその涼野神にもガッツリ聞こえるであろう声量だった。あの言葉を聞いて顔色一つ変えない涼野さんは、流石と褒め称えるべきなのだろうか。


「……とにかく、だ。火野、涼野さんの前で粗相をすることのないように。何かあれば、俺がファンクラブ代表として誅を下さねばならん」

「俺死ぬのかよ」

「死ぬ」

「死ぬんだ」


 堅苦しい、というかやたら難しいーーー難しく聞こえる言葉を使うこいつにとって、多少の誤用など意に介さない、とにかくかっこよく聞こえればそれでいい。いつものノリかと思っていたが、どうやら本当に死ぬらしい。

 サヨナラ母さん、サヨナラ妹、サヨナラ犬。後親父。


「おはようございます。ホームルームを始める前に先週行った中間テストを返すので、前に取りに来て下さい」


 そうこうしているうちに教室に入ってくるのは、白衣を着た明らかな理系人間。

 蛍光灯の光に負けず劣らず頭頂部がキラリと光るその教師は、休憩時間、若しくはこのようなホームルームを利用してテストの返却を行うという、地味に生徒から嫌われるタイプの教師。ちなみに俺も嫌い。


「78点か。まだまだだな、火野」

「勝手に覗くな」

「ほう、俺の点数を聞きたい、と」

「言ってねえよ幻聴かよ」

「しかと見るがいい!」

「……ちゃんと高いんだよなぁ」


 ある日を境に気が狂ったように勉強をし始めたこいつの成績はみるみるうちに上昇、その辺の公立高でトップ層に食い込める程度には学力が向上した。

 本人曰く"尊厳を失うか時間を失うか、極限の選択であった"とのこと。一度いい点数を取って褒められる快感を覚えるとそこからはもう止まらなかったらしい。


「……ん?」


 あ、やばい。扇風機の風で涼野さんの答案がチラッと見えた。見えるものが間違ってんだよ無能風が。

 ……0が見えたってことは100点か、やっぱ賢いんだな涼野さん。


「……あ?」

「どうした火野、急に百面相を始めて。仮に変装能力を会得したとて、貴様の身体能力ではルパンには遠く及ばんぞ」

「黙れ50m走10秒台」

「あれは体育委員の計測間違いだと何度言えば……」


 おかしい。目の前のコイツの頭もそうだが、涼野さんの答案用紙に書かれていた0の位置、大きさが、だ。

 100点の答案にしてはやたら0が大きく、その位置も端に寄っている。


「………………もしや」


 生物基礎と化学基礎。文系高校生が選択する、最もスタンダードな理科二科目。その二科目はこのハゲ教師が両科目ともまとめて返すのが通例であり、涼野さんは再び名前を呼ばれ、答案用紙を受け取るべく前へ歩く。


「………………あー、なるほど」


 チラッと出来心で盗み見た結果、発覚した事実。

 これ、0点だ。

頑張って続けたい

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