21.意識
シャーロットがこの国でハンバーグを作る試みをしてから一週間が経った。
その日から、シャーロットは栄養バランスを考えた食事を子供達へと用意したのだった。
どの料理も栄養バランスも味も見た目も食べたくなる様なものばかりで子供達は毎日より楽しく食事が出来る様になっていた。
この日も孤児院ではシャーロットやミーシャ、子供達が楽しく過ごしていた。
※
同じ頃、王宮内の王太子執務室では……
「殿下、私は明日休暇を頂いていますので明日のご予定は全てこちらへ記入しておきました。明日の予定を見る限りでは私の代理を補佐に頼む必要もないかと思いましたので補佐へは頼んでおりません。もしも補佐が必要の事なら今からでも手配いたします。」
アミルがローランドへと明日の予定表を渡して伝えた。
「いや…明日は補佐は必要ないから大丈夫。そのままの予定で問題ない。」
ローランドがアミルから受け取った予定表を見ながら言った。
「かしこまりました。」
アミルが応えた。
「しかし…珍しいな。アミルが決まった休暇以外を申請するとは。」
「はい。そうですね。」
ローランドは何気なしにアミルへ言うとアミルは頷きながら応えた。
「何か特別な用でも?」
「いえ…特別ではないのですが明日は孤児院へ訪れる予定なのです。」
「何…?孤児院へ?」
「?はい。孤児院の子へ剣の稽古をつけてやるのです。」
「剣の稽古だと?孤児院の子にか?」
ローランドはまた何気なくアミルへと尋ねるとアミルは孤児院へ訪れる事を伝えた。
「はい。実は少し前にロッティの提案でグランバード一家で孤児院へボランティア活動に行ったのですがそこに私と同い年の子が居まして…。どうやらその子は将来は騎士になりたいとの事でロッティに剣の稽古をつけてあげて欲しいと頼まれたのです。」
アミルはローランドへと孤児院へ行く理由を説明した。
「シャーロットにだと?」
アミルの説明を聞いたローランドはアミルがボランティアに行った事よりもシャーロットからお願いされたという部分に反応して言った。
「??はい。それでどの様なものかと半信半疑で軽く稽古をつけてみたのですが…想像以上に腕が良くて私もつい熱くなってしまいまして…。今年行われる王室の騎士団の試験を受けてみたいとの事でしたので試験まで私が時間のある時は稽古をつけてやろうと思いまして。」
そんなローランドに少し驚き不思議に思いながらも更に説明した。
「王室の為に騎士団に入りたいという思いがあるのならば身分などは関係ないと思わせる程…その子は真剣に取り組んでいるのです。しかも…初対面での印象はそれほど良くはなかった子なのですが話をして接してみたらとても礼儀正しく優しい心を持っていました。それにシャーロットもその子の事を凄く応援しているみたいですし。」
アミルは笑みを浮かべながら続けた。
「シャーロットが応援しているのか…。」
ローランドはアミルの話を聞きどこか不機嫌そうな表情で呟いた。
「はい。ロッティに対してはいつもぶっきら棒な様ですが内心はいつも孤児院や孤児院の子達の事を考えているロッティには感謝していると言っていました。殿下も以前孤児院へ行かれた際にその子と会っていますよ。ほら!あの…とても絵が上手だった子です。」
アミルはローランドの呟きが聞こえなかったのかどこか嬉しそうな表情を浮かべてローランドへと続けて言った。
「あぁ。覚えている。あの少年か…。えらくシャーロットへ馴れ馴れしくしていたが…。」
ローランドは少し眉を動かしながら応えた。
「ロッティは孤児院の従業員や子供達には貴族の令嬢だというのは気にしないで接してくれと伝えている事もあり子供達は気軽にロッティに接している様です。ジョナス…その少年は特にロッティは仲が良いみたいです。何やらロッティがジョナスに友達になって欲しいと言った様なので。」
アミルは少し表情を変えたローランドを不思議に思うも応えた。
「友達だと?」
ローランドは更に眉を動かしながら言った。
「はい。恥ずかしながらロッティは友達と呼べる存在が今までいませんでした…。きっとあの我儘さに付き合わされるのが嫌がったからでしょう…。私達家族もロッティにはこのまま気兼ねなく話をしたりお茶を飲んだりする友達が出来るのかを心配していましたが友達と呼べる存在が出来たことは喜ばしく思っています。現にロッティもジョナスが友達になってくれて嬉しそうにしていますし。環境大臣である父も平民だからと差別せずその様に接している事は大切だと言っていました。貴族も平民もこの国の国民に変わりはありませんから。」
