34.けじめと覚悟
ローランドがそっとシャーロットから体を離した。
シャーロットとローランドはお互い離れた瞬間に急に恥ずかしさが増してきたのかお互いに頬を赤らめて戸惑っていた。
「あぁ…。その…驚かせてしまい…すまなかった…。」
「あ…い…いえ…大丈夫です…。」
ローランドが戸惑い気味にシャーロットへ言った。
シャーロットも戸惑い気味に応えた。
そしてまた…沈黙が続いた。
(こういうときは…な…何か話した方がいいわよね…。)
シャーロットが沈黙の中思っていた。
「あ…あの…殿下…本当にお花に…プレゼントまでありがとうございました。」
シャーロットが沈黙を破り改めてローランドへお礼を言った。
「い…いや…あぁ。」
ローランドは少し照れた様に応えた。
その時…
「シャーロット……。」
ボブがその場にやってきてシャーロットへ声をかけた。
「あ…お父様…。」
シャーロットは急に声をかけられたのでボブを見て驚き言った。
「…殿下…。殿下にご挨拶申し上げます…。ところで…何故我が家へお越しに?」
ボブがローランドに挨拶をするとローランドへ淡々と尋ねた。
「あぁ…。グランバード公爵…。その…シャーロットの誕生日との事だったので…シャーロットへ贈り物を渡しに来たのだ。」
ローランドは少し戸惑いを見せながらボブへと言った。
「……。そうなのですね…。それはわざわざ殿下御本人が足を運んで下さりシャーロットへ贈り物をして頂き感謝致します。」
ボブは更に淡々とローランドへ言った。
「あぁ…。」
ローランドはどことなくボブとの会話が気まずく戸惑いながら言った。
「何か…おもてなしをと思いましたが…もう遅い時間ですし本日はお帰り頂いてもよろしいでしょうか?」
ボブはローランドの目をジッと見て言った。
「お父様…?」
シャーロットはそんなボブの様子が気になり言った。
(お父様どうしたのかしら…。相手は殿下だというのに何だか…こう…。何となく言い方に棘があるような…。気のせいかしら…。)
シャーロットはボブを見てそんな事を考えていた。
「シャーロット…先に中へ戻りなさい。皆がシャーロットを探していたぞ?シャーロットら今日の主役なのだから。」
ボブがシャーロットに優しく言った。
「そう…ですね…。分かりました。」
シャーロットはボブの表情を見てホッとしながら応えた。
(ん〜いつものお父様だわ…。さっきのは気のせいだったみたいね。)
シャーロットはそんな事を考えていた。
「殿下…私は皆の元へ戻ります。今日は本当にありがとうございました…。お気をつけてお帰りください…。」
シャーロットは優しく穏やかに笑みを浮べてローランドへ言った。
「あぁ…。」
ローランドも優しい表情でシャーロットへ言った。
そんなローランドの表情を見てシャーロットは心が満たされる様な気持ちになりながら礼をして家の中へと戻って行った。
その場にローランドとボブが残った。
「グランバード公爵…今日は何の連絡もなく急に訪れてしまい申し訳なかった…。」
ローランドが困った表情でボブへ言った。
「いえ…。それは構いません…。」
ボブが応えた。
ローランドはボブの言葉を聞き少しホッとした表情を浮かべた。
「しかし……。これは…公爵としてではなく…シャーロットの父親として申すことですが…。」
ボブがローランドをジッと見て言った。
「…?!」
ローランドはボブの言葉に少し驚いた表情をした。
「無礼を承知で申し上げますが…殿下が何を考えておられるのかまったく理解が出来ません…。」
ボブがローランドへはっきりと言った。
「…どういう意味なのだ?」
ローランドは眉をひせめた表情になり言った。
「殿下とシャーロットは今や婚約者でも何でもありません…。元は…シャーロットのわがままで殿下との婚約が決まりました。しかし…またもシャーロットのわがままで婚約解消となりました…。ですが…婚約解消となるでの殿下のシャーロットへの態度はいくらシャーロットがわがままな性格だとはいえあまりにも酷いものでした…。いくら政略的なものだとはいえ自分の娘があの様な扱いをされて我々が嫌な気にならないとでもお思いでしたか?婚約解消時にも殿下はシャーロットへ酷い言葉を投げかけました。つい数ヶ月前までその様な態度をとられていたお方が今の様な行動を取られているのを見てどう理解しろと仰るのですか?!」
