36.創立記念式典
創立記念式典当日…
すでに王宮へと到着している王太子の側近であるアミルを除いたグランバード公爵一家が王宮へ到着した。
グランバード公爵一家は大広間へと案内された。
既に沢山の貴族たちが集まっていた。
騎士団による警備体制も万全だった。
「グランバード公爵御一行…ご入場されます。」
大広間の入口にいた騎士の一人が大きな声で言った。
それと同時にグランバード公爵一家が大広間へと入場した。
(とうとうこの日がやってきてしまったわね…。)
シャーロットは大広間に入るなり憂鬱そうな表情で考えていた。
「シャーロット…本当にそんなシンプルなドレスで良かったの?」
エラが大広間にいる他の令嬢達を見るなり心配そうにシャーロットへ言った。
「はい。シンプルドレスだからこそ孤児達の子たちが作ってくれた花の飾りが引き立つのですから。」
シャーロットはにこりと微笑みながらエラへ言った。
この日のシャーロットのドレスは白いドレスをベースにスカートのチュールの部分は薄めのピンク、水色、黄色の小さな花の飾りがあしらわれていたものだった。
スカートの広がりも抑えめのもので細めの作りだったがスタイルの良いシャーロットは難なく着こなしていたのだった。
(孤児達の子たちがサプライズで記念式典のドレスにって手作りしてくれたものだから絶対にドレスに付けたかったもんだもんね…。)
シャーロットはドレスについている花の飾りを見ながら優しい表情で考えていた。
「確かに…花の飾りは引き立ってるわね。シャーロットが納得しているならそれでいいわ。」
エラはにこりと微笑みながら言った。
そんな二人のやり取りを周りにいた男性陣達はシャーロットの美しさに見惚れていた。
しかし…シャーロットはそんな事にはまったく気づいていなかった。
(まったく…周りの男たちときたらシャーロットの事をジロジロと…。殿下との婚約が破棄になったと思っている者ばかりだろうからあわよくば我がものにと思っているのがバレバレだな…。変な輩が近づかない様に気をつけて見ておかなければな。)
ボブは周りのシャーロットに対する目線に気づき目を光らせてそんな事を考えていた。
「シャーロット…私とエイルは挨拶回りをしてくるが一緒に回るかい?エラはご夫人達と話をするのだろう?」
ボブがシャーロットとエラへ尋ねた。
「えぇ。私はご夫人たちと話をしてくるわ。」
エラが応えた。
「私は少し座って休んでいます。」
シャーロットが応えた。
(シャーロットを一人にしてしまうと変な輩が近づかないか心配になるが…シャーロットは何だか少し顔色が悪い気がするから無理に付き合わせるより休ませてあげた方がよさそうだな…。まぁ…シャーロットも変な輩が近づいてきたらある程度は自分でかわしてくれるだろう。)
ボブは心配そうにそんな事を考えていた。
「わかった…。では…何かあったらすぐに声をかけにくるといい。」
ボブがシャーロットへ言った。
「分かりました。」
シャーロットは頷きながら応えた。
そして…ボブ、エラ、エイルは各自行動した。
シャーロットは椅子へ座り少し休もうとテラスの近くに椅子があるのを見つけてそこへ向かった。
そして…椅子の元へ来ると椅子へ腰を下ろした。
(前世では…あそこに王太子妃として座っていたのよね…。)
シャーロットは国王、王妃、王太子が座る場所を見ながら考えていた。
(この記念式典がきっかけで私の中で何かが壊れていたったのよね…。)
シャーロットは表情を歪めて考えていた。
(今日…この日に殿下は運命の相手…ミレイ様と出会うことになる…。)
シャーロットは切ない表情で考えていた。
(でも…決めたでしょ?今世では二人を祝福すると…。それに…前世では叶わなかった殿下と過ごした時間の思い出があるでしょう?だから…シャーロット…大丈夫よ。どんなに辛くて悲しくても耐えるのよ…。それが全て上手くいく…殿下も幸せになれるし…私も…家族も死なずに済むんだから…。)
シャーロットはそんな事を考えながら胸をギュッと抑えたのだった。
シャーロットが一人そんな事を考えていたらテラスから話し声が聞こえてきた。
(何かしら?何だか揉めてる?のかしら…。)
シャーロットはテラスから聞こえてきた話し声を聞きそんな事を思った。
そして…そっとテラスを覗いた。
テラスを覗いたシャーロットは目を見開いて驚いた。
そこにはミレイがいたからだった…
(え?!ミ…ミレイ様?!)