アミルはどこか誇らしげな表情で笑みを浮かべながら言った。
「………そうか………。」
ローランドはアミルの説明を聞いて少し間を置いて言った。
「はい。と、いう訳で明日は休暇を頂きます。」
アミルがローランドへと言った。
「…………あぁ。分かった。」
ローランドはアミルに言われると何かを考える様に応えたのだった。
※
翌日…
「アミルお兄様!私は先に孤児院に行っているわね!」
「あぁ。分かった。私も支度ができ次第孤児院へと向かうよ。」
「ええ。分かったわ。」
グランバード公爵家ではシャーロットとアミルがやり取りをしていた。
シャーロットが先に出発するとアミルはすぐに支度をして出発準備に取りかかったのだった。
出発準備が整い孤児院へと出発しようとしたその時だった…
公爵家の執事が慌ててアミルの元へとやってきた。
「ア…アミル様!」
「どうした?そんなに慌てて…。」
「それが…今…玄関先に王太子殿下がお越しになられてまして…。」
「何?!殿下が?!」
「はい…。」
「分かった。すぐに殿下の元へと向かう。」
「はい。承知しました。」
執事がアミルへ焦り慌てた表情で事を伝えるとアミルは驚き言った。
そして、急ぎ玄関先へと向かったのだった。
「殿下!!」
アミルが急ぎ走りに玄関先に向かうと玄関先に立っていたローランドへ声をかけた。
「おはようございます殿下…一体どうなされたのですか?!」
アミルがローランドの元へと着くと慌てて言った。
「あぁ。おはよう。………。私も孤児院へ同行しようと思いここへ来たのだ。」
ローランドはアミルの慌て様などきにする事なく言った。
「はい?!殿下も孤児院へですか?」
アミルはローランドの言葉に驚き言った。
「あぁ。私が行くのはまずいのか?」
「いえ…。そういう訳ではありませんが何故急に孤児院へ行こうなど?」
「………アミルの話を聞き私もその少年に剣の稽古をつけてやろうと思ったのだ…。」
「殿下が剣の稽古をですか?!」
「あぁ。我が王室へ仕えたいと言っている者だ。私も一度手合わせしてみたいと思ってな。」
「ですが…殿下は執務がおありなのでは…。」
「問題ない。昨夜のうちに今日の分はほとんど片付けておいた。」
「え?!あの量をですか?」
「あぁ。これで問題はないだろう?」
「はい…。それはそうですが。ですが孤児院では殿下だという事を隠して頂く必要がありますが…。」
「それも問題ない。孤児院の者達は私をアミルの友達だと思っているしな。それにそれもふまえた服装をしてきたからな。」
「左様ですか…。まぁ…殿下がそう仰るのなら…。」
「そうか?では、早速孤児院へと向かおう。」
「え?あ…はい。承知しました。」
ローランドとアミルの温度差のある会話が続いた末にローランドも孤児院へ同行する事になった。
アミルはローランドの行動を驚きと不思議に思いながらもそれほど深くは考えてはいなかった。
アミルはまさかローランドがシャーロットとジョナスの様子が気になった末の行動だという事など気づく由もなかった。
そして、ローランドとアミルは孤児院へと向かったのだった。
※
ローランドとアミルが孤児院へ到着した。
既に、孤児院裏の広場ではシャーロットが見守る中ジョナスがアミルから貰ったら木刀で素振りをしていたのだった。
ローランドとアミルはシャーロット達に気づき裏の広場へと向かった。
するとシャーロットがアミルに気づいて手を振った。
「アミルお兄様〜こっちよ〜!」
シャーロットは手を振りながら笑顔でアミルへと言った。
だが、次の瞬間シャーロットの顔から笑顔が消えたのだった。
(ちょっと…何で…アミルお兄様と一緒に殿下がいるの?!どういうこと?え…?…意味が分からないわ…。)
シャーロットはアミルの後ろにいたローランドに気づき驚きで一瞬表情を固めたままそんな事を考えていた。
「おい…ロッティ、あの人はこないだのアミル様の友達だろ?何故友達も一緒なんだ?」
ジョナスもローランドに気づき不思議そうにシャーロットへと尋ねた。
「知らないわ…。私が聞きたいわ…。」
ジョナスに言われたシャーロットはあ然とした表情で応えた。
そして、ローランドとアミルがシャーロットとジョナスの元へとやって来た。
「あ〜ロッティ…急遽ローさんも同行する事になったんだよ…。」
アミルが苦笑いを浮かべながらシャーロットへと言った。
「……。そ…うなのね…。」
シャーロットは表情を歪ませながらも苦笑いを浮かべて言った。
(アミルお兄様?!これは一体どういう事なの?何故殿下が?!)