ボブは少し強めの口調でローランドへ言った。
(陛下からの手紙で殿下がもう一度シャーロットとの婚約を望んでいる事は既に聞いているが今の殿下の行動はあまりにも筋が通ってなさすぎる…。筋が通らないままでは父親として娘を殿下に渡すわけにはいかない…。)
ボブはローランドに言いながら考えていた。
ローランドはボブに言われてグッと拳を握りしめた。
(公爵の言うとおりなのは分かっている…。自分が焦っているのもわかっている…。だが…私はシャーロット以外の者など考えられないのだ。)
ローランドは拳を握りしめながら表情を歪ませながら考えていた。
「殿下…申し訳ありませんが今日はお引取り頂いてもよろしいでしょうか?シャーロットが喜んでくれるだろうと今日は孤児院の者達も呼んでシャーロットの誕生日祝いをしているのです。ですのでもうすぐその者達が帰り支度をして出てきます。殿下がいると知ると困惑してしまうかもしれませんので…どうかご理解頂けると幸いです…。」
ボブは頭を下げながらローランドへ言った。
(そうか…。だからジョナスが居たのだな…。)
ローランドはチクリと胸が痛むのを感じながら考えていた。
「わかった…。今日はこのまま帰るとしよう…。」
ローランドは仕方なく応えた。
「ご理解感謝致します…。」
ボブがローランドへ再度頭を下げながら言った。
「あぁ…。では…私はこれで失礼する…。」
ローランドが言った。
「はい…。お気をつけて…。」
ボブが言った。
そして…ローランドは馬車に乗り込み王宮へと帰って行った。
ローランドを乗せた馬車をボブは複雑な表情で見つめていたのだった。
(グランバード公爵は…感情さえあらわにはしていなかったが…恐らく私の行動が気に食わないのだろうな…。だが…それもそうだな…。今までシャーロットには酷い態度を取っていたのだからな…。)
ローランドは馬車の中でボブの言ったことを思い出しながら何とも言えない表情で考えていたのだった。
その後…孤児院の皆が帰宅する時間になった。
下の子供達は帰りたくないと多少駄々をこねたものの最後はジョナスに言いくるめるられてきちんと聞き分けよく帰っていった。
孤児院の皆が帰った後…シャーロットはボブにローランドの話をしてみようとしたがボブが疲れている様に見えたのであえて話を聞かないことにした。
そして…シャーロットは改めて今日の事を家族や使用人達に感謝の言葉を伝えたのだった。
その後シャーロットは自室に戻るとベッドに横たわった。
「今日は本当に幸せな誕生日だったな…。」
シャーロットは改めて今日という日を振り返りながら呟いた。
(そして…自分の心にしまっておいた殿下への気持ちがとうとう押えきれず…出てきてしまった…。)
シャーロットはローランドから貰ったオルゴールを見つめながら考えていた。
そして…シャーロットはそっとオルゴールの蓋を開けた。
オルゴールからは綺麗な音色が流れてきた…
(あ…この曲私の好きな曲だわ…。)
シャーロットはオルゴールの音色を聞きながら思っていた。
「前世では…どれだけ殿下からの愛の言葉に…贈り物…二人で過ごす時間…優しさを望んでいたことかしら…。それでも死ぬまで私の望みが叶うことはなかった…。」
シャーロットは呟いた。
「でも…今世では前世での私の願いがどれも叶ってるわ…。最初は戸惑ったけど…やっぱり嬉しいって思った…。」
シャーロットは更に呟いた。
「でも…先の運命は変わる事はないのはわかってる…。だから…殿下がミレイ様と出会うまで殿下と過ごす時間を大切にしたい。そして…式典当日に二人が出会うところを見たら…二人を祝福するの…。そして…その日からは殿下と過ごした日を思い出をまた胸にしまって生きてくいくのよ…。大丈夫…。二人の姿を見たらきっとまた心が痛むけど…今世では絶対に過ちを繰り返さないわ…。」
シャーロットはオルゴールの音色を聞きながらながら自分の中で今後の生き方に覚悟を決めたのだった。