シャーロットは驚きながら考えていた。
「あなた…元々平民だそうね?元々平民の方がどうしてこんな場所へ図々しくもいるのかしら?」
ミレイの近くにいた令嬢の一人が強めの口調でミレイへ言った。
「平民の臭いが移って仕方ないわ。」
別の令嬢が扇子で口元を隠しながら嫌そうな表情で言った。
「平民だからこういう場での作法もわからないの?!」
更に別の令嬢がミレイを睨みつけて言った。
「あなたみたいな方が図々しくも殿下にお目にかかろうと?!調子に乗るのもいい加減にしなさい!」
令嬢の一人がミレイを睨みつけて言うとミレイに向かって飲み物をぶちまけた。
「きゃっ…。」
ミレイが思わず声をあげた。
「あら…ごめんなさい…。手が滑ってしまったのよ。そんなに汚れたドレスじゃ殿下にも会えないわね…。何汚らしいのかしら…。平民にはお似合いだわ。」
飲み物をぶちまけた令嬢が嫌な笑みを浮かべながらミレイへ言った。
令嬢達に囲まれたミレイは小さく震えながら下を向き黙っていた。
「あら…。泣いてるのかしら?泣くならお帰りなってはどうかしら?」
令嬢は更にミレイをバカにする様に笑いながら言った。
(……あぁ…もう!)
その状況を見ていたシャーロットは苛ついた表情で心の中で言った。
そして…
バサッ…!!
シャーロットはテラスのカーテンを開けてテラスへ足を踏み入れた。
「あなた方…ここで何をしているですか?」
シャーロットはテラスへ出るとミレイをイジメていた令嬢達へ冷たい表情で言った。
「…!シャーロット様!」
令嬢の一人がシャーロットを見て驚き言った。
「こんなところで何をしているのですかと聞いているのですけど?」
シャーロットは更に令嬢達へ言った。
「シャーロット様…こちらの男爵家のご令嬢はどうやら元々は平民の様で礼儀を知らない様でしたので教えて差し上げていたところなのです…。」
令嬢は苦し紛れにシャーロットへ言った。
「……礼儀ですか…?礼儀ならば…あなた方の方が直さなければならないのではないですか?」
シャーロットは真顔で礼儀達へ言った。
「ど…どういう意味ですか?!」
令嬢の一人がカッとなり言った。
「この様な場で寄ってたかって…元平民だからだという理由だけで周りも気にせずはしたない行動を取るなんて…。貴族のご令嬢として恥ずかしくはないのですか?よほどこちらのご令嬢の方が場をわきまえてるのではないかしら?この様な場で騒ぎを起こさない様にあなた方に酷いことを言われてもじっと黙って話を聞いていたんではないですか?」
シャーロットは冷たい視線で令嬢達に言うとミレイを手で指し言った。
シャーロットに言われた令嬢達はグッと表情を歪ませ黙った。
「それに…あなた方は平民を馬鹿にした様な物言いをしてましたけど…身分が低いからといって決して馬鹿にされる様な方達ではないですよ?私は身を持って知っていますが平民の方達はこの様に間違った行動をさも正しいかの様にせず相手を思いやり助け合い…礼儀もきちんとわきまえてる人ばかりですよ?少なくともあなた方の様に自分勝手な行動ばかりはしない方達よ…。」
シャーロットはあえてにこりと笑みを浮かべて令嬢達へ言った。
(前世の私もこの令嬢たちと変わらなかったわね…。平民なんてって思ってたんだから…。でも…今世では違うわ。孤児院で働いてみてミーシャさんや子供達…それに街の人達と接してみて平民だからなんて考えはなくなったんだもの。平民だからと理由で理不尽な事を言われるのを黙って聞いてなんていられないわ。)
