35.思い出
シャーロットとローランドが約束していた湖に出かける日が訪れた…
シャーロットは朝早くから厨房に立ちローランドの為に料理をしていた。
シャーロットは湖でローランドと食べようと…
三種類のサンドイッチ…
ナッツ入りのサラダ…
きのこのキッシュ…
フルーツの盛り合わせ…
チョコクッキー…
搾りたてのオレンジジュース…
ミント水…
を用意した。
後は…敷きシートにカトラリーセットも用意した。
そして…ローランドがシャーロットを公爵邸まで迎えに来た。
「殿下…おはようございます。」
シャーロットがローランドへ挨拶をした。
「あぁ。おはよう。」
ローランドが言った。
「今日は…よろしくお願い致します。」
シャーロットが微笑みながらローランドへ言った。
「あぁ。こちらこそ…。さぁ…馬車乗って出発しよう。」
ローランドも微笑みながらシャーロットへ言った。
「はい。」
シャーロットが応えた。
そして…二人は馬車に乗り込み湖へと出発した。
※
「今日…行くところはどの様な場所なのだ?」
馬車の中でローランドがシャーロットへ尋ねた。
「小さいですが…とてもきれいな湖がある場所です。それに…とても空気が澄んでいて静かな落ち着く場所です。」
シャーロットが優しく微笑みながらローランドへ説明した。
「そうなのか…。シャーロットはその場所には行ったことはあるのか?」
ローランドがシャーロットへ言った。
「………。いえ…。初めて行く場所です…。行ってみたいとは思っていたのです。」
シャーロットは一瞬表情をくもらせたがすぐに表情を変えて言った。
(正確には…今世では行っていない。前世では一度だけ一人で足を運んだよのね…。本当は殿下と行きたかったけれど…殿下は私とではなくミレイ様と色々な所に出かけていたから…。それでも湖に行けば私も幸せになれるかと思って一人で湖を見に行った…。湖を見ているととても切ない気持ちになったのを覚えているわ…。結局のところ幸せどころか処刑されてしまったけどね…。)
シャーロットは切ない前世の思い出を思い出しつつ考えていた。
「……そうなのか。では…今日初めて行けるのだな。」
ローランドは少しホッとした表情で言った。
(もしや誰か他の者とすでにその場所へ行ったことがあるのかと複雑な気持ちだったが…まだ行ったことがない場所なのならば良かった…。私がその場所には初めて行く同行者なのだな。)
ローランドはそんな事を考えていた。
「……はい。そうですね。」
シャーロットは切ない思い出を隠すかの様な笑みでローランドへ言った。
「コホン…あ…それでだな…。その…今日は本当にシャーロットが手作りの食事を作ってきてくれたのだろうか?」
ローランドが一呼吸して少しソワソワしながらシャーロットへ尋ねた。
「はい…。作ってきましたよ?お口に合うかどうかは分かりませんが…殿下の苦手な食材は使用していませんのでご安心下さい。」
シャーロットはフッと笑みを浮かべてローランドへ言った。
「そうか…。ハハ…ありがとう。実は今日はそれも楽しみにしてたのだ。」
ローランドは嬉しそうに照れくさそうに言った。
(殿下…本当に私の作る料理を食べるのを楽しみにしていてくれたのね…。)
シャーロットはローランドの表情を見て胸がキューっとなるのを感じながら考えていた。
(まさか…殿下に手料理を食べてもらえる日が訪れるなんてね…。前世では考えられないことね。)
シャーロットはそんな事を考えていた。
「ところで…私の苦手なものがよくわかったな。」
ローランドが少し驚いた表情でシャーロットへ言った。
「あ…それは…アミルお兄様に事前に聞いておきました。アミルお兄様なら殿下の苦手なものを知っていると思いましたので。」
シャーロットはローランドへ説明した。
「そうだったのか。」
ローランドが言った。
(わざわざ私の苦手なものまで事前に確認しておいてくれたのだな…。私の事を考えての事だと思うだけでこんにも嬉しく心が満たされるとはな…。)
ローランドはフッと笑みを浮かべて考えていたのだった。
※