そして…シャーロットはその日今日という日の幸せを噛み締めながら眠りについたのだった…
※
シャーロットの誕生日からあっという間に1週間が経った…
この日…王宮にはシャーロットとボブとエマが訪れていた。
ーー遡る事三日前…
王宮ではローランドがある決意をしたのでキーランドとルチアへ話をしていた。
話の内容は…シャーロットの誕生日当日にボブが言われたことをずっと考えていた結果出た結論だった。
ローランドは自分の行動に対してシャーロットの両親であるボブとエマにけじめをつける為に二人へ話をしたいと思っていた。
それをキーランドとルチアに話をしてキーランドが気を利かせてボブへ王宮に来る様に手紙を出していたのだった。
キーランドがシャーロットを同行させたのはシャーロットへの細やかな誕生日祝いとして孤児院の子であるジョナスがいる騎士団への訪問をさせて様子を見られる様にしたからだった。
ジョナスのシャーロットへの気持ちを察していたキーランドはローランドに対して少し気が引けたもののあくまでシャーロットへの誕生日祝いでシャーロットが喜ぶ事を優先した選択だった。
そして…今に至りシャーロット達はキーランドとルチアに謁見したのだった。
シャーロットはキーランドに騎士団への訪問の件にお礼をした。
そして…シャーロットはローランドに会えない事を少し残念に思いつつ騎士団へと向かったのだった……
※
シャーロットはキーランドからシャーロットを騎士団の稽古場へ連れて行く様に頼まれていた騎士団長のロナに連れられて稽古場へ向かっていた。
「グランバード令嬢は騎士団の稽古場を見るのは初めてでいらっしゃいますか?」
ロナがシャーロットへ尋ねた。
「そうですね…。以前王宮へ来た際に遠くから稽古場を見たことはありますが…。」
シャーロットが応えた。
(前世では殿下が騎士団の人達に手合わせしているのを何度か見た時に稽古場へは足を運んでいるけどね。)
シャーロットはそんな事を考えていた。
「そうですか。では…存分にご覧下さい。」
ロナが笑顔で言った。
「はい。お気遣いありがとうございます…。」
シャーロットもにこりと微笑みながら言った。
「あ…ところでジョナスはしっかりとやっているでしょうか?」
シャーロットがロナへ尋ねた。
「ジョナスですか?はい…。頑張っていますよ。騎士団では実力が認められれば身分など関係ありませんからね。ジョナスの剣の腕は今年の試験を受けた者の中でずば抜けていましたからね…。」
ロナが笑顔で言った。
「そうですか…。それは良かったです。孤児院でジョナスの話を聞いた時に絶対に騎士団へ入団して欲しいと願っていたので…こうして無事に入団出来て騎士として毎日頑張っていると聞くと嬉しくてたまりません。」
シャーロットは嬉しそうに言った。
(令嬢は…以前よりも本当に雰囲気が変わられたな…。以前の令嬢はいつも傲慢な態度がとても表に出ていて近寄り難いイメージだったが…。今の令嬢はとても親近感が湧き近寄り難さなどないな…。それに…本当に心からジョナスの事を応援して見守っているのが伝わってくるな…。)
ロナはシャーロットをチラリと見ながら考えていた。
「きっと…ジョナスの頑張りは令嬢の思いが伝わっているのもあるでしょう。」
ロナが言った。
「そうですかね?ふふ…そうだといいですね。」
シャーロットは微笑みながら言った。
そうこうしているうちに騎士団の稽古場へ到着した。
稽古場では騎士達が汗を流しながら打ち込みをしていた。
「令嬢…こちらへお座りになって騎士達の様子をご覧ください。」
ロナがシャーロットへそう言うと日陰の場所にあるベンチへ誘導した。
「ありがとうございます。」
シャーロットが応えると椅子へと座った。
「私は騎士達の元へと戻りますので何かありましたらすぐに仰って下さい。」
ロナがシャーロットへ言った。
「はい。分かりました。」
シャーロットは頷きながら応えた。
そして…ロナは騎士達が打ち込みをしている場所へと向かった。
シャーロットは椅子に座りながら騎士達の様子を見ていたのだった…
※