シャーロットはそんな事を令嬢達を見て思っていた。
「これ以上…この方があなた方と話す必要はありませんよね?」
シャーロットはミレイを手で指して令嬢達へ言った。
「……は…はい。」
令嬢の一人が言った。
「では…私達は失礼しますね。」
シャーロットはにこりと微笑みながら令嬢達へ言った。
「あなた…お名前は?」
シャーロットがミレイの方を見て言った。
(さすがに会ったこともないのに名前を知っているのはおかしいもんね…。)
シャーロットはそんな事を考えながらあえてミレイへ名前を尋ねた。
「あ…。グリム男爵家のミレイ・グリムと申します…。」
ミレイが応えた。
「……。私はグランバード公爵家のシャーロット・ドゥ・グランバードと申します…。ミレイ様…そのドレスのままはよくありませんから私についてきてください…。」
シャーロットがミレイへ言った。
「え?あ…はい…。」
ミレイはシャーロットの言葉に戸惑いながら応えた。
そして、シャーロットとミレイはテラスを後にしてボブの元へと向かった。
シャーロットはボブにミレイに着替えをさせてあげたいからと部屋を一室借りれる様にお願いした。
そして、シャーロットとミレイはボブが用意してくれた部屋へと向かった。
シャーロットは自分の替えのドレスをミレイに渡して着替えさせたのだった。
(はぁ…。私は何をしているのかしら…。ミレイ様を連れてくるなんて…。でも…見てみぬふりは出来なかったのよね…。まぁ…前世ではミレイ様に酷いことをしてしまったからこれは前世でのほんの少しの罪滅ぼしということで…。)
シャーロットはミレイが着替えをしている間にソファーに座り複雑な表情で考えていた。
「シャーロット様…着替えが終わりました。」
そこへミレイの着替えを手伝った王宮の使用人がシャーロットへ声をかけた。
「ありがとうございます…。お手伝い頂き助かりました。」
シャーロットは使用人へお礼を言った。
そして使用人は部屋を出ていった。
使用人が出ていき部屋にはシャーロットとミレイの二人きりになった。
「あの…助けて頂いた上に…ドレスまで貸していただきありがとうございました。」
ミレイがシャーロットへお礼を言った。
「……。気にしないで下さい。お疲れになったでしょう?一先ず座って下さい。こちらの部屋で少し休まれてから会場に戻られるといいですよ。」
シャーロットがミレイへ言った。
「ありがとう…ございます。」
ミレイがシャーロットへ言うとソファーへ座った。
「……シャーロット様は…聞いていた通りとても優しい方ですね。」
ミレイが少し緊張しながらも笑みを浮かべて言った。
「え?聞いていたって…誰からですか?」
シャーロットはミレイの思わぬ言葉に戸惑い言った。
「あ…フーパーです…。」
ミレイが応えた。
「え…?フーパーからですか?」
シャーロットはミレイの口から出た名前を聞き驚き言った。
「はい。フーパーからシャーロット様の話はよく聞いていました。」
ミレイは笑みを浮かべて言った。
「……もしかして…ミレイ様がフーパーの恋人…なのですか?」
シャーロットが戸惑いながらミレイへ言った。
「はい。」
ミレイが頷きながら応えた。
(どういうことなの?!ミレイ様がフーパーの恋人?!前世ではミレイ様に恋人がいたなんて聞いたことなかったわよ?!)
