我が子は雨女らしい
今日は中学生になった娘が初デートにいくらしい。
夕方からデートとのことだが天気は大丈夫だろうか?
ここ数日は、土砂降りのゲリラ豪雨が降ることも多い。
男親としては複雑な心境だが、思春期を迎えた娘にあれこれ言うと嫌われるというし何も言わずに送り出した。
が、案の定というべきか今日も天候は大荒れだった。
せっかくのデートだというのにこれでは台無しだ。
娘からラインに連絡が入った。
どうやら迎えに来てほしいようだ。
可愛い娘のためだ。
黙って車のキーを手に取り駅まで迎えにいった。
迎えの車で渋滞していたが1時間ほどで駅のロータリーにたどり着いた。
お洒落して出て行った娘は無残な姿をしている。
「お父さん。ありがとう」
「気にするな。これタオルな」
ぶっきらぼうにタオルを娘に渡す。
「うん・・・」
正直、何を話したらいいのかわからない。
そう言えば娘が生まれた日もこんな豪雨だったなと思いだす。
もうすぐ娘が生まれるというのに大事な会議が入ってしまって出社した日のことだ。
無事に会議を終え一息ついていると嫁のお母さんからもうすぐ生まれそうだと連絡を受けた。
大慌てで会社を出て駅に走った。
なんとか電車に乗り病院の最寄の駅までたどり着いた時だ。
突然の豪雨に見舞われた。
傘なんて持っていない自分はそのまま病院まで走るしかなかった。
病院の廊下をびしゃびしゃにしながら病室まで移動する。
病室の前では嫁のご両親が生まれるのを今か今かと待っていた。
病院の人に謝りつつタオルを借りて体を拭く。
3時間ほど経ち「おぎゃぁおぎゃぁ」と赤ん坊の声が聞こえる。
どうやら無事に生まれたようだ。
病院の人から入室を許され「元気な女の子ですよ」と声をかけられた。
無事に生まれてきてくれたことに感謝していると妻のお母さんから「パン」と肩を叩かれる。
「ほら。抱っこしてやんな」
赤ん坊なんて抱っこしたことがなかったので恐る恐る嫁から赤ん坊を受け取り抱っこする。
するとその赤ん坊はにっこりと笑いかけてくれたのだ。
今でも昨日のようにそのことを思い出す。
隣を見れば娘は沈んだ様子だ。
せっかくのデートだったのだ。
その気持ちはわからなくもない。
「よし。ちょっと寄り道していくか」
「どこ行くの?」
「お母さんには内緒だぞ?お前の好きな彩花の宝石を買ってやる」
娘は昔から埼玉銘菓のこの高級ゼリーが好きだった。
「お父さんありがとう」
そう言って笑った顔は昔から変わっていなかった。