シャーロットが騎士団の稽古場にいた同じ頃…
ローランドはキーランドとルチア立ち会いの元ボブとエラと話をしていた。
「今日はご足労いただき感謝する。公爵と夫人に話というのは他でもない…シャーロットの事だ…。」
ローランドが改まってボブとエラへと言った。
「………。シャーロットの事と申しますと?」
ボブはあえてその様な言い回しで言った。
「一週間前に公爵に言われてから色々と考えた…。これまでの私のシャーロットに対する態度や言動などを考えれば今の私のシャーロットへ対する行動に不信感を持つのは当然のことだと思う…。」
ローランドは真剣な表情でボブとエラへ言った。
「しかし…今一度…私に機会を与えてもらえないだろうか?」
ローランドが意を決して言った。
「機会…ですか?」
ボブはローランドへ眉を細めながら言った。
「あぁ。身勝手な事だとは思うが…私にシャーロットへ想いを伝える機会だ…。私は…シャーロット以外の王太子妃は考えていない。生涯…シャーロットには私の隣にいて欲しいと心から思っているのだ…。だから…私の気持ちをこれから言葉と行動でシャーロットに伝わる様に伝えていきたいのだ…。そして…私の行動や言動を公爵や夫人にも見てもらい私が本気だということを信じてもらいたいと思っているのだ。だが…けじめとして二人に許可を得てからにしたいのだ…。」
ローランドは真剣な表情でボブとエラを見て自分の思いを伝えた。
「……この先シャーロット以外の娘に心移りしないと言い切れますか?」
ボブは真剣な表情でローランドへ言った。
「神に誓ってシャーロット以外の者に心移りなどしない。」
ローランドは真剣な表情でボブへ言った。
「シャーロットが殿下に嫁ぎ…もしも…子に恵まれなければどうなさるおつもりですか?もしシャーロットに子が出来なければシャーロットは周りから心無い言葉を投げつけられることでしょう…。そうなればシャーロットは一生王宮で肩身の狭い思いをし辛く苦しい日々を過ごすことになるでしょう…。その時は殿下はどうなさるおつもりですか?」
ボブは更に真剣な表情でローランドへ言った。
エラもじっと真剣な表情でローランドを見た。
「もしも…シャーロットに子が出来なくても私が全身全霊で絶対にシャーロットを辛く酷い目にはあわせない…。それに…子が出来なければ養子を迎えればよい話だ。」
ローランドは迷いない表情で応えた。
「では…生涯シャーロットだけを愛し大切に…幸せにすると言い切れますか?」
ボブが表情を少し強張らせてローランドへ言った。
「もちろんだ…。私の命にかけて…シャーロットを生涯愛して幸せにすると誓う…。」
ローランドは真剣な表情でボブへ言い切った。
ボブはローランドの言葉を聞き表情を見て横にいるエラを見た。
エラはそんなボブに笑みを浮べて小さく頷いた。
そんなエラを見てボブも小さく頷いた。
そして…
「………。分かりました…。殿下のお言葉を信じてみようと思います。」
ボブは笑みを浮べながらローランドへ言った。
「ほ…本当か?!」
ローランドは思わず声を張ってボブへ言った。
「はい…。」
ボブは頷きながら言った。
「そうか…。公爵…夫人…お二人の決断に感謝する…。」
ローランドはホッとした様な笑みを浮べてボブとエラへ言った。
「ですが…もしも…シャーロットを傷つけ泣かす様な事がありましたらその時はグランバード公爵家総出で相手が殿下であろうともとるべき行動を取らせて頂きますので…。」
ボブは釘を刺す様にローランドへ言った。
「心配するな…。その様な事はないからな。」
ローランドは自信満々に応えたのだった。
「ふむ…どうやら話は結論が出たようだな…。」
キーランドがローランドとボブへ言った。
「はい…。父上。この様な場を設けて下さりありがとうございました。」
ローランドがキーランドへ言った。
「陛下…私どもからも感謝申し上げます…。お陰で殿下の本心を聞くことが出来て安心致しました。」
ボブがキーランドへ言った。
「そうか…。とにかくローランドがきちんと公爵と夫人へけじめをつける事ができて何よりだ…。しかし…シャーロット本人が王太子妃になると首を縦に振らせるには一筋縄ではいかないだろうがな…。」