シャーロットはミレイの言葉を聞き状況が掴みきれず戸惑いながら考えていた。
「フーパーから恋人の名前を聞いていませんでしたので少し驚きました…。それにフーパーからミレイ様が記念式典に参加されるなんて聞いていなかったので…。」
シャーロットは戸惑いを誤魔化す様にミレイへ言った。
「………それは…。」
ミレイは急に表情を曇らせて言った。
「??もしかして…フーパーはここにミレイ様が参加している事を知らないのですか…?」
シャーロットはミレイの表情を見てもしやと思い尋ねた。
「……はい…。フーパーは知りません…。」
ミレイは辛そうな表情で言った。
「どうして…ですか?話したくなければ話さなくても結構ですが…。」
シャーロットがミレイへ言った。
「……実は…フーパーには私が今こうして男爵家の令嬢として生活しているということは伝えてません…。フーパーには理由も伝えず一方的に別れを告げたのです。貴族の家の娘として生きていくならフーパーとはもう今までの様に会えないと思ったので…。」
ミレイは辛そうな表情でシャーロットへ言った。
「理由もなく別れを告げられてフーパーは納得しなかったでしょう?」
シャーロットがミレイへ言った。
「はい…。もちろん理由を聞かれましたが半ば逃げるような形で別れを告げてきました。」
ミレイが悲しそうな表情で言った。
(だから…あの日フーパーの様子がおかしかったのね…。)
シャーロットは孤児院でフーパーの様子がおかしいと思ったときの事を思い出しながら考えていた。
「……。本当に良かったのですか?理由も言わずに別れを告げて…。」
シャーロットが言った。
「……。理由をあえて言わない方がフーパーの為だと思ったのです。でも…それは違ってました…。先程シャーロット様がテラスでご令嬢達に言って下さった言葉を聞いて物凄い後悔が押し寄せてきました…。」
ミレイは辛そうな表情で言った。
「私は…元々、孤児院で暮らす孤児でした…。」
ミレイが言った。
「え?孤児院の?!」
シャーロットがミレイの言葉を聞き驚き言った。
「はい…。フーパーが孤児院へ連れて来られるより少し前まで…。私はオマーン元公爵に奴隷として売り渡される予定でした…。でも…私は急に怖くなり咄嗟に隙を見て逃げ出したのです。その時に助けてくれたのが今の両親でした。その後逃げた私を探す人達から隠し守ってくれました。そして両親は私を我が子として育ててくれたのです。数年後に両親の間には弟が生まれましたがそれでも変わらず私を本当の娘として愛情を注いで育ててくれました…。」
ミレイがシャーロットへ説明した。
シャーロットはミレイの話を黙って聞いていた。
「そして…ある日本屋でフーパーと出会いました。よく話を聞いてみるとフーパーは孤児院に住んでいてフーパー自身も奴隷として売り渡されかけた事を知りました。私達は本が好きという以外にもだけではなくお互い孤児院の孤児という共通点がありました。それからは時間があればフーパーと会いました。そして…お互いの気持ちを確かめ合いました。フーパーは私に一目惚れをしたと言ってくれましたが実は…私もフーパーに一目惚れだったのです…。フーパーは将来私をお嫁さんにしたいと言ってくれました…。私もそうなりたいと思っていました…。」
ミレイは幸せそうな表情を浮かべてシャーロットへ話を続けた。
「でも…少し前にうちにグリム男爵が訪ねて来たのです。グリム男爵家の養女になって欲しいとの話でした。男爵夫人が以前私を街で見かけた様で娘が欲しかった夫人がどうしても私を養女にとお考えになっていた様だったのです…。私が養女になるのと引き換えに私の家族にはそれなりの報酬が支払われると言われました…。私はそれだけのお金があれば家族が幸せになれると思いました…。だから…家族の幸せの為にと男爵家の養女になろうと思いました。フーパーもたとえ私が別れを告げたとしても…フーパーならすぐにいい人が出来るだうと…。」
ミレイはまた辛そうな表情で話を続けた。
「ですが…間違っていました…。私の家族は私と引き換えに報酬を貰う事に納得していませんでした…。でも…私がそれを押し切ったのです。報酬さえ貰えれば将来苦労することもないだろうと…。だけど…両親は私が家を出る日に…"いつまでも私は自分達の大切な娘だと"言ってくれました。私が勝手にお金があれば幸せになれるなんて思っていただけで両親はそんな事は望んでいなかったのです…。」
ミレイは更に続けた。
「フーパーの事も…。フーパーなら私が別れを告げていなくなってもすぐにいい人が見つからと言い聞かせていただけで本当は…自分じゃない誰かがフーパーの隣にいるなんて想像もしたくないんです…。フーパーの気持ちも考えず自分勝手に別れを告げて逃げる様な事をして…結局私は家族にもフーパーにも自分勝手な行動をとっただけなのです…。」
ミレイは胸を手で抑えながら悔しそうに辛そうに言った。
「私の本当の幸せはここではなく…両親と弟…フーパーがいてこそあるのだと今更…思い知らされたのです…。」
ミレイは目に涙を浮かべて言った。
