11.閑話(ローランド・アミル)
国王・キーランドとシャーロットの父・ボブが話をしていた同じ頃…
王宮内にある王太子執務室では…
「アミル…今日のこれで目を通す書類は終わりか?」
王太子・ローランドが秘書兼護衛でシャーロットの長兄・アミルへと首をポキポキと鳴らしながら尋ねた。
「いえ、あと…こちらの書類にも目を通して下さい。」
アミルはニコリと微笑みながら自分の机に置いてある高く積まれた書類を指さしながら応えた。
「はぁ…。まったく…どうせ内容は中身がスカスカのものばかりだろう…。」
ローランドはアミルの机の上の書類の量を見てため息をつきながら呆れた様に言った。
「まぁそう言いましてもこれも殿下のお仕事ですから。」
アミルはニコリと微笑みながら言うとローランドの机の上へと書類を置いた。
「はぁ…。」
ローランドは書類を見ながらため息をつくと書類を手にとりまた目を通し始めた。
「そうだ!殿下!」
アミルがはっと思い出した様にローランドへと言った。
「何だ?まだ他にも目を通すものがあるのか?」
ローランドは面倒臭そうな表情を浮かべながらアミルへと尋ねた。
「いえ…違いますよ。二日経ってしまってるであれなのですが…。ロッティの…妹との婚約取り消しの件ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした…。」
アミルは椅子から立ち上がり頭を下げながらローランドへと謝罪した。
「別に…アミルが謝る事ではないだろ?婚約の事も今回の事もシャーロットの我儘なのだから。」
ローランドはあっけらかんとした表情を浮かべながらアミルへと言った。
「しかし…妹…身内の我儘での事ですので…。しかも、私は殿下の秘書であり護衛でもありますし…。」
アミルは困った表情を浮かべながら言った。
「アミルはシャーロットとの婚約がなくなっても私の秘書兼護衛である事は変わりない事だ。アミルの仕事とシャーロットとの事はまったく別物だ…。それに…シャーロットのことだ。今アミルが謝ったところでどうせまたいつもの様にまた我儘ばかり言ってくるだろうしな…。すぐにまた謝る事になるのなら今謝らなくとも良い。」
ローランドは表情一つ変えず淡々とアミルへと言った。
「殿下…いくらシャーロットが我儘だとはいってもちょっとさすがにシャーロットの事を散々に言い過ぎではないですか?」
アミルはムッとした表情を浮かべながらローランドへと言った。
「本当の事だろう?今回の婚約取り消しの件も孤児院の責任者がどうこういう件もただの気まぐれか…もしくは私の気を引きたいなどのその様なところだろ?」
ローランドは淡々とアミルへと言った。
「今回のシャーロットはそんな事ありませんよ。」
アミルはツーンとした表情でローランドへと言った。
「先程まで私に妹の我儘を謝っていたとは思えない態度だな。」
ローランドは首を傾げながらアミルへと言った。
「それは…殿下が言い過ぎるからつい…むきになってしまったのです。」
アミルはローランドに痛いとこを突かれたという表情を浮かべながら言った。
「やれやれ…あんな我儘娘でもアミルにとっては可愛い妹ということか…。」
ローランドは心底呆れた表情を浮かべながら言った。
「殿下!!」
アミルはムッとした表情で言った。
そんなアミルをローランドは無視をして書類に再度目を通し始めた。
(まったく…どうせまたシャーロットはいつもの様に王宮へとやってきてやはり婚約は取り消しは~などと言ってくるに決まっている。アミルのやつ兄だというのにそんな事も分からないのか…。困ったものだな…。)
ローランドは書類に目を通しながらチラリとアミルを見てそんな事を思っていた。
「しかし、今回の我儘はいつもの我儘とは違う様な気がするんです。家族とも話していたのですが…。」
アミルはふと何かを思い出す様な表情を浮かべながら言った。
「違うとは…?」
ローランドは思わずアミルの言葉に反応して尋ねた。
「いつものロッティだと我儘を言ったと思ったらまたすぐに違う我儘を言って、その我儘が通らなければ物に当たったり機嫌が悪くなったりしていました…。王宮にも殿下に会いによく来てもいましたし…。毎日の様に私にその日の殿下の様子などを聞いてきていました…。」
アミルは手を顎に置きながら言った。
「私の毎日の様子まで聞いてきていたのか?!」
ローランドはアミルが自分の知らない事をさらっと言ったのですぐに聞き返した。
「えっ?あっ…はい…。」
アミルはハッとなり苦笑いを浮かべながら応えた。
「私は自分の事を根掘り葉掘り聞かれるのも嫌で束縛されるのも嫌だと知っているよな?まさか…アミル…お前教えていたのではないよな?!」
ローランドはキッとアミルを睨みつけながら言った。
「存じておりますよ…。だからそれは……っと、話がズレてしまいましたが。」
アミルは気まずそうに言うとさらっと話をすり替えようとして言った。
「誤魔化すな!!」
ローランドは更にキッとアミルを睨みつけながら言った。
「そう…いつもは聞いてきていたのにロッティが陛下に殿下との婚約取り消しを申し出た日からまったく殿下の事を聞きに来ていないのです。それだけではなく王宮に行く素振りなど一切見せず…むしろ…毎日孤児院へと朝から夕方まで行っているようなのです…。」
アミルは考え込む様な素振りをしながらローランドへと言った。
(アミルのやつ…話を誤魔化したな…。)
ローランドはアミルが話をそらしたのでそんな事を思っていた。
「それもただの気まぐれだろう。今まで散々に我儘を言ってきた者がそう簡単に変わるわけがないだろう。まぁ…私はシャーロットが大した用もなく頻繁に王宮へと訪れる事がなくなって助かるがな。仕事の邪魔になって仕方なかったからな。」
ローランドは淡々とアミルへと言った。
「邪魔って…。はぁ…。もう少し考えて発言して下さいよ。」
アミルはため息をつきながらローランドへと言った。
(まったく殿下はロッティが私の妹だと知っててここまで言うからな…。本当に容赦ないお方だよな。)
アミルはローランドを見て内心呆れながら思っていた。
「本当の事だ。それに私は婚約者が誰であろうがどうでもいい事だ。シャーロットと婚約しようが取り消ししようがどうでもいい。私はこの国の為に父が了承した者と婚約するまでたがらな。」
ローランドは更に淡々と言った。
「殿下に…一生にたった一人の誰かを愛する日が訪れるのでしょうかね…。私は心配になりますよ…。」
アミルは呆れた表情を浮かべながらローランドへと言った。
「愛?そんなもの王太子である私には必要などない。愛で国が守れるのか?」
ローランドはアミルは何を言っているんだ?といわんばかりの表情でアミルへと言った。
「はは…。話が逸れてしまいましたがとにかく今回のロッティはいつものロッティではないという事です。殿下、殿下と言わないロッティが逆に心配になります…。」
アミルは呆れ笑いを浮かべるもすぐに話を戻して言った。
「そんな話は私の前でしなくとも家族としたらいい事だ。さぁ…口を動かす前に手を動かすぞ。」
ローランドは煩わしそうな表情を浮かべながらアミルへと言った。
「ええ。ええ。分かりました。さぁ仕事仕事!」
アミルはそんなローランドに更に呆れた表情を浮かべなると手を動かしながら言ったのだった。
その時…
ふと…ローランドの婚約取り消しを申し出た日のシャーロットの表情が脳裏に過ぎった。
(そういえば…あの時のシャーロットの表情…心の底から私との婚約取り消しが決まる事にホッと…安心した表情を浮かべていたな…。あれも私の気を引く演技だったのか?……。まぁ…私にはどうでもいい事だな。別に婚約者はシャーロットでなくとも国の将来の為であれば誰でも良いのだからな。)
ローランドは脳裏に過ぎったシャーロットの表情を思い出してそんな事を考えた。
そして、再び書類に目を通し始めたのだった。
その時…
コンコンッ!
「アミル様へお急ぎの伝言がございます。」
執事が部屋の扉を叩いて言った。
慌てた様子の執事の声にローランドとアミルは顔を見合わて首を傾げた。
「入れ!」
ローランドが応えた。
「はい。失礼致します。」
執事はそう言うと部屋へと入った。
「どうした?何かあったのか?」
ローランドが慌てた様子の執事へと尋ねた。
「はい。シャーロット様が滞在先の孤児院でお怪我を負われたの事です…。既にエイル様が孤児院までシャーロット様をお迎えに行かれているそうですのでお急ぎ邸の方へお戻り下さいとの事でした。グランバード公爵様にも既にお伝えしてございます。公爵様も邸へと急ぎお戻りになられました。」
執事は慌てた様子でアミルへと伝えた。
「何?!ロッティが?!」
アミルは執事の話に驚きの椅子から立ち上がって言った。
「はい。詳しい詳細は聞いておりませんが急ぎ戻るようにとお伝えