26.消せない記憶
シャーロットとローランドの乗った馬車が転落してから随分と時間経ち気づけば明け方近くになっていた。
ローランドは変わらず腕の傷が原因の熱が下がらずにいた。
(なかなか熱が下がらないわね…。)
シャーロットがローランドの額のタオルを外に置き冷やしておいた水をかけてしっかり絞り再度額にタオルを乗せる作業しながら思っていた。
(このまま熱が下がらず救助も遅れるとよくないわよね…。今は何時頃かしら…。もう少ししたら夜が明けるかしら。救助はあとどのくらいで来れそうなのかしら…。)
シャーロットは馬車の窓から外をチラリと見ながら考えていた。
「ふぅ〜…。」
シャーロットは息を漏らした。
(私の傷…特に腕の方がますます悪化してる様だわ。何だか心なしか体が熱くなってきた気がするわ…。まずいわ。この状況で私まで熱を出してしまう訳にはいかないわ。国の事を思うととにかく殿下の事を一番に考えないとだものね…。)
シャーロットは自分の左腕の状態を見ながらそんな事を考えていた。
そしてシャーロットは寒そうにしているローランドへひざ掛けをきちんと首元までかかる様にかけ直していた。
その時だった…
シャーロットの耳に馬の走る音が聞こえた。
「馬の足音だわ…。」
シャーロットが馬の足音を聞き呟いた。
そして更に耳をすませた…
「下ーー!殿下ーー!ロッティーー!!」
アミルの叫ぶ声がした。
(アミルお兄様の声だわ!救助に来てくたんだわ。)
シャーロットはアミルの叫ぶ声を聞き救助が来たことを確認した。
シャーロットは救助が来た事に気づくとアミル達が自分達を見つけやすい様にとランプを持ち馬車の外へ出た。
「アミルお兄様ーーーー!!!」
シャーロットは外へ出ると腕と足の痛みを堪えながら思い切り崖の上に向かい叫んだ。
「この辺りです!」
シャーロット達の状況を伝たえに行ってくれた護衛の声がした。
「殿下ー!ロッティーー!」
アミルが護衛に言われると馬を急ぎ降りてランプで崖下を照らしながら叫んだ。
「アミルお兄様ここよーー!」
アミルに気づいたシャーロットがランプを高くあげながら叫んだ。
「ロッティ!!」
アミルが崖下にいるシャーロットを確認して言った。
「ロッティ!すぐにそちらへ向かう!少し遠回りになるがそちらへおりれる道がある様だ!もう少しだけそこで待っていてくれ!」
アミルがシャーロットへと心配そうな表情で叫んだ。
「分かったわ。でも、なるべく急いでね!」
シャーロットはアミルの言葉に頷きながら叫んだ。
「あぁ!もちろんだ!」
アミルはそう言うとすぐに同行した救助兵へ指示を出した。
そして、数人の救助兵を崖上に残してアミルは残りの救助兵を連れて馬を走らせて崖下へ下りられる道へと急ぎ向かった。
(はぁ…救助が来て良かった…。これで殿下は大丈夫そうね…。)
シャーロットはアミル達の助けが来た事にホッとしながら考えていた。
そして、待つこと十分程でアミルと数人の救助兵がシャーロットとローランドの元へと辿り着いた。
「ロッティ!大丈夫か?!」
アミルが心配そうな表情を浮かべて慌ててシャーロットの元へと駆けつけ言った。
「えぇ。私は大丈夫よ…。アミルお兄様助けに来てくれてありがとう…。私はいいから急いで殿下を…。馬車の中へいるから。殿下が右腕に負われた傷のせいで発熱してるの。一応応急処置はしてるんだけど熱がなかなか下がらなくて…。急いで王宮に戻り次第王室専属医に手当をしてもらった方がいいわ。」
シャーロットは心配するアミルに直近の状況を説明した。
「何?!殿下が?!」
アミルはシャーロットの話を聞き焦り言った。
「えぇ。」
シャーロットは頷きながら応えた。
「わかった…。」
アミルは頷きながらそう言うとすぐに馬車の中にいるローランドを背負い抱えて馬車から救助した。
そしてすぐにローランドを抱えたまま馬を停めてある馬車まで運びローランドを馬に乗せた。
「殿下をすぐに待機させている馬車へお乗せしろ!殿下は怪我を負っており発熱もしておられる。丁重に馬車の座席にお乗せするんだ!」
アミルが救助兵に急ぎ伝えた。
「承知しました!」
アミルに言われた救助兵は返事をするとすぐにローランドを乗せた馬で崖上まで戻っていった。
「ロッティ!ロッティもグランバード邸に向かう馬車を用意しているからそれに乗り邸に着くまで休むんだ。」
アミルが救助兵がローランドを連れて崖上に行ったのを確認すると急ぎシャーロットの元へと駆け戻りシャーロットへ言った。