(彼女にはそんか過去があったのね…。前世ではミレイ様の存在が疎ましくて憎くても彼女の過去なんて気にもしていなかったから…。)
シャーロットはミレイの話を聞いてそんな事を考えていた。
(前世ではオマーン元公爵の悪事が明るみになる時期が違ったからミレイ様がフーパーに会うこともなかった…。でも…今世では私が悪事を早急に暴いた事でフーパーは奴隷として売り飛ばされる事がなくなったからミレイ様と出会ったということね…。)
シャーロットは自分が取った行動で状況が変わったことを把握しながら考えていた。
「人は…何かを失ってからその失ったものの大切さに気づくものです…。それはミレイ様だけに限った事ではありません。」
シャーロットはどこか切ない表情でミレイへ言った。
(私も身を持ってその辛さを知っているから…。でも…そうなると殿下との関係はどうなってしまうのかしら…。殿下にとっての運命の相手はミレイ様だというのに…。ミレイ様はフーパーと恋人同士だなんて…。私は今世でも殿下の恋の邪魔をすることになってしまったのね…。)
シャーロットは表情を歪ませて考えていた。
その時…
コンコンッ……
部屋の扉が鳴った。
「?はい…。」
シャーロットが応えた。
「私だ…。」
「え…?殿下…?」
部屋を訪れたのはローランドだった。
ローランドが訪ねてきた事に驚いたシャーロットは驚き言った。
「入ってもいいだろうか?」
ローランドが言った。
「……はい。」
シャーロットは表情を歪めて応えた。
(まさか…こんな形で殿下とミレイ様が顔を合わすなんて…。)
シャーロットが考えていた。
「失礼する…。」
ローランドはそういうと部屋へと入ってきた。
「…殿下…どうなされたのですか?」
シャーロットは表情を固くしながらローランドへ言った。
「え?あぁ…シャーロットを探していたらグランバード公爵がここだと教えてくれたのだ。」
ローランドが応えた。
「そう…だったのですか…。」
シャーロットは緊張した表情で言った。
「公爵から話は聞いた…。もうそちらの令嬢の着替えは終わったのか?」
ローランドがチラっとミレイを見て言った。
「ん…?君は…。」
ミレイを見たローランドが呟いた。
「…ミレイ様の着替えは終わっています。私は先に会場に戻りますので…どうぞ殿下はミレイ様を会場までお連れしてあげて下さい…。」
シャーロットは下を俯きながら早口でローランドへ言った。
そして…シャーロットは二人の姿を見ることなく部屋から出ていった。
「シャーロット…!」
ローランドが部屋から出ていくシャーロットの名前を慌てて呼ぶもシャーロットはそのまま部屋から出ていったのだった…。
(シャーロット…。)
ローランドは何故だか妙な胸騒ぎを覚えながら思っていた。
部屋を飛び出したシャーロットは大広間へと向かった。
(急に部屋を出て二人を不快にさせてしまったかしら…。でも…あの場にあれ以上いるのは無理だった…。二人の姿を見のが辛かった…。私が辛くてなる資格なんてないのに…。この日が来たら二人を祝福するって決めてたじゃない…。こんな事で胸を痛めるなんてシャーロット…あなたは自分勝手すぎるわ。早く気持ちを落ち着かせないと…。次に殿下の顔を見るときには平常心でいないとね…。)
シャーロットは足早に大広間に向かいながらそんな事を考えていた。
「シャーロット!!」
そこへローランドが勢いよく走りながらシャーロットへ声をかけた。
「え…?で…殿下?」
シャーロットは思わず振り向きローランドの姿を見て驚いた表情で言った。
「シャーロット…待て!」
ローランドがシャーロットの元にやってきてシャーロットの手を掴み言った。
「殿…下…?どうして…?」
シャーロットは何故目の前にローランドがいるのか理解出来ず戸惑いながら言った。
「どうして急に出ていったのだ?!」
ローランドがシャーロットへ言った。
「それは………。」
シャーロットは俯き気味に言った。
(殿下とミレイ様…二人の姿を見るのが辛かった…なんて言えるわけないもんね…。)
シャーロットはそんな事を考えていた。
「シャーロット…君は…私から離れたいのか…?」
ローランドは少し辛そうな表情でシャーロットへ言った。
「え…?」
シャーロットはローランドの言葉に思わず顔をあげて言った。
「先程…部屋を出る君を見たとき…何故だか君が私の元から居なくなるのではないかと思ったのだ…。私の元から離れていく様な…そんな気がして今…シャーロットの手を離してはいけないと思ったのだ…。」
ローランドはどこか不安そうな表情でシャーロットの手を掴んだまま言った。
「…………。」
シャーロットはローランドの言葉を聞き黙った。
(確かに…私は今日を最後に殿下とは離れるつもりだったけれど…。でも…どうして殿下がそんな事を気にしてそんな表情をしているの…?ミレイ様と出会ったというのに…。)
シャーロットは表情を少し歪ませながら考えていた。
「やはり…私から離れていこうかと思っていたのだな…。何故だ…?」
ローランドは悲しそうな表情を浮かべて言った。
(どうして…殿下がそんな表情をするの…?)
シャーロットはローランドの表情を見て自分も切ない表情を浮かべて考えていた。
「それは……。それより…ミレイ様はどうされたのですか?」
シャーロットは複雑な表情でローランドへ話を遮る様に言った。
「ミレイ…?あぁ…先程の令嬢か?彼女にはもう少し部屋で休むように伝えてある。彼女もシャーロットを追いかけた方がいいと言ってくれたのだ…。」
ローランドが不思議そうな表情で応えた。
「え…?ミレイ様が殿下にそう言われたのですか?」
シャーロットはローランドの思わぬ言葉に驚き言った。
(一体…どういう事なの?!何故ミレイ様が殿下にそんな事を?)
シャーロットは戸惑いながら考えていた。
「あぁ…。今追いかけないときっと後悔すると言ってくれてな…。」
ローランドがシャーロットへ言った。
「彼女はフーパーの恋人だろう?何故彼女がこの様な場所にいるのかは分からないが…彼女がああ言ってくれなければ私は呆然となりすぐにシャーロットを追いかけてこられず後悔していたことだろう…。」
ローランドが言った。
「え…?殿下…何故ミレイ様がフーパーの恋人だとご存知なのですか?!」
シャーロットはローランドの言葉に更に驚き言った。
(殿下はもっと前にミレイ様と会ったことがあるというの?!)
シャーロットは混乱しつつ考えていた。
「収穫祭の日にフーパーが彼女と手を繋ぎ楽しそうに歩いているのを見かけたからな…。」
ローランドがシャーロットへ言った。
「収穫祭の日にですか?!」
シャーロットが驚き言った。
(確かにあの日…フーパーが女性と一緒の姿を見たけれど顔までは気にしなかったからミレイ様だって気づかなかったけど…殿下は見ていたのね…。)
シャーロットはそんな事を考えていた。
「あぁ。てっきり君も知っているのだと思っていたが…。」
ローランドが驚くシャーロットを見て言った。
「いえ…私はフーパーの恋人の顔を知りませんでしたのでミレイ様がフーパーの恋人だと聞いて驚いていたところなのです…。それより…ミレイ様をお一人にしていいのですか?殿下が側にいてさしあげた方が…。」
シャーロットが複雑そうな表情でローランドへ言った。
「??何故私が彼女の側に…?彼女は一人になりたそうだったから一人にしてやった方がいいだろう…。それよりも…。」
ローランドはシャーロットの言っている意味が分からないという表情で言った。
「シャーロット…こんな場所で言うことではないとは分かっているのだが…言わせてくれ…。」
ローランドが急に真剣な表情でシャーロットへ言った。
「…何をでしょ…うか…?」
シャーロットは何を言われるのかが怖くて思わず表情を歪ませて言った。
(何を言われるの…?)
