3.冬の出来事
その冬、ジョンおじさんが足を大怪我して入院した。
大金が必要になってしまい、私はおじさんにもサムエルにも内緒で、夜に町のクラブで働いた。
会員制の高級なクラブで、本来なら孤児だった私が働けるような所ではないが、公爵家の使用人である事が幸いした。クラブのオーナーは、私は見た目も良いからと、なかなかのお給料で働かせてくれたのだ。
クラブの客は貴族か裕福な商人達。カードゲームや秘密の商談をする彼らに、にっこり笑ってお酒を差し出すような仕事だった。
クラブで働きだして、3日目、私は公爵様に見つかってしまう。
公爵様は、支給された黒いドレスに身を包んだ私を、底冷えのするような榛色の目で見つめられた。
「ツイスティ、何をしている?」
公爵様に名前を呼ばれたのはこれが初めてだった。
公爵様はクラブのオーナーに、何やら耳打ちされると、私の腕を掴んで外に連れ出した。
「困ります」
「話は通しました。うちの使用人にあんな所で働かれては困ります。質の悪い人も出入りする場所です」
私は、まだこの辺りでは大変珍しい、公爵様の車に乗せられる。
車の中で、私はジョンおじさんの怪我と入院の費用について説明させられた。
「金額はいくらだ?」
金額をお伝えすると、公爵様は薄く笑われた。
「あなたが私の愛人になるなら、払ってあげましょう」
冷たい目で公爵様は言った。
「お断りします」
私はすぐに断った。
お金はすごく欲しいが、こんな話、受けたらジョンおじさんが悲しむ。
悲しむだけではすまない、激怒して勘当だ。
「なぜ断る?公爵の愛人はなかなか良いポジションだが?孤児であった、あなたには特に」
「私の人生をそんな風に決めては、ジョンおじさんが悲しみます」
きっぱりと、公爵様の目を見てそのようにお伝えした。
「ふむ、、、、」
公爵様はしばらく思案される。
「人生とは大袈裟ですね。では、一晩ならどうですか?」
くすり、と公爵様は笑われた。
「一晩?」
「ええ、今夜、一晩です。いかがです?」
「一晩で、さっきの金額ですか?」
私とジョンおじさんにとっては大金なのだ。それが、一晩で?
「ええ」
「畏まりました」
そうお答えすると、公爵様は少しだけ、その榛色の目を見開かれた。
車は公爵家の離れに付けられ、私は公爵様のお部屋に入った。
公爵様は優雅に万年筆を取ると、さらさらと小切手に金額を記入し、千切って床にひらり、とそれを落とした。
「どうぞ、前払いです」
私は黙って、それをゆっくりと拾った。
「では、服を脱いでください」
「分かりました」
するすると、ドレスを脱ぐ。
諾の返事をした時に覚悟は出来ていた。こういった経験はないが、ジョンおじさんと二人暮らしの私のそういう方面への知識を心配して、侍女さん達から、教えては貰っている。
大丈夫だ、何とかなるだろう。相手は公爵様だし、ひどい仕打ちはなさらないだろう。
「こちらも、脱ぎますか?」
シミーズ1枚になってから、公爵様に聞く。
「とりあえず、そこまででいいです。そのまま私を誘惑してください」
え?
「それは、、、、無理です」
「なぜですか?」
「こういう経験は無いので、やり方が分かりません。最初は殿方に全てお任せすると聞いております」
私の言葉に公爵様はびっくりされていた。
こういう表情をされるのは、とても珍しい。
「初めて、、、、、執事の息子と関係があるのでは?」
「サムエルは友人です」
サムエルと関係、と言われて私は赤くなる。
「向こうはそうでは無さそうだが、まあいい」
公爵様はゆっくりと私に近付いた。