キーランドは少し意地悪風にローランドへ言った。
「……わかっています…。」
ローランドは少しムスっとした表情で言った。
「私と妻はもう少し陛下と王妃様と話をしますのでその間でしたらシャーロットに会いに行かれても構いませんよ?あ…でも…シャーロットは今…騎士団の稽古場へ足を運んでいます。もしかしたら…今頃…騎士団の者達に囲まれてるかもしれませんね…。」
ボブは少し意地悪混じりにローランドへ言った。
「っ?!それでは…お言葉に甘えて私は失礼致します…。」
ローランドはボブの言葉を聞いて漠然とした表情を浮かべるとスッと立ち上がりキーランド達へ言った。
「あぁ…。」
キーランドは笑いを必死で堪えながらローランドへ言った。
そしてローランドは一礼をすると足早にその場を離れたのだった…。
「陛下…笑いをこらえ過ぎですよ…。」
ボブがクスりと笑みを溢しながらキーランドへ言った。
「ハハハ…公爵がローランドにあの様な事を申すからだ…。ローランドの奴焦っておったな。」
キーランドは笑いながらボブへ言った。
ルチアとエラも笑みを浮べていた。
「さて…今後ローランドとシャーロットがどうなるのやら…。我々は見守るとしよう。」
キーランドがニヤリと笑みを浮べて言った。
「そうですね…。」
ボブは父親の顔をしながら多少心配な表情を浮べながらも笑みを浮べて言った。
ルチアとエラも小さく頷きながら笑みを浮べたのだった。
(ローランドの想いが実りもう一度二人が婚約した際に…実は婚約破棄はせず保留にしておいたと言ったらローランドの奴はどんな顔をするだろうか…。)
キーランドは軽く笑みを浮べて考えていたのだった……
※
その頃…
騎士団の稽古場では…
打ち込みが終わり休憩の時間になった。
水を飲みに行こうとしたジョナスがシャーロットに気づき驚いた表情をしていた。
そんなジョナスに気づいたシャーロットは笑顔で大きく手を振った。
「ジョナスーー!!」
シャーロットが手を振りながらジョナスへ言った。
ジョナスは急いでシャーロットの元へと向かった。
「ロッティ?!何でこんなところにいるんだ?!」
ジョナスはシャーロットの元に駆け寄ると戸惑いながら言った。
「ふふ…驚いた?!陛下が私の誕生日のお祝いにと騎士団の稽古場の見学の許可を下さったのよ。きっと…ジョナスがいるのもあって私が様子を見られる様にと気を回して下さったのよ。」
シャーロットは戸惑うジョナスを見てクスクス笑いながら言った。
「そうだったのか…。でも…驚いたよ…。」
ジョナスはシャーロットの話を聞いて納得した様に言った。
「ずっと稽古する姿を見学していたけれどジョナス…頑張ってたわね!それに…周りの皆とも上手くやっている様で安心したわ!」
シャーロットは嬉しそうにジョナスへ言った。
「そ…そうかよ…。」
ジョナスは少し照れた様に言った。
「一人で来たのか?」
ジョナスがシャーロットへ尋ねた。
「いいえ。お父様とお母様も一緒よ。二人は陛下と話があるみたいで今は話をしているわ。その間にここへ来たのよ。コーデル団長が案内してくれたのだけどとても人が良さそうな団長ね!ジョナスが憧れている人だけあるわね!」
シャーロットは笑顔でジョナスへ言った。
「あぁ…。団長はとてもいい方だし騎士としても本当に凄い方なんだよ。」
ジョナスは嬉しそうに言った。
そんなジョナスを見てシャーロットは微笑んだ。
そこへ…
「ジョナス!その綺麗なお嬢さんは誰だ?!知り合いか?!」
平民出身の騎士の一人サンクがジョナスへ声をかけた。
「え…?あ…この方はグランバード公爵令嬢のシャーロット様です。孤児院の責任者を任せれている方です。」
ジョナスがサンクへ説明した。
「え?!グランバード公爵令嬢?!」
サンクは驚き言った。
「こんには…。初めてお目にかかります…グランバード公爵家のシャーロット・ドゥ・グランバードと申します…。」
シャーロットはサンクへ優しく微笑みながら挨拶をした。
「は…は…初めまして…。わ…私は…騎士団隊員の…サンクと申します…。」
サンクは慌ててシャーロットへ挨拶をした。
その様子を見ていた他の隊員達もシャーロット達の元へやって来た。
「グランバード公爵令嬢だってよ…。」
「凄く美人だな…。」
「ジョナスの孤児院の責任者なんだよな。」
「オーラが違うな…。」
「あんな美人な令嬢とお近づきになってみたいもんだよな…。」
「何か雰囲気変わってないか?」
集まった隊員達がシャーロットを見てヒソヒソと話をしていた。
(騎士団に貴族の令嬢が来るなんてそうそうないから物珍しいわね…。前世では隊員達は私に怯えた様だったしね…。まぁ…あんな態度なら怯えたのも仕方ないのだけどね…。)
シャーロットは隊員達を見て思っていた。
「令嬢…隊員達の稽古する様子はどうでしたか?」
そこへ状況を見かねたロナがやってきてシャーロットへ声をかけた。
「コーデル団長…。はい。とても良い稽古を拝見する事ができました。」
シャーロットは笑顔で応えた。
「そうですか。それは良かったです。」
ロナは笑顔で言った。
「あ…そうだわ。これ…良かったら隊員の皆さんで食べてください。私が朝焼いたばかりのクッキーです。お口に合うかわかりませんが…疲れた時には甘いものを摂る方が良いといいますので。」
シャーロットは思い出す様にハッとなると持参したカゴに沢山入ったクッキーをロナへ手渡しながら言った。
「令嬢が作られたのですか?!」
ロナは思わず驚き言った。
「はい。私が作りました。」
シャーロットはにこりと微笑みながら言った。
「そうなのですね…。ありがとうございます。お心遣い感謝致します。隊員の皆で頂くことにします。」
ロナは驚いた表情のままシャーロットへお礼を言った。
「団長…ロッ…令嬢の作ったクッキーは絶品ですよ。」
ジョナスが驚き戸惑っていたロナへ言った。
「そうなのか?ジョナスは食べたことが?」
ロナがジョナスへ言った。
「はい。孤児院では頻繁に令嬢が作って下さいましたので。」
ジョナスは思い出す様に優しい笑顔で言った。
「そう…なのか。」
ロナがフッと笑みを溢しながら言った。
(ジョナスの奴…いつも堅い表情が多いが令嬢の話をする時はこんな顔をするんだな…。)
ロナはジョナスの表情を見ながら思っていた。
「団長!せっかくなので今すぐ頂きましょう!」
「そうです!ちょうど休憩ですし今頂きましょう!」
「賛成です!」
隊員達がロナへ言った。
「お前たち…。」
そんな隊員にロナは呆れながら言った。
「ふふ…。私のことはお気になさらずに皆さんでお食べ下さい。」
シャーロットはそんな様子を見てクスクス笑いながら言った。
「ハハハ…お恥ずかしい姿をお見せしてしまいました…。では…お言葉に甘えて頂きます。」
ロナは苦笑いを浮かべながら言った。
「よし!皆!順番に取りに来い!受け取ったらグランバード令嬢にお礼を言うのだぞ?!」
ロナが大きな声で隊員達へ言った。
「「承知しました!!」」
隊員達は大きな声で返事をした。
そして…隊員達は順番にロナからシャーロットの作ったクッキーを受け取りシャーロットへお礼を言うと目を輝かせながらクッキーを頬張り始めた。
そんな隊員達を見てシャーロットは微笑ましく感じていた。
「隊員の皆さんが喜んでくれて良かったわ。また近いうちに差し入れでもしようかしら。」
シャーロットは微笑みながら言った。
「おいおい…。そんな気なんて使わなくていいだろう?孤児院の事だけでも忙しいんだろ?」
ジョナスが呆れた表情でシャーロットへ言った。
「何言ってるのよ!ジョナスがお世話になってる騎士団なんだからそれくらいは問題ないわよ!」
シャーロットがジョナスへ言った。
「何だよ…それ。母親みたいだな…。」
ジョナスは呆れつつもフッと笑みを溢しながら言った。
「ちょっと!そこはせめてお姉さんくらいじゃない?あ…でも…私の方が年下だから妹かな…。」
シャーロットは悩みながら言った。
「クク…何だそりぁ…。」
ジョナスはクスっと笑いながら言った。
シャーロットもそんなジョナスを見て笑った。
(ジョナス…これからも頑張ってね。私はいつでもあなたの味方であなたを応援しているわ。)
シャーロットは笑っているジョナスを見て考えていたのだった。