シャーロットは胸が苦しくなるのを感じながら考えていた。
「……何故…シャーロットが私から離れようとしているのか分からないが…やはり…王太子妃には…私の横にいる存在はシャーロット…君でないと嫌なのだ…。だから…どうか…もう一度私と婚約してくれないか…?そして…一生私のそばに…隣にいてくれないか?」
ローランドは意を決した表情で真剣にシャーロットへ言った。
「…え…??」
シャーロットはローランドにミレイの話をされると構えていたのであまりにも予想外の言葉に呆気にとられた表情で言った。
「もう一度…私との事を考えて欲しいのだ…。」
ローランドが更にシャーロットへ言った。
シャーロットはあまりの驚きに声を出せず固まっていた。
「殿下!!」
そこへアミルが慌てた表情をしてローランドに近づき走りながらローランドへ言った。
「え…?アミルお兄様?」
シャーロットはハッとなりアミルを見て言った。
「ロッティ…?何故ロッティがここに?」
アミルもシャーロットを見て驚いて言った。
「それよりも…殿下!お急ぎ下さ。式典が始まります。陛下も王妃様も殿下をお待ちです!」
アミルはシャーロットとローランドが一緒にいることに驚くも取り急ぎローランドへ伝えた。
「……あぁ。分かった。すぐに向かおう。」
ローランドはグッとなったが仕方なくアミルへ言った。
「……シャーロット…先程私の言った事を真剣に考えてみてほしい…。」
ローランドはシャーロットへボソリと言った。
「……。承知致しました…。」
シャーロットは戸惑いながらも応えた。
「殿下!急ぎましょう…。ロッティ君も早く父上達の元へ行きなさい。」
アミルがローランドへ言うとシャーロットにも言った。
「あぁ。」
「はい。分かりました。」
ローランドとシャーロットが応えた。
そして…その後三人は大広間へと戻った。
そして…その後国王であるキーランドの挨拶で式典が開始された。
例年通り式典は何事もなく無事に終わりを告げたのだった。
式典が終わった後は祝いのパーティーが開催された。
式典後にミレイがシャーロットの元を訪れて再度お礼を言うとミレイはパーティーには参加せずパーティー後にグリム男爵夫婦と改めて話をするとだけ伝えて帰って言ったのだった。
(それにしても…一体何がどうなっているのかしら…。ミレイ様がフーパーの恋人な上に殿下はミレイ様に特に何かの感情がある訳でもなさそうだったわ…。それどころか私ともう一度婚約して欲しいだなんて…。)
シャーロットはパーティー中にも関わらず一人に壁際の椅子に座り飲み物を飲みながら考えていた。
(前世の式典は私は王太子妃として…今世では殿下とは婚約破棄した上での式典参加だとしても…前世の時と状況が違いすぎて困惑するわ…。)
シャーロットは更に悩みつつ考えていた。
「シャーロット様…。」
そこへ一人の男性がシャーロットに声をかけてきた。
シャーロットは声をかけてきた男性を見た。
(誰…かしら…。)
シャーロットは男性を見て考えていた。
「シャーロット様…私はパスカル伯爵家のゴウム・パスカルと申します…。よろしければ私と一曲踊って頂けないでしょうか…。」
伯爵家の息子だったゴウムがシャーロットへとダンスの申込みをした。
「……えぇと………。」
シャーロットは急な申し出に困惑しつつ言った。
ゴウムがシャーロットにダンスの申込みをしているのを見た他の貴族の息子達もシャーロットの元へと集まってきた。
「シャーロット様…。どうぞ私ともダンスを。」
「いえ…是非私とダンスを…。」
「シャーロット様。私と…。」
あわよくば自分とダンスをと集まってきた貴族の息子達がシャーロットへ何人も申し出た。
(何なの?!何で急にこんなに集まってくるの?!)
シャーロットは状況が飲み込めない状態で困惑しながら考えていた。
「え…ぇと…私は…。」
シャーロットは困惑気味な表情を浮かべて申し出を断ろうとした。
その時…
「シャーロット…良ければ私とダンスを踊ってはくれないか?」
そこへやって来たローランドがシャーロットへ言った。
「え?殿下…?」
シャーロットはローランドの登場で更に困惑して言った。
「今日は記念式典だ…。創立を祝って私と踊ってはくれないだろうか?」
ローランドがもう一度シャーロットへダンスを申込んだ。
「………。承知致しました…。是非…よろしくお願い致します。」
シャーロットは少し悩むも頷きながらローランドへ応えた。
シャーロットの応えにローランドは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ありがとう…。では…。」
ローランドはそう言うとシャーロットへ手を差し出した…
シャーロットがローランドの手を取ると二人は大広間の真ん中まで歩きダンスを踊り始めた。
「先程は慌てていて言えなかったのだが……今日のドレス…とてもよく似合っている…。」
ローランドはダンスを踊りながら少し照れながらシャーロットへ言った。
「…?!っ…あ…ありがとうございます…。今日のドレスはとても気に入っているものですので…。」
シャーロットは頬を赤くして照れた様に言った。
「ドレスに付いている花飾りがとても映えているな…。」
ローランドはチラッとドレスのスカート部分を見て言った。
「はい…。この花飾りは孤児院の子たちが作ってくれた手作りの花飾りなのです。今日の為にと子供達がサプライズで作ってくれたものなのです。」
シャーロットはローランドに花飾りの事を言われるととても嬉しそうな表情で言った。
「そうか…。孤児院の子たちが作ってくれたものなのだな。」
ローランドは嬉しそうなシャーロットを見てフッと笑みを浮かべて言った。
「はい。」
シャーロットは笑みを浮かべて応えた。
その後もシャーロットとローランドを息をぴったりと合わせてダンスを踊った。
(前世では…王太子妃になる前もなってからですらも殿下とダンスなんて踊った事などなかったのに…。前世では殿下とミレイ様が私の前で踊る姿を見て当てつけの様に感じて恨めしく思っていたわね…。それが…今はこうして殿下と踊っているなんて…。)
シャーロットはどこか切なそうな複雑な表情を浮かべて考えていた。)
(シャーロット…君はどうしてそんな表情をしているのだ…?)