そうこうしているうちに目的地へと到着した。
シャーロットとローランドは馬車から降りて荷物を持つと護衛と御者をその場に残らせシャーロットの誘導のもと二人で茂みに自然に出来たようなトンネルを潜り湖がある場所へ向かった。
(この茂みの中の小さなトンネル…懐かしいわね…。)
シャーロットはトンネルを潜りながらそんな事を考えていた。
それからトンネルを抜けると小さいですがとてもきれいな湖へ到着した。
「殿下…到着しました。こちらです…。」
シャーロットはローランドへ湖を指差しながら言った。
「ここか…。小さい湖だがとてもきれいだな。それにとてものどかな場所だ…。」
ローランドはその場を見て言った。
「そうでしょう…?ここは人気もほとんどない場所なので気兼ねなく過ごすことができますしね…。」
シャーロットが言った。
「そのようだな…。」
ローランドは周りを見渡して頷きながら言った。
「殿下…あちらに荷物を置きましょう。」
シャーロットは湖の近くにあった木を指さしてローランドに言った。
「あぁ。」
ローランドは頷きながら言った。
そしてシャーロットとローランドは木の元へと行きシャーロットが持参した敷物を出して広げその上に持参した荷物を置いた。
「殿下、こちらにお座りください。」
シャーロットは荷物の中からお尻が痛くならない様にと薄いクッションの様な物を取り出し敷物の上に置くとローランドへ言った。
「これは?」
ローランドがクッションを見て言った。
「こちらは殿下のお尻が座っても痛くならない様にと敷くものです。」
シャーロットが不思議そうな顔でクッションを見るローランドへ言った。
「そうなのか?この様な物があるのだな。」
ローランドは少し驚きあ言った。
「はい。孤児院の食堂の椅子にと作ったものなのですが何枚か残っていたのを思い出して持ってきたのです。これを置くことでお尻に直接伝わる硬さを緩和できるのです。」
シャーロットがローランドへ説明した。
「これは…シャーロットの手作りなのか?!」
ローランドは驚き言った。
「はい。こちらは私が作りました。孤児院の食堂の椅子のものは何点か孤児院の皆に教えながら作りましたけど…。これでしたら孤児院の皆とも作れますし作る楽しみも体験できますので。」
シャーロットは優しく笑みを浮かべて言った。
「そうか…。シャーロットは本当に色々な事が出来るのだな。これほど軽くて持ち運びが出来るものなら外出時にもとても便利だな。」
ローランドは感心する様にシャーロットへ言った。
「そうですね…。あ…座り心地が悪ければすぐに仰ってくださいね。」
シャーロットが念の為にローランドへ言った。
「あぁ。」
ローランドが頷きながら応えた。
そして、シャーロットとローランドはその場に腰を下ろした。
その場にはとても心地よい風が吹いていた。
湖には周りの木々が反射して写りそれもまたきれいだった。
「本当にのどかな場所だな…。」
ローランドは静かに時が流れるのを感じながらシャーロットへ言った。
「はい。とても落ち着く場所なのです…。」
シャーロットは湖を見つめて風を感じながら応えた。
(この場所は前世と何も変わらないままね…。とてもきれいで…静かで…落ち着ける場所…。前世でもこうして風を感じながら湖を見ていたのよね…。)
シャーロットは前世の自分の行動を思い出しながら湖を見つめていた。
(本当に…シャーロットはこの場所へ訪れたのは初めてなのだろうか…。何故だろう。初めて訪れた様な雰囲気でない様に感じるが…。)
ローランドはどこか切なげな表情で湖を見つめるシャーロットを見ながらそんな事を考えていた。
「殿下…先に食事をなさいますか?」
ローランドがそんな事を考えているとシャーロットが不意にローランドの方を向いて言った。
「ん?あぁ…。そうだな。せっかくなので先に食べるとしよう。」
ローランドは頷きながら応えた。
「はい。分かりました。」
シャーロットが頷きながら言った。
そしてシャーロットは持ってきた荷物の中のものを取り出してローランドの前へ並べた。
