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公爵様と私  作者: ユタニ
6/6

6.王子様と私


公爵家を去って、2年が過ぎた。

私は今、公爵領から遠く離れた湖の美しい土地で、良家の12才から15才までの女の子が通う寄宿学校の美術の教師をしている。


こちらの学校の理事が、私の女学校時代のコンクールの作品を気に入ってくれていたらしく、公爵家の紹介状があった事もあり、臨時雇いとして働かせてくれたのだ。


中途半端な時期に公爵家を出たので、会計士の試験は諦めざるを得なかったが、教師の試験は理事の取り計らいもあって、1年遅れで受けて無事に合格し、去年から正式な採用となった。

良家の女の子達にとっては、美術は嗜み程度で良いものなので、教師は私くらいの気安さが丁度良いらしい。


正式採用となった時に、ジョンおじさんに手紙を送り、一方的に仕送りも始めた。

おじさんは未だに、仕送りは不要だ、と手紙の返事にいちいち書いてくるが、お金を突き返しては来ないので、使ってくれてると思う。

きっと、たぶん。

、、、、、まさか、私の為に貯めてたりしないよね?




ジョンおじさんに手紙を送るとすぐに、医学部生となったサムエルも私を訪ねてきた。


驚く事に、サムエルは私に結婚の申し込みをしてくれて、ありがたかったが断った。

サムエルは私がお金の為に公爵様と寝た事を知らない。

結婚して、その事実を知る事があれば傷付くだろう。

それに、何故か、私の心の中にはずっと公爵様が居座ったままなのだ。彼にどいてもらってからでないと、相手は探せなさそうだ。


そう、お気付きだろうか、私の男の趣味はどうやら最悪だ。おまけに面食いときた。今後、気を付けねばなと思う。

時間とともに私の中の公爵様の居座る場所は小さくなりつつある。

出来れば、早めにどいて欲しい。








***


その早春のある日、薄い雲が空を覆い、細かな雪がちらついていた。風が強く、雪は花のように校庭を舞っていた。


授業を終えた私は、昼下がりに学校を出て下宿先へと向かう。私は雪が舞う校庭を横切りながら、門の所に背の高い男が立っているのに気付いた。


雪を舞い上げる風に、その金髪がなびく。

外套の襟を立てているので、顔までは見えないが、立ち姿はとても優雅だ。

門を通る学生達が頬を染めている。



公爵様だと思った。


私の心臓が早鐘を打つ。

私は努めて冷静に、公爵様をやり過ごそうとした。挨拶しても無視されるのは分かっている。


さりげなく、前を横切る事にして歩みを進めた。

横を見ないようにして、さっと門をくぐる。



よし、やり過ごせたわ、と思った瞬間、突然、後ろから抱きすくめられた。

その手と香りに包まれた事のある私の心臓が跳ねる。


ぎゅうっと私を抱き締めた公爵様は、腕をほどくと、「やあ、ツイスティ」とほんの少し微笑まれた。


2年ぶりの公爵様は、シャツにトラウザーズに外套といったラフな格好だが、充分に王子様している。

さすが公爵様。


そこで私は公爵様の唇の端が切れているのに気付く。

頬も少し腫れている。

「顔、どうされたんですか?」

「ジョンに殴られた」

「えっ?おじさんに?」


驚く私に構わず公爵様は続ける。

「あなたは未婚か?」

「えっ?はい」

「恋人は?」

「おりません」

「なら、俺と結婚してくれ」

「それは、、、出来ません。奥様が悲しみます」

「悲しまないだろう。爵位は弟に譲った」

「、、、、へ?」

「この秋にも、弟とマレーネが結婚する」

「は?」

「今は、俺はただの平民だ」

「え?」

「だから、俺を堕落させた責任を取るんだ、ツイスティ」




、、、、、、、え?




2年ぶりの公爵様は、平民の男になっていた。

外見は王子仕様のままで。


「あなたに捨てられると、俺は終わるんだが、どうする?」

断れる訳がない。

彼は絵本の中の王子様で、私はしがない小娘なのだ。


「承りました」

そう伝えると、柔らかく微笑まれた。

今まで1度も見た事のない、本物の王子の微笑みだった。

私は、この時初めて、公爵家での彼の笑顔が全て作り笑いだった事に気付いた。








***


私達の生活が、美しい湖の近くの町の瀟洒なアパルトメントで始まった。

元公爵様であるクロードは、家を出る時に自分の興した自動車の会社を持って出てきていて、新進気鋭の社長として忙しくしている。

私に捨てられると終わる、とか言ってたのは誰だ。

嘘つき。


私に捨てられたら終わる筈だった男は、「軍隊でやっていたから」と身の回りの事は、問題なくこなし、最近は料理も行うようになった。

しかも、私の作るものより美味しい。

王子は、どこまでも行っても王子らしい。





「あなたは、自分がそれなりに裕福な社長夫人である事に気付いているだろうか?」

休日の朝、高価な青色の絵の具を、最後の一滴まで使いきろうと、チューブと格闘している私にクロードが言う。


「絵の具くらい、俺がいくらでも買う」

「これは、私の趣味なので、結構です。自分の稼ぎで買います」

「強情だな」

「そこがお好きだと、こないだ仰いました」

「それは、夜の話であって、普段はもう少ししおらしい方が好みだ」

美しいお顔で、朝っぱらから何て事を言ってるんだ。

私が、言葉を失っていると、クロードは優しく微笑み、私にキスをした。



これが今の私の平穏な日々だ。





最後までお読みいただきありがとうございました!


俺様を書いてみたくて、、、、書いてみました。

イライラした、キュンキュンした(した方いるかな?)方がいらっしゃれば良いのですが。


本作で一番良い仕事したのは、ジョンおじさんと奥様です。


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― 新着の感想 ―
そうですねぇ。ツインスティの恋心はさっぱり分かりませんが!奥様にキュンとしました。公爵家のプライドのある奥様が彼女のせいではないにしても、嫡男の人生を乱している下働きの娘の才能をきちんと理解し把握し彼…
[良い点] 全て作り笑いだったことに気づいた、のところで実は公爵様ももがいていたのかなと思わされて、上手いですね。 奥様や周りの人の言動にも無理がなく、スッキリまとまっていてよかったです。 [一言] …
[良い点] 公爵様には「俺様」と簡単には一括りにできない魅力を感じました。 どの人物もそれぞれの立場の常識や立場や思いやりを持って接していて、読後感がとても爽やかでした。 (*´-`)
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