「えぇ。ありがとう…アミルお兄様…。あ…でも、この壊れかけている馬車や荷物はどうするの?」
シャーロットはアミルへお礼を言うと馬車の方を見ながらアミルへ尋ねた。
「心配するな。ここはポート王国の領地だが陛下が今回の件に関してポート王国の国王陛下に話をつけられている様だから馬車も荷物も問題なく我が国へ持ち帰る事が出来るよ。」
アミルは心配するシャーロットが安心出来る様に言った。
「そうなのね…。良かったわ…。」
シャーロットはホッとした表情で言った。
「あぁ。さぁ崖上へ行こう!一先ずここの事は救助兵に任す事になっているから我々は先に国へ戻る事になっているからな。」
「うん…。分かったわ。」
アミルが説明するとシャーロットは頷きながら応えた。
そして、シャーロットはアミルの馬に跨がり乗ってアミルにしっかりと掴まり崖上へと連れて行ってもらったのだった。
崖上へつくとシャーロットはすぐに馬車へ乗り込んだ。
そしてすぐにカリブ王国へと向かった。
(はぁ…。とにかくこれで安心だわ…。何だがすごく長い一日だったわ…。)
シャーロットは馬車の壁に寄りかかり安心した様な疲れた様な表情を浮かべながら考えていた。
そしてシャーロットはそっと目を閉じた。
※
シャーロット達がカリブ王国へ到着した頃には昼前になっていた。
ローランドは王宮へ到着するとすぐに自室に運ばれ既に待機していた王室専属医がローランドの容態を確認した。
発熱はしているもののシャーロットの応急処置のお陰で腕の傷の炎症は最小限におさえられている様だった。
転落した際に打ち付けたであろう頭部も特に問題はないという診断が下った。
腕の傷はすぐに専属医によって縫合処置が施された。
加えて熱を下げる為の薬を服用したので熱も下がるだろうとのことだった。
ローランドの命に別状はないという事で国王であるキーランドと王妃のルチアはホッとした様子だった。
ローランドに付き添っているアミルもホッとした様だった。
アミルが安堵の表情を浮かべていると王宮の執事が慌てた様子でローランドの部屋を訪れるとアミルへ急ぎ手紙を持ってきた。
アミルは執事の様子を見てグランバード公爵家で何かあったのだと察した。
アミルは急ぎ手紙の内容を確認した。
手紙は母であるエラからだった。
手紙にはシャーロットが家に着いた矢先に玄関先で倒れて意識がなく高熱が続いていると書かれていた。
(シャーロットの意識がないだと?!それに高熱が続いている?!救出時に私がシャーロットの様子に気づいていれば…。)
アミルは手紙を読み終わるとそんな事を考えながら自分を責めていた。
アミルは王宮内にいた父であるボブにシャーロットの状況を伝えに走った。
ボブはもちろんだがボブと一緒にいたキーランドもシャーロットの状況を聞いて驚いた。
アミルはシャーロットの事が心配で仕方なかったがローランドの目が覚めるまでローランドの側についていることにした。
ボブは急ぎグランバード公爵家へ戻ったのだった。
※
(ん…ここはどこだろう…。)
シャーロットは光を感じてそっと目を開きながら思っていた。
(ここは…。)
シャーロットはそっと目を開けて目の前の光景を見て愕然とした。
そこはシャーロットの処刑場所だった。
ちょうど…シャーロットの目の前で家族の処刑が行われるところだった。
「ダメ!ダメよ!お父様!お母様!アミルお兄様!エイルお兄様!」
シャーロットは目の前の光景を見て
必死に叫んだ。
しかし…シャーロットの声はまったく届いていなかった。
「ダメよ!やめて!お願い…お願い!私からまた家族を奪わないで!」
シャーロットは目に涙を浮かべて叫んだ。
しかし、シャーロットの叫びも虚しくグランバード公爵家の皆がシャーロットの前で処刑された。
「いやーーーー!お父様!お母様!アミルお兄様!エイルお兄様!お願い目を開けて!お願い!」
シャーロットは目の前で血を流す四人を見て涙を流して必死に叫んだ。
シャーロットがどれだけ叫んでも声は届かず四人は息絶えた…。
(どうして…どうしてなの…?どうしてまたお父様達が処刑されなければならないの…?今度は絶対に死なせないって決めたのに…どうして…。)
シャーロットは息絶えた四人を見て涙をポロポロと溢しながら思っていた。
そんな事を思っているとシャーロットの目の前にローランドがやってきた。
シャーロットはローランドを見た。
(結局…私は前世の状況を変えることができなかったの…?)
シャーロットはローランドを見ながら落胆した様にそんな事を考えていた。
「その魂までもが一つ残らず散り去ったとて私は…一生お前を許さない…。」
そんなシャーロットへローランドは冷たい表情でとても低く憎しみのこもった声で言った。
そして…ローランドはシャーロットに向けて大きく剣を振り下ろしたのだった……
「ダメーーーーーー!!」
シャーロットが叫んだ。
「シャーロット!!」
エラが慌てて叫ぶシャーロットを見てシャーロットへ声をかけた。
シャーロットはエラの声を聞いてパッと目を開けた。
「え……。お…母様…?」
シャーロットはエラを見て呟いた。
「シャーロット!大丈夫?とても魘されていたみたいだけど…。」
エラがとても心配そうにシャーロットへ言った。
(あ……。そうか…さっきのは夢…だったのね…。夢で…良かった…。本当に良かった……。)
シャーロットはエラに言われてどこかホッとした表情を浮かべて思っていた。
「えぇ。大丈夫よ…お母様…。少し怖い夢を見ていたの…。」
シャーロットは心配しているエラへ言った。
「そう…。きっと熱に魘されていたのね。」
エラは少しホッとした表情で言った。
「熱…?私…熱を出してしまったの…?」
シャーロットがエラへ尋ねた。
「覚えていない?家に帰宅したと思ったら玄関先で意識を失ったのよ…。急に倒れたからとてと驚き心配したわ…。お医者さんによると左腕の傷が原因の熱だろうとの事よ。右足も腫れていたわ。」
エラがシャーロットが倒れた時の状況を説明した。
「そうだったのね…。ごめんなさい…心配かけて…。」
シャーロットがエラの話を聞き申し訳なさそうに言った。
(まさか…帰宅した途端倒れてしまうなんて…。確かに帰りの馬車の中から救助が来てホッとしたのか傷の痛みは増したし体も熱っぽかったものね…。思ったり体に負担がかかったみたいね…。)
シャーロットはエラに言いながらもそんな事を考えていた。
「そんな事気にしなくていいのよ…。とにかく目を覚ましてくれて良かったわ。ボブとエイルもとても心配していたからシャーロットが目を覚ました事を教えてくるわね。アミルはまだ王宮にいるから手紙でシャーロットが目を覚ました事を伝えておくわね。」
エラがシャーロットへ言った。
「ありがとう…。お母様。あ…殿下は大丈夫だったかしら…。殿下も傷を負われていて発熱もしてらしたのよ…。」
シャーロットがふとローランドの事を思い出しエラへ尋ねた。
「ボブの話だと殿下は命に別状はなく傷の手当も終わり薬も服用された様だからすぐに熱も下がるだろうとの事よ。」
エラが説明した。
「そう…。それならば良かったわ…。殿下に何かあれば国の大問題になりかねないものね…。」
シャーロットが言った。
「そうね…。でも今は自分の事を心配しなさいね…。」
エラが心配そうに言った。
「えぇ。あ…私の体調が優れない事は殿下には内緒にしておいてくれない?わざわざお伝えする事でもないから。それよりも孤児院へ少しの間孤児院に行けないとミーシャさんと子供達に伝えておいて欲しいのだけどお願いできる?」
シャーロットがエラへ言った。
「分かったわ…。殿下にはシャーロットの事は話さない様にとボブ、アミル、エイルには伝えておくわ。孤児院への連絡も任せてちょうだい。」
エラが頷きながら応えた。
「ありがとう…。」
シャーロットはふっ…と笑みを浮かべてエラへお礼を言った。
「いいのよ。気にしないで…。それよりも今はゆっくり休んでちょうだい…。ボブ達を呼んでくる時に何か飲んだり食べたりできそる様に持ってくるわね。」
エラが笑みを浮かべて言った。
「ええ。ありがとう…お母様。」
シャーロットがお礼を言った。
そして、エラがシャーロットの部屋を出ていくとシャーロットは天井を見上げた。
(前世の私が処刑される夢を未だに見るなんてね…。忘れたい記憶だというのに…。忘れる事の出来ない記憶でもあるということね…。あの時の記憶は何度蘇ってもとても怖いわ…。忘れない記憶…どうしたら忘れる事ができるの?忘れる事が出来ないのは私に二度と過ちを侵すなという警告でもあるの…?分かってるわ…。もう二度とあんな事になるなんてごめんよ。)
シャーロットは天井を見つめながら考えていた。
(いくら…殿下が微笑みかけてくれても…贈り物をしてくれても…殿下でないみたいでも…それは全てミレイ様のものになるという事を改めて頭に入れておかないといけないわね…。)
シャーロットはどこか切ない表情を浮かべて考えていた。
そして、シャーロットはゆっくりと目を閉じたのだった……
その後、シャーロットが目を覚ましたと聞き慌ててボブとエイルもシャーロットの部屋に訪れたがシャーロットは再び意識が飛び高熱に魘される事になったのだった……
※
その頃…
王宮のローランドの自室では…
「んん……。」
ローランドがゆっくりと目を開けながら言った。
「殿下?!目を覚ませれましたか?」
ローランドが目を開けた事に気づいたアミルは慌ててローランドへ声をかけた。
「ん……アミルか…。私は一体…。」
ローランドが慌てるアミルを見て言った。
「殿下は馬車の中で腕に負われた傷が原因で発熱されたのです。発熱されてから今まで目を覚ませれませんでした…。王宮へ到着後すぐに専属医に診て頂き傷の治療もして頂き薬の服用もして頂きました。」
アミルがローランドへ説明した。
「あぁ…そうか…。私は馬車の中で発熱してしまったのか…。」
ローランドがアミルの話を聞いて何となく思い出す様に言った。
「救助に来てくれたのだな…。助かった…。ありがとう。」
ローランドはアミルの方を見て言った。
「いえ…。当然の事ですので。本当にご無事で良かったです。傷の方もロッティが応急処置をしてくれていたので大事には至らなかった様ですのでロッティの判断には感謝しかありません…。」
アミルがローランドへ言った。
「そうだ…。シャーロットは…今どうしているのだ?グランバード公爵家へ帰宅出来ているのか?」
ローランドはアミルの口からシャーロットの名前が出てハッとなりアミルへ尋ねた。
「あ…はい…。シャーロットは自宅に戻っておりますのでご安心下さい…。」
アミルはどこか浮かない顔で応えた。
「シャーロットは体調など崩していないか?」
ローランドはアミルへ更に尋ねた。
「………。はい…。問題ございませんのでご安心下さい…。」
アミルはローランドに尋ねられると少し間を空けてから応えた。
「……本当なんだな……?」
ローランドはアミルのどこか浮かない表情を見て詰め寄る様に言った。
「……はい……。」
アミルは頷きながら応えた。
「…嘘だな…。アミルは何かを隠そうとする時には唇を甘噛みする癖がある…。私がシャーロットの事を尋ねるとお前は唇を甘噛みしながら応えた…。つまり…何か隠しているという事だ。」
ローランドはキッとアミルを見て言った。
ローランドにそう言われたアミルはハッとなり唇を甘噛みするのをやめた。
「シャーロットに何かあったんだな?!何故私に隠すのだ!」
ローランドは少し怒った口調でアミルへと言った。
「……っ!それは…。」
アミルは戸惑う表情で言った。
「シャーロットに何があった?!どうしたんだ?!」
ローランドは更に声をあげて言った。
(シャーロットに髪飾りをした後からの記憶がない…。シャーロットが救助を頼んだと言っていたから救助が来たんだろうが…シャーロットは一体どういう状況なんだ?!アミルが隠す程何か体調を崩しているのか?!)
ローランドはアミルに言いながらもそんな事を考えていた。
「………。シャーロットは帰宅した直後に…倒れてしまい…ました…。」
アミルは少し悩み考えた後に少し間を空けて悔しそうな表情を浮かべながら言った。
「何だと?!シャーロットが?!」
ローランドはアミルの話を聞き思わず起き上がって言った。
「で…殿下!まだ起き上がられてはいけません!」
アミルは起き上がるローランドに慌てて言った。
「大丈夫だ!それより倒れたとはどういう事だ!」
ローランドがアミルの言葉を遮る様に言った。
「……。現在、高熱が出たまま下がらず熱に魘されて意識がない様なのです…。一度目を覚ました様なのですが再度…意識をなくした様でして…。薬を服用しても熱が下がらず高熱に魘されたままの様です…。先程、新たに急ぎの手紙が母より届いたのですが…どうやらシャーロットは右足首と左腕に怪我を負っていた様なのです。医者の話によると恐らく全力の力で足首と左腕を使った様です。殿下とシャーロットを救助に訪れた際に馬車の扉が歪んでおりました…。恐らくですが扉を開けるために思い切り蹴り上げたものの開かず体当たりをしたのではないかと思います。熱は左腕の怪我と疲労が原因だそうです…。」
アミルは拳をグッと握り少し唇を震わせながらローランドへ説明した。
「私が…救助時にシャーロットの異変に気づいていたらもっと早くに対応出来たのというのに…。」
アミルは悔しそうな表情を浮かべて言った。
「シャーロットの…意識がない…だと……?」
ローランドはアミルの話を聞いて驚き呟いた。
(きっと…私が意識を失っている間にシャーロットに無理をさせてしまったのだろう…。シャーロットは自分も怪我をしていたというのにその事については何も言わず私の手当をしてくれたのだな…。)
ローランドは呟きながらもそんな事を考えていた。
「アミル…お前の所為などではない…。私のせいだ…。私はシャーロットが普通にしていたから怪我をしていた事に気づかなかった。あの時に私が気づいていれば…シャーロットに無理をさせる事もなかったのだ…。」
ローランドを悔しそうな表情を浮かべてアミルへ言った。
「で…殿下!」
アミルはローランドの話を聞き慌てて言った。
「………。すぐに王室の専属医を連れてグランバード公爵家へ行く!支度してくれ!」
ローランドはシャーロットの状況を聞き居ても立っても居られなくてベッドから出ようとしながら言った。
「殿下!いけません!まだ起き上がれる状態ではありません!」
アミルが慌ててローランドを止めながら言った。
「離せ!!」
ローランドが自分を止めるアミルへ言った。
「離せません!殿下が無理をされてまた寝込まれたら陛下や王妃様も心配される上に国全体の問題にも関わってくるのですよ?!今は先に体調を善くする事が最優先です!」
アミルは強めにローランドへ言った。
「アミル!!」
ローランドはそんなアミルへ強めに言った。
「私とてロッティの事が心配なのです!ロッティは私の妹ですよ?!心配でたまりません!今すぐにでもロッティの元へ駆けつけたいのです!しかし…今私が優先すべき事は殿下の体調が回復されるのを見守る事なのです!それに…母の手紙によればロッティは自分が体調を崩した事を殿下には内緒にしてほしいとの事でした。きっとそれは下手にその事を殿下に伝えても体調の悪い殿下に迷惑がかかると案じたからだと思います。今殿下が無理をなされて体調が悪化してしまえばロッティのそういう思いも無駄になるという事なのです!」
アミルはローランドを説得する為に自分もシャーロットを心配しているのを必死で堪え手を震わせながらローランドへ真剣な表情で伝えた。
「っ!」
ローランドはアミルの話を聞きグッと口をつぐませた。
「…………。分かった…。今はとにかく体調を治す事に専念する。」
ローランドは少し悩み考えた後に気持ちを落ち着かせた様にアミルへ言った。
「はい…。そうして下さい。よろしくお願いします。」
アミルは少しホッとした表情でローランドへ言った。
「だが…体調が回復次第…王室の専属医を連れてグランバード公爵家へ行くからな…。」
ローランドは念を押すようにアミルへ言った。