そしてシャーロットはローランドの前へナフキンとカトラリーセットから取り出したお皿とコップ…ファークを並べた。
「あまり…豪勢なものはお作り出来ませんでしたがなるべく外でも手軽に食べられるものをと作りました。お口に合うかは分かりませんが…どうぞ…お召し上がり下さい。」
シャーロットは緊張気味にローランドへ言った。
(殿下に…料理を振る舞う時が来るなんて思ってもみなかったからいざ食べてもらうとなると凄く緊張するわね。)
シャーロットはそんな事を思っていた。
「これを…全てシャーロットが作ったのか?!」
ローランドは目の前に広げられた料理を見て驚いた表情でシャーロットへ言った。
「え?あ…はい。私が全て作りました。今日作ったもので時間が限られていてあまり手の込んだものは作れませんでしたが…。」
シャーロットが言った。
「いや…十分手が込んでいると思うが…。朝起きてこれだけのものを作るのは大変であっただろうな…。」
ローランドは料理をじっと見つめて言った。
「それほど…大変でもありませんでしたから気になさらないで下さい。孤児ではほぼ毎日料理していますので慣れたものですよ。」
シャーロットはにこりと微笑みながら言った。
「……私の為に…作ってきてくれてありがとう。シャーロットが私の為に作ってくれた事が想像以上に嬉しいものだな…。」
ローランドは心の底から嬉しいと言わんばかりの微笑みを浮かべてシャーロットへ言った。
ドキッ…
シャーロットは思わずローランドの微笑みに胸がドキッとした。
「い…いえ…。殿下とお約束していましたので…。さぁ…お食べください。」
シャーロットはドキドキした事を隠す様に慌ててローランドへ言った。
「あぁ。いただくよ。」
ローランドは笑みを浮かべて頷きながらシャーロットへ言った。
「はい。」
シャーロットは小さく頷きながら言った。
そして…ローランドは料理を食べ始めた。
(シャーロットが私の為に作ってきてくれたものだと言うだけでこれ程までに幸せな気持ちになり…心が満たされる…。それに…どれもとても美味しいな…。本当に以前のシャーロットとはあまりにも違いすぎて日に日に心を奪われていく様だ…。)
ローランドは心が満たされていくのを感じてそんな事を考えてながら食事をしていた。
「うん…どれもとても美味しいな。」
ローランドが満足気な表情でシャーロットへ言った。
「そうですか?お口に合った様で良かったです。」
シャーロットはホッとした表情で笑みを浮かべてローランドへ言った。
(良かったわ…。殿下が気に入ってくれた様で…。それにしても…こんなに喜んでくれて本当に良かったわ。殿下の事を思って作った甲斐があったしこんな風に殿下に食べてもらえる事が嬉しいなんて…。とても幸せな気持ちになるわ…。)
シャーロットはホッとしてそんな事を考えていた。
「孤児院の子供達はいつもこの様な美味しい手料理を食べているのだな…。」
ローランドはサンドイッチを一口食べて言った。
「育ち盛りな子供達ばかりですし…オマーン元公爵が責任者の時に辛い思いをしている子たちですのでその時の分まで今後はしっかり美味しく栄養のあるものを食べさせてあげたいので。」
シャーロットは笑顔で言った。
「本当にシャーロットは孤児院の事や子供達の話をする時は嬉しそうに話すんだな。」
ローランドがシャーロットの表情を見て言った。
「そうでしょうか?でも…そうかもしれませんね。私はただ…子供達には幸せだと思って生活していって欲しいですし…親が居ないからと寂しい思いや後ろ指をさされる様な思いはして欲しくありませんので。子供達が楽しく幸せに生活できるので嬉しいですしその為なら努力は惜しみません。」
シャーロットは堂々とローランドへ応えた。
「そうか…。」
ローランドが言った。
(今のシャーロットは本当に自分の事より孤児院や子供達の事を考えているのがわかるからな…。今や王都の街の者たちのシャーロットへの好感すらも見ていてわかる程だからな…。貴族だからといって傲慢に振る舞う訳でもなく…平民達にも寄り添いながら接していたからな…。)