ローランドはそんなシャーロットの表情を見て考えていた。
「………シャーロット…。先程私が言った事だが…。」
ローランドが踊りながらシャーロットへ言った。
「あっ……。」
シャーロットはハッとなり言った。
「私の気持ちは本気だ。その事はシャーロットにもわかって欲しいのだ。私の気持ちはこれからも変わらないだろう…。だから…シャーロット…もう一度私の申し出を考えてみてはくれないだろうか?」
ローランドが真剣な表情で気持ちシャーロットの腰を支えてる手に力を入れて言った。
(殿下は…本気…なの?!本気で私を王太子妃にと考えているの…?)
シャーロットはローランドの真剣な表情を見て胸が締め付けられる感覚を覚えながら考えていた。
「……。分かりました…。きちんと私なりに考えてみます…。」
シャーロットは頷きながらローランドへ言った。
(殿下が真剣に私へ伝えてくれたのならば私もきちんと考えないと失礼だもんね…。)
シャーロットそんな事を考えていた。
「…ありがとう…。それと…それはそれとしてこれからも予定が会えば私との時間を作ってはくれないか?その…また…シャーロットの淹れてくれる美味しいお茶を飲みたいし…あの…湖にも行きたいと思っているのだ…。」
ローランドは少し言いづらそうな表情で緊張気味にシャーロットへ言った。
「……ふっ…。分かりました…。頭に入れておきます…。」
シャーロットはローランドの表情を見て思わずにクスっと笑みを溢して言った。
(ふふ…何だか…殿下が可愛く見えて…さっきまで色々と悩んだり考えたりしていたのが嘘みたいに思えるわ…。)
シャーロットはそんな事を考えていた。
「な…何故…笑うのだ?」
ローランドはクスっと笑うシャーロットを見てムスっとした表情で言った。
「い…いえ…申し訳ありません…。何でもありません…。」
シャーロットは含み笑いを浮かべて言った。
ローランドはそんなシャーロットをムスっとして見たがすぐに優しい笑みを浮かべてシャーロットを愛おしそうに見ていたのだった…
こうして…シャーロットにとって二回目の創立記念式典…記念パーティーは終わりを告げたのだった…
この日のパーティーでのローランドのシャーロットへ対する対応が貴族達をざわつかせた。
これまでパーティーでローランドは令嬢とダンスを踊ったことがなかったからだ。
それに加えて自分から令嬢をダンスに誘うなどもってのほかだっただけに貴族達の中でローランドはシャーロットを再度王太子妃に迎えようとしているのるではという話が飛び交っていたのだった…
そんな噂はもちろん貴族達以外にも…王宮の使用人や騎士団の騎士たちの耳にも入り使用人や騎士達の中でもその話でもちきりだったのだった…
ご覧頂きありがとうございます★
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悪役令嬢でもなくヒロインでもないまさかのモブキャラに転生したので大好きなハンドメイドをしながら暮らす事にしました!(※不定期更新)
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ブックマーク&評価の方ありがとうございます★
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最後までお付き頂けると幸いです★