(私も驚いているんだよ…。一先ずまた事情は説明するから…。)
シャーロットは目でアミルへ訴えるとアミルは苦笑いを浮かべながら目で応えたのだった。
「アミル様…ロー様…おはようございます。」
そんな兄妹のやり取りなど知る由もないジョナスはローランドとアミルへと挨拶をした。
「で…ロー様…おはようございます……。」
あ然としていたシャーロットはジョナスがローランドとアミルへ挨拶したのに気づきハッとなりローランドへと挨拶をした。
「あぁ。おはよう…。」
ローランドが二人へと応えた。
「ジョナスおはよう。」
アミルも応えた。
「ジョナス…今日はね…私の話を聞きローさんもジョナスと手合わせしてみたいと言ってね。」
アミルはジョナスへと伝えた。
「そう…なのですか?」
ジョナスはアミルの話を聞き不思議そうな表情を浮かべ言った。
「あぁ。ローさんは私よりも遥かに剣の実力が凄いからジョナスにはとてもいい刺激になると思うよ。」
アミルは笑顔でジョナスへと言った。
「アミル様よりも実力が上……。分かりました。ロー様よろしくお願いします。」
ジョナスはアミルの言葉を聞き呟くとすぐにローランドの方を見て言った。
「あぁ…。よろしく頼む…。」
ローランドは淡々と応えた。
「ちょっと…ジョナス!今日はアミルお兄様と稽古をするんじゃなかったの?!」
ローランドとアミルとジョナスのやり取りを聞いたシャーロットは慌ててジョナスへと言った。
「そうだけど、アミル様より実力が上の方との手合わせ出来る機会など普通はないぞ?せっかく手合わせしてもらえるのにそれを断る理由なんてないだろ?」
ジョナスは慌てるシャーロットをよそに淡々と応えた。
「でも……。」
シャーロットは心配そうな不安げな表情で言った。
(殿下の剣の実力はこの国一番と言われている程なのよ?!そんな殿下を相手に手合わせなんて稽古だと言っても危ないわ。何年も騎士団にいる騎士だって殿下には到底及ばないとアミルお兄様が言っていたくらいよ?まだ稽古を始めたばかりのジョナスでは危なすぎるわ…。)
シャーロットはジョナスに言いながらそんな事を考えていた。
「大丈夫だって。そんな心配そうな顔するなよ…。何がそんな心配なんだよ。俺だってアミル様に稽古をつけてもらってから前に比べて腕も上がってきたんだぞ?」
ジョナスは不安げな表情を浮かべるシャーロットへ軽く笑みを浮かべながら言った。
「それはそうなんだけど…。」
シャーロットはそんなジョナスの言葉にも若干の不安を残した表情で言った。
「おい!手合わせするのならば早速するぞ!」
そんなシャーロットとジョナスのやり取りを見ていたローランドは少し苛ついた様にジョナスへと言った。
「はい!」
ジョナスはローランドに言われて応えた。
そんなジョナスをシャーロットは不安げが残る表情で見ていた。
(何故、そんな不安げな表情を浮かべている?!そんなにこの男が心配なのか?!)
ローランドはシャーロットの表情を見て苛つき気味にそんな事を思っていた。
「ジョナスと呼ぶぞ?」
「はい!」
「では…ジョナス…私へ思い切り打ち込んで来い。」
「……はい!」
そして…ローランドとジョナスはシャーロットとアミルから少し離れた場所へと移動した。
そしてローランドはジョナスへと尋ねるとジョナスは真剣な表情で応えた。
そして、ジョナスはローランドへ向かって思い切り打ち込んでいった。
カンカンッ!
カツッ!