「シャーロット…!」
その時だった…
その場にローランドがやって来てシャーロットへ声をかけた。
「え…?殿下…?」
シャーロットは突然声をかけられて驚きながらローランドを見て言った。
「王太子殿下!!」
ローランドがその場に来たことにすぐに気づいたロナが姿勢を正して敬礼しながら言った。
ジョナス始め他の隊員達もクッキーを食べるのを止めて姿勢を正してローランドへ敬礼した。
シャーロットも立ち上がりローランドへ礼をした。
「皆…ご苦労。楽にしてくれて構わない。グランバード令嬢に用があり呼びに来ただけだ。皆は引き続き休憩をしてくれて構わない。」
ローランドがロナ達へ言った。
「はい!承知致しました!」
ロナがローランドへ言った。
「…コホン…シャーロット…話があるので少し良いだろうか…?」
ローランドはどこか緊張気味にシャーロットへ言った。
「…は…はい。大丈夫です。」
シャーロットもまた緊張気味に応えた。
誕生日の日に抱きしめあって以来会うのは初めてな二人はお互いにその日の事を思い出して恥ずかしくなっていたのだった。
「そうか…。では…行こう…。」
「はい。かしこまりました。」
ローランドが言うとシャーロットは頷きながら応えた。
「では…私はこれで失礼させて頂きます…。今日は皆さんの稽古姿を見ることが出来て嬉しく思います…。引き続き稽古の方を頑張ってください。」
シャーロットはロナを始め隊員達へと笑顔で言った。
「はい!こちらこそ…差し入れまで頂きありがとうございました。」
ロナはシャーロットにそう言うと敬礼をした。
隊員達もシャーロットへ敬礼した。
(じゃぁ…またね!ジョナス!頑張ってね!)
(…あぁ…。)
シャーロットはジョナスに目で訴えた。
ジョナスも頷きながら目で訴え返した。
そして…シャーロットとローランドは稽古場を後にしたのだった。
「殿下とグランバードの令嬢は確か…婚約破棄したんじゃなかったか?」
「あぁ…。確かに破棄したと聞いたぞ。」
「数ヶ月前は令嬢が殿下にぞっこんの様に見えたが先程の二人を見ると殿下が令嬢に気がある様に見えたぞ。」
「令嬢…すごく雰囲気変わったよな。数ヶ月前までは王宮で見かけても…もっとこう…ツンツンして近寄り難い雰囲気だったのにな…。」
「あぁ。でも今の令嬢は天使にも見える程だったな…。」
「あぁ。癒やされる笑顔だったし話しやすい空気だったし…クッキーも美味しかったな…。」
「あんな方が妻になってくれたら幸せだろうな…。」
シャーロットとローランドが居なくなった後…その場にいた隊員達がそんな話をしていた。
そんな話が聞こえてきたジョナスは複雑な表情を浮べていたのだった……
※
稽古場から庭にあるテラスに移動する間シャーロットとローランドはお互い妙に誕生日の日の事を意識しているのか二人ともソワソワしていた。
そしてテラスに着き用意されていたお茶を二人で飲み始めた。
「殿下…改めまして…誕生日の日に花束とプレゼントありがとうございました。」
シャーロットは微笑みながらローランドへ言った。
シャーロットは自分の気持ちに気づき覚悟を決めてからローランドには自然に接しようと考えていたのだった。
「あ…あぁ。オルゴールは気に入ってもらえただろうか?」
ローランドが心配そうな表情でシャーロットへ尋ねた。
「はい…。とても気に入りました。私の好きな曲がとてもきれいな音色で流れてきます…。誕生日の夜から毎日寝る前に聴いてます。」
シャーロットはにこりと微笑みながら言った。
「そうか…。毎日…聴いているのか…。」
ローランドは嬉しそうに微笑みながら言った。
「はい。」
シャーロットははにかみながら言った。
(きっと…式典が終わったら気持ち的に聴くことができなくなるだろうから…今のうちに沢山聴いておかないとね…。)
シャーロットは切ない笑みを浮かべて考えていた。
そんなシャーロットの表情をローランドは見逃さなかった。
(ようやく…私に笑みを見せてくれる様になったというのに…時々…あの様な切ない表情を浮かべるのだろうか…。何をそんなに不安に思っているのだろうか…。)