ローランドはシャーロットの話を聞いてそんな事を考えていた。
そして…ローランドはあっという間に料理を完食した。
「すまない…。つい私ばかり沢山食べてしまい…。シャーロットはほとんど食べれていないな…。」
ローランドは自分ばかり食べてしまった事を後悔した様にシャーロットへ言った。
「いえ…構いませんよ。殿下の為に作ってきたのですから。それに…まさか私の作ったものを殿下に食べてもらえる日が来るなんて思ってもみなかったのでそれだけで何だか殿下が食べている姿を見ているだけで胸がいっぱいでしたし…何だかお腹までいっぱいになってしまいました。」
シャーロットはクスりと笑みを溢しながら優しい表情でローランドへ言った。
「そ…そうか…。」
ローランドはシャーロットの表情を見て言葉を聞いて思わずドキっとしながら少し照れた表情で言った。
(シャーロットは…どうしてこうも…さらっと私の嬉しい気持ちを言うのだろうか…。シャーロットも私とのこの時間を楽しいと思ってくれていると思っていいのだろうか…。)
ローランドは胸がドキドキするのを感じながらそんな事を考えていた。
「殿下は記念式典の事で多忙なのですよね?疲れている時は甘い物を食べるのもいいですから良かったらフルーツとクッキーもありますので召し上がって下さいね。」
シャーロットはにこりと微笑みながらローランドへ言った。
「あ…あぁ…。ありがとう。いただくよ。」
ローランドはドキドキしているのを隠しながら言った。
そしてローランドはクッキーを手に取り口にした。
(これは…うまいな…。王宮のお茶菓子とは違う…素朴なのにとても温かい気持ちになる味だ…。)
ローランドはクッキーを口にしながら思っていた。
「……もうすぐ記念式典だがシャーロットの方の準備は進んでいるのか?」
ローランドがクッキーを飲み込むとシャーロットへ尋ねた。
「……はい。式典へ着ていくドレスも決めましたので今週中には完成したものが届くことになっています。」
シャーロットは少し間を空けて応えた。
(前世では…式典の日が私と殿下の結婚式が終わった後だったから私は王太子妃としての出席だったからドレスはとても豪華なものを選んだけれど…今回のドレスは本当にシンプルなものにしたのよね。誰に見せびらかすわけでもないものね…。)
シャーロットはそんな事を考えていた。
「そうなのだな…。」
ローランドが言った。
「殿下の方は式典に向けての準備は進んでいるのですか?」
シャーロットがローランドへ尋ねた。
「あぁ。今のところは順調に進んでいるよ。」
ローランドが応えた。
「それは良かったです。当日も殿下は忙しくされるでしょうから時間を見つけて休める時は少しでも身体を休めて下さいね。」
シャーロットはローランドへ優しく言った。
「あぁ…。ありがとう。」
ローランドは優しい表情で言った。
「さぁ…殿下。せっかくこの様な空気が良く静かな場所に来ているのですから少し身体を楽にして休んで下さい。そちらの木に寄りかかってみてください。気持ちが落ち着く様に身体が休まりますから。」
シャーロットはローランドの目の下に少しクマがある事に気づき気遣う様に言った。
(きっと…殿下は式典の準備であまり寝れていないのね…。)
シャーロットはそんな事を考えていた。
「あ…あぁ…。では…少し休ませてもらうとしよう。」
ローランドは少し眠そうな表情で言った。
「はい。私は湖の方へ行っていますので何かありましたらお呼び下さい。」
シャーロットは優しく微笑みながら言った。
「あぁ…。」
ローランドが言った。
そして…
シャーロットはローランドが少しでも眠る事が出来る様に湖の方へと行った。
ローランドは木に寄りかかった。
シャーロットは湖の端へと腰を下ろした。
(本当にこうして…この場所へ殿下と来る事が出来て良かったわ。ある意味ではこの場所へ一緒に来たかったという願いが叶ったんだもの…。)
シャーロットは心地よい風を感じながら湖を見つめて考えていた。
(こうして殿下と二人で過ごす時間は本当に私にとっては忘れらない思い出になるわ…。式典が終わればこうして過ごすことはなくなるけれど殿下と過ごした時間全てが思い出だからその思い出があるだけで幸せだわ…。)
シャーロットは更に考えていた。
(きっとこれで…式典で殿下とミレイ様の二人の姿を見て胸が痛んだとしても大丈夫よ…。)
シャーロットは少しだけ胸がチクリと痛むのを感じるのを誤魔化すかの様に考えていた。
そして…シャーロットは自然と湖に手を伸ばした。
(前世ではこの湖はとても寂しく悲しい思い出の湖だったけど…今世ではとても幸せな思い出の湖になったわ…。)
シャーロットは湖に手を伸ばしながらそんな事をフッと笑みを浮かべて考えていた。
その時…
「シャーロット!!」
ローランドが湖へ伸ばしているシャーロットの手をパッと掴みシャーロットの名を呼んだ。
「え…?で…殿下?」
シャーロットは突然の事に驚き戸惑った表情で言った。
「あ…あぁ…すまない…。驚かせてしまい…。その…シャーロットが湖へ落ちてしまうのではないかと思い咄嗟に手を掴んでしまったのだ…。」
ローランドは驚き戸惑うシャーロットを見て慌てて言った。
「あ…そうだったのですね…。」
シャーロットは納得した様に言った。
「その…本当に落ちてしまっては危ないから戻って座るといい…。」
ローランドはシャーロットの手を掴んだまま言った。
「??…はい。分かりました。」
シャーロットはローランドが手を離さない事を不思議に思いながらも頷きながら応えた。
そしてローランドはシャーロットの手を掴んだまま敷物が敷いてある場所まで戻った。
(……先程は…何故だか…シャーロットが消えてしまうのではないかと思うほどシャーロットの顔が見えない事が怖かった…。本当に私の前から消えてしまうのではないかと思いとても怖くなり咄嗟にシャーロットの手を掴んでしまった…。)
ローランドはシャーロットの手を掴んだままそんな事を考えていた。
そして二人は再び敷物の上へ腰を下ろした。
「先程は…本当に驚かせてしまいすまなかった…。」
ローランドは改めてシャーロットに謝った。
「い…いえ…。私も勘違いさせてしまう様な行動をしていたのだと思いますので…。それよりも殿下は少しでもお休みになる事ができましたか?」
シャーロットが慌てて言うと話題を変える様に言った。
「ん?あぁ…。お陰で少し休むことが出来た。」
ローランドが応えた。
「そうですか…。それならば良かったです。」
シャーロットはローランドの言葉を聞きホッとした表情で言った。
「……それより…シャーロットにお願いがあるのだが…。」
ローランドがシャーロットへ言った。
「お願いですか?」
シャーロットが不思議そうに言った。
「あぁ。……式典までの最後の一週間の間に…私へお菓子作って持ってきてくれないだろうか?」
ローランドは少し考えてからシャーロットへ言った。
「え?私が殿下へですか?」
シャーロットは驚いた表情で言った。
「あぁ…。式典までの最後の一週間は特に多忙で疲れが溜まる…。だから…甘い物を食べて疲れを緩和する為にお願いしたいのだが…だめだろうか?」
ローランドは緊張気味にシャーロットへ言った。
(殿下ったら急にどうしたのかしら…。急にこんな事を言うなんて…。)
シャーロットは戸惑いながら考えていた。
「……ですが…私がそんなに頻繁に殿下を訪ねていけば王宮内や他の貴族の方々に変な噂が流れてしまいませんか?私は殿下の婚約者ではなくなりましたので王宮へ訪れると殿下にとっても不都合になるのではありませんか?」
シャーロットは戸惑いながらローランドへ言った。
(私がそんな行動したら間違いなく貴族達の間で良からぬ噂が流れるわ。そうなればいざミレイ様と出会った際に貴族達の殿下の見方が悪くなってしまうでしょうに…。)
シャーロットはそんな事を考えていた。
「その様な事…何も問題ない。言いたい奴らには勝手に言わせておけばいいのだ。」
ローランドはきっぱりと言い切った。
「ですが…。」
シャーロットは戸惑いながら言った。
(シャーロットは…その様な噂が流れては困るのか?)