ジョナスがローランドへ全力で打ち込む音が響いた。
「それで…何故殿下がここへ?」
「いや…それが私も驚いているんだよ…。ロッティが家を出た後に私も支度をしてすぐに出発しようとしたところに殿下が来られたのだ。」
「だから…何故殿下が我が家へ来るの?お兄様は今日は休暇を取っていたんでしょ?」
「あぁ…。もちろんだ。休暇の事は殿下にも伝えてあるさ…。」
「はぁ…それなら一体殿下は何を考えているのかしら…。」
「昨日、殿下に休暇について尋ねられたのだがその際に今日ジョナスへ剣の稽古をつける事をお伝えしたんだ…。それで殿下もジョナスと手合わせをしてみたいと言われてな。」
「どうしてそういう流れになるのかしら…。」
「それは…私も知りたいとこさ…。」
ローランドとジョナスが手合わせをしているのを見ながらシャーロットとアミルが会話をしたいた。
シャーロットは若干の不満表情を浮かべていたがアミルも困った表情を浮かべていた。
「だが…ジョナスにとってもいい経験になるだろう。騎士団の者でも殿下と手合わせをする事などほぼないというのに…。」
「それは…そうかもしれないけれどいくらなんでも相手が殿下なんて危ないわ。ジョナスは剣の稽古を初めてまだ間もないのよ?」
「そんな事は分かっているさ…。殿下とてそんな事はわかっているからジョナスのペースに合わせてくださるさ。」
「そうかしら…。」
「そうさ!それにほら…。見てごらんよ。」
アミルはローランドとジョナスを見ながらシャーロットへ言うとシャーロットはやはり不安げな表情で言った。
そんなシャーロットにアミルは苦笑いを浮かべながら言った。
それでもシャーロットは不安げな表情が消えずに言った。
そんなシャーロットはアミルは言うとローランドとジョナスの方を指さした。
アミルが指さした先に見えたジョナスは真剣な表情でローランドへ打ち込んでいた。
「ジョナスも生き生きと殿下に打ち込んでいるだろ?ジョナスはジョナスで私よりも実力のある殿下との手合わせを楽しんでいるんだよ。」
アミルはローランドとジョナスを見ながらアミルへと言った。
「確かに…。言われてみるとそうね。ジョナス…何だか表情が生き生きしているわね。」
シャーロットはアミルに言われて改めてジョナスの表情を見ながら言った。
(相手が殿下だから心配していたけどジョナスにとってはいい経験と刺激なのかしら。本当にアミルお兄様の言う様に表情が生き生きしてるわ。殿下とあまり関わりたくないのに殿下がここへ来たことで余計に視野が狭くなってしまっていたのね。)
シャーロットはジョナスの表情を見ながらそんな事を思っていた。
「ジョナスーー!!その調子よ〜!!とてもいい打ち込みよ〜!!」
シャーロットは笑顔で打ち込みをしているジョナスへと大声で言った。
(あいつ…。令嬢があんな大きな声で叫んでいいのかよ…。づたくっ…。)
そんなシャーロットの声を聞いたジョナスはニッと笑みを浮かべながらそんな事を思っていた。
そんなシャーロットとジョナスの表情を見たローランドは苛つきを覚えていた。
(何なのだ?!何故…シャーロットはあの様に笑顔を浮かべてジョナスの事を気にかけるのだ?!少し前まで私の機嫌を伺っていたのではないのか?私には一度もその様な笑顔を見せた事などないというのに…。)
ローランドはジョナスの打ち込みを受けながらそんな事を苛つき気味に考えていた。
(それに…ジョナスのこの表情…。そしてシャーロットの声を聞いた途端に打ち込みの意力が増した気がする。もしや…ジョナスはシャーロットに気があるのか?!)
ローランドはジョナスの表情を見てそんな事を考えていた。
ローランドはシャーロットとジョナスを意識して考えてしまったあまりジョナスの打ち込みの勢いに一瞬足をふらつかせてしまった。
「くっ……。」
ローランドは思わず声を出すと反射的にジョナスの打ち込みを思い切り打ち返してしまったのだった。
ローランドの打ち返しの勢いに防御しきれなかったジョナスは頬にローランドの木刀の先がかすれてしまったのだった。
「ジョナス!!」
その一部始終を見ていたシャーロットがジョナスの名を叫んだのだった………
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他にも連載中の小説がありますのでよろしければご一緒にご覧下さい★
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この度、男装令嬢・キャサリンは探偵助手をする事になりました!!
〜探偵様は王子様?!事件も恋も解決お任せ下さい〜
悪役令嬢でもなくヒロインでもないまさかのモブキャラに転生したので大好きなハンドメイドをしながら暮らす事にしました!!
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