ローランドはシャーロットを見てそんな事を考えていた。
「ところで…先程気になったのだが…騎士団の者達へクッキーを差し入れしたのか?」
ローランドは気を取り直してシャーロットへ言った。
「え?あ…はい。今日は騎士団の稽古場へ訪問すると決まっていたので朝から隊員の皆さんに食べてもらおうと焼いたのです。」
シャーロットが応えた。
「そうなのか…。皆…とても喜んでいたな…。」
ローランドは少し拗ねた様な表情で言った。
「そうですね。喜んで頂けるか心配していましたが喜んで頂けて良かったです。」
シャーロットは嬉しそうに言った。
「ジョナスは…孤児院の皆は毎日シャーロットの作った食事を食べられるのだな…。」
ローランドは不貞腐れ気味に言った。
「まぁ…そうですね…。それも私の仕事の一つですし…。」
シャーロットはローランドが不貞腐れているのを見て不思議そうに言った。
(殿下…どうして急に不貞腐れてるのかしら…。)
シャーロットはローランドを見てそんな事を思っていた。
「私は…食べたことがない…。」
ローランドは更に不貞腐れて言った。
(それが理由で不貞腐れてたの?!)
シャーロットは驚き思った。
「ふふ…ふふふ…。」
シャーロットはそんなローランドに思わず笑ってしまった。
「な…何故…笑うのだ?!」
ローランドは不貞腐れたままシャーロットへ言った。
「ふふ…いえ…申し訳ありません…。では…殿下にも今度何かお作りしてきましょうか?」
シャーロットはそんなローランドがつい可愛くて思えて笑いながら言った。
「何?!それは本当か?!」
「はい。」
ローランドはシャーロットの言葉を聞き不貞腐れ顔から一気に表情を明るくして言った。
そんなローランドを見てシャーロットは頷きながら言った。
「で…では…いつ作ってくれるのだ?!」
ローランドは目を輝かせながら言った。
「いつ…と言われましても…。殿下もお忙しいでしょうし…。」
シャーロットは悩みながら言った。
「確かに…式典の準備もあり多忙だが…時間は作ろうと思えば作れるものだ。……三日後の予定はどうだ?」
ローランドは悩みながら言った。
「三日後ですか?三日後……はい…。時間は作れると思います。」
シャーロットは考えながら言った。
「本当か?!では…三日後にシャーロットの作ったものを持ってどこかへ出かけるとしよう!」
ローランドは嬉しそうに言った。
「はい…。分かりました。では…三日後に…。」
シャーロットは微笑みながら頷き言った。
「シャーロットはどこか行きたい場所はないのか?」
ローランドがシャーロットへ尋ねた。
「行きたい場所…ですか…。あっ…あります。王都から少し離れた場所にある湖がきれいな場所です…。」
シャーロットが考えると思いだした様に言った。
(あの湖…前世で殿下と行きたいと思っていた…その湖を見ると幸せが訪れるいわれている湖…。)
シャーロットはそんな事を考えていた。
「そうか。では…その湖へ行くとしよう!私が公爵家へ迎えに行くからシャーロットは邸で待機していてくれ…。」
ローランドが嬉しそうに言った。
(シャーロットと出かける事ができるだけでも嬉しいが…シャーロットの作ったものが食べられるのだな…。楽しみだな…。)
ローランドはそんな事を考えていた。
「承知しました…。」
シャーロットは頷きながら応えたのだった…………
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※誤字脱字のご指摘ありがとうございます!!
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悪役令嬢でもなくヒロインでもないまさかのモブキャラに転生したので大好きなハンドメイドをしながら暮らす事にしました!!(※不定期更新)
私が悪役令嬢?!…ならばシナリオ無視して全力で推しを守り愛し共に幸せになる所存です!!
〜じゃじゃ馬令嬢は異世界でも推し活に励む〜(※不定期更新)
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