ローランドは戸惑うシャーロットを見て考えていた。
「先程…シャーロットは私に無理をせず休めと言ったではないか。私はシャーロットの作る甘い物で疲れを緩和したいのだ…。」
ローランドは少しムスッとした表情でシャーロットへ言った。
「………。わかり…ました。その期間お菓子を作り殿下へお届け致します。」
シャーロットは悩みに悩んでローランドへ言った。
「本当か?!ハハ…では頼んだぞ。」
ローランドは嬉しそうにシャーロットへ言った。
「はい…。」
シャーロットは笑みを浮かべて言った。
(きっと…これ以上殿下と過ごすと気持ちが今以上に溢れ出てしまうわね。神様…式典が終われば殿下とミレイ様を祝福するから…それまでは…殿下との思い出を少しでも作れたらいいと思うことをお許し下さい…。)
シャーロットはそんな事を考えていたのだった…。
その後…日が暮れる前にはローランドはシャーロットをグランバード公爵邸まで送り届けたのだった…
その日の夜…シャーロットとローランドの二人は幸せな気持ちに浸りながら眠りについたのだった…
ローランドはいつの間にかシャーロットが消えがしまうのではないかという不安が飛んでいったのだった…
※
翌日…シャーロットは式典の一週間前から孤児院へ訪問出来ない事を孤児院の皆へ伝えた。
シャーロットは自分が訪問出来ない間はミーシャと子供達の中の最年長のフーパーへ下の子供達の事をお願いす事にした。
ミーシャにシャーロットの居ない間の流れを説明した。
フーパーは自室にいるようだったのでシャーロットはフーパーの部屋へ訪れた。
コンコンッ…
「フーパー?私よ。話があるから入ってもいいかしら?」
「………大丈夫だよ…。」
シャーロットがフーパーの部屋の扉を叩き言うと少し間を空けてフーパーが応えた。
そしてシャーロットはフーパーの部屋へ入り自分が一週間孤児院へ来れない事を説明して自分が来れない間の事をよろしくとフーパーへ伝えた。
「では…ごめんけどよろしくね?」
シャーロットは申し訳なさそうにフーパーへ言った。
「うん……。分かったよ…。」
フーパーが応えた。
「??フーパー何だか元気がないけどどこか体調でも悪いの?」
シャーロットは元気のないフーパーを見て心配そうに尋ねた。
「……いや…大丈夫だよ。」
フーパーは笑みを浮かべてシャーロットへ言った。
「本当に?」
シャーロットは心配気にフーパーのおでこに手を当てながら言った。
「本当だよ。」
フーパーは笑みを浮かべて言った。
「そう?ん〜確かに熱はないみたいだけど…。少しでも体調が優れないならすぐに言ってよ?」
シャーロットは困った表情で言った。
「うん…。分かってるよ。本当に大丈夫だから。」
フーパーはシャーロットを心配させない様に笑みを浮かべて言った。
「わかったわ…。」
シャーロットはまだ少し心配気にするもあまりしつこく言うのはよくないと思い頷きながら言った。
そしてシャーロットはフーパーの部屋を出たのだった。
※
それから…
あっという間に式典まで一週間と迫った…
シャーロットはローランドとの約束通り式典までの一週間毎日お菓子を作り王宮のローランドの元まで届けたのだった。
ローランドはシャーロットがお菓子を持ってくる時間になるとお茶の用意してシャーロットと二人でお菓子を食べながらお茶の時間を楽しんだ。
シャーロットも複雑な思いはあるもののローランドとの二人で過ごす時間を一日一日大切に思っていたのだった。
シャーロットが王宮へ訪れている事はすぐに王宮内でも噂になった。
もちろん貴族達の耳にも入っていた。
シャーロットがローランドと婚約破棄をした事で我が娘をローランドの婚約者にと企んでいる貴族達にとってはシャーロットが婚約破棄後もローランドの元へ訪れている事に対して不満を抱く者も少なくなかったのだった……
そして…あっという間に一週間が過ぎ創立記念式典の日が訪れたのだった……
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