「分かりました。」
アミルは頷きながら応えた。
それから二日後…
ローランドは熱もすっかり下がり腕の傷の化膿も善くなり腫れも引いていた。
専属医から遠出以外の外出は許可されたローランドは専属医を連れてアミルと共にグランバード公爵家を訪れていた。
ローランドはアミルに案内されてシャーロットの部屋を訪れた。
すぐにボブとエラもシャーロットの部屋を訪れた。
部屋の中へ入ったローランドとアミルはシャーロットのベッドへと近づいた。
ボブとエラらベッドの逆側へと立った。
「シャーロットは…未だに目を覚まさないのか…?」
ローランドは熱に魘されている少しやつれたシャーロットを見て衝撃を受けた様な表情を浮かべて言った。
「はい…。一度目を覚ましただけで後はご覧の通り熱に魘されて意識が何日も戻らないのです…。左腕の傷が思っていたよりも酷かった様で化膿がなかなか治まらないという状況です…。」
ボブが声を震わせながらローランドへ説明した。
「……。私のせいだ…。私がポート王国への視察に誘わなければ…私がシャーロットの怪我に気づいていればここまで酷くなる事はなかっただろう…。」
ローランドはシャーロットの姿を見ながら何とも言えない表情を浮かべてボブへと言った。
「殿下…。殿下のせいではありません…。」
ボブはシャーロットを見つめながら言った。
「………。王室の専属医を連れて来た。シャーロットの傷を診てもらうといい…。」
ローランドがボブれ言った。
「…?!わざわざ…王室専属医をですか…?ありがとうございます…感謝致します。」
ボブはローランドの言葉に少し驚いた表情を浮かべながらもローランドへお礼を言った。
「あぁ…。」
ローランドが応えた。
その後、王室専属医がシャーロットの腕と足の怪我を診察した。
腕の傷口には強めの化膿止めを使い熱を下げる薬も服用させた。
薬が効いてくれば二日以内には目が覚めるだろうとの事だった。
専属医の話を聞きローランド、アミル、ボブ、エラはホッとした表情を浮かべた。
「殿下…ありがとうございます。専属医を連れて来て頂いたお陰でシャーロットが目を覚ます兆しがみえました…。」
ボブがローランドへ深々と頭を下げてお礼を言った。
エラとアミルも同じく深々と頭を下げてローランドへお礼を言った。
「いや…。気にするな…。それよりも…少しシャーロットと二人きりになっても構わないだろうか?」
ローランドがボブへ少し言いにくそうに尋ねた。
「はい……?シャーロットと…ですか?」
ボブは思わぬローランドの言葉にとても驚き言った。
「あぁ…。ダメだろうか?」
ローランドは頷き応えると再度尋ねた。
ローランドの言葉を聞きボブ、エラ、アミルの三人は顔を見合わせた。
「……。分かりました。」
そして、少し三人が顔を見合わせて考えた後ボブが頷きながら応えた。
「感謝する…。」
ローランドが少しホッとした表情でボブへお礼を言った。
そして、シャーロットの部屋からボブ達三人が出ていきローランドはシャーロットのベッドの側にある椅子へと座った。
「シャーロット……。目を覚ましてくれ…。お願いだ…。」
ローランドはとても苦しそうな切なそうな表情を浮かべてシャーロットを見て呟いた。
そして…
ローランドはシャーロットの手をそっと優しく握った。
(せっかく…君に恋をしたとに気づいたというのに…。私のせいで…こんなつらい目にあわせてしまい…すまない…。早く…目を覚ましてまた…私に笑いかけてくれ…。)
ローランドはそんな事を切実に願いながらシャーロットの手を握り続けたのだった。
※
シャーロットは温かい何かを感じて目をそっと開けた…
(ん…。何…?何だかとても温かい心地よい気持ちだわ…。)
シャーロットは目を開けてそんな事を考えていた。
目を開けたシャーロットは周りが真っ白な霧の様なものに覆われている事に気づいた。
(ここはどこなのかしら…。霧の様なモヤで周りがまったく見えないわ…。)
シャーロットはそんな事を考えながら周りを見渡した。
そこへ小さな光がシャーロットへさした…
(ん…光…?あそこから光が差し込んでしてるわ…。ん…?光の中に誰か…いるの…?)
シャーロットは光が差し込んできている方に人影の様なものを確認しながら考えていた。
シャーロットは光の方へとゆっくりと歩いた。
そして光の先にいた人物に驚いた。
「え…?で…殿下…?」
シャーロットはその人物を見て驚きながら言った。
「シャーロット…。」
ローランドは優しい表情を浮かべてシャーロットの名を呼んだ。
「え…?あ…あの…どうして殿下がこの様なところへ…?」
シャーロットは驚いたままローランドへ尋ねた。
「君を迎えに来たんだ…。いつまでもこんな場所へいてはだめだ。」
ローランドは変わらず優しい表情を浮かべてシャーロットへ手を差し伸べながら言った。
「迎えに…?え…?一体……。ここは一体どこなのですか…?」
シャーロットは状況を把握できていなまま言った。
「ここは君の居るべき場所ではない…。さぁ…私と共にこちらへ来い。さぁ。」
ローランドは焦るシャーロットをよそに手を差し伸べたまま言った。
(ここは一体何なの?!何故…殿下が?殿下が私に手を差し伸べてるけど…どういう事…?殿下は確か怪我を負われて意識がないはずでは…?何が何だかわからないわ…。)
シャーロットはローランドが差し出した手を見て混乱気味に考えていた。
(殿下が私には微笑みかけてくれたり…贈り物をしてくれたからって…私は都合の良い夢でも見てるのかしら…この…差し伸べられた手をとったら私はまた…死ぬ運命になりそうで…怖い…。もうあんな思いしたくないのに…。一体私はどうしたらいいの…?)
シャーロットは更に混乱気味に考えていた。
「あの…私…やはり殿下とはいけません…。」
シャーロットは悩みに悩んでローランドへ告げた。
「………。何故だ…?」
ローランドは少し寂しそうな表情を浮かべてシャーロットへ尋ねた。
「それは…。私には決意した事があるからです…。」
シャーロットは困った表情を浮かべて言った。
「決意したこと…?」
ローランドがシャーロットへ尋ねた。
「はい…。」
シャーロットは頷きながら応えた。
「……。決意した事があるのなら尚更私とここを出るんだ。」
ローランドが言った。
「しかし…それは…。」
シャーロットは更に困った表情で言った。
「いいから!来い!」
ローランドは困っているシャーロットの手を取り言うとシャーロットの手を引き光が強く差す方へと走ったのだった。
「ちょ…ちょっと…殿下…!」
シャーロットは急に手を引かれ慌てて言った。
それと同時にシャーロットとローランドは強い光に覆われたのだった…
光に覆われた直後にシャーロットはゆっくりと目を開けた。
「シャーロット!」
シャーロットが目を開けたと同時にボブがシャーロットの名を呼んだ。
「……ん…お父様…?」
シャーロットは自分の名前を呼ぶボブへ言った。
「シャーロット…。良かった…。目を覚ましてくれて…本当に良かった…。」
ボブは目に涙を浮かべてながらシャーロットへ言った。
「私…一体…。」
シャーロットがボブを見て言った。
「一度目を覚ましたっきりその後また何日も熱に魘され意識がなかったんだ…。」
ボブが声を震わせながら言った。
「そう…だったの…。お父様…私はもう…大丈夫だから…心配かけてごめんね…。」
シャーロットがボブへと言った。
その後、すぐにボブがエラ達を呼びに行きシャーロットの部屋にエラ、アミル、エイルが駆けつけた。
皆、シャーロットが目を覚ました事を心から喜んだのだった。
(あれは…あの霧の様なモヤの出来事は夢だったのね…。それにしても不思議な感覚の夢だったわ…。まるで本当にそこに殿下がいた様な夢だったわ…。)
シャーロットは皆が喜ぶ中夢で見た光景のことを不思議に思いながら考えていたのだった。
こうして…
シャーロットが目を覚ましたのは救助されてから四日後の事だった………
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この度、男装令嬢・キャサリンは探偵助手をする事になりました!!
〜探偵様は王子様?!事件も恋も解決お任せ下さい〜
悪役令嬢でもなくヒロインでもないまさかのモブキャラに転生したので大好きなハンドメイドをしながら暮らす事にしました!!
男色皇太子…異世界転移少女に愛を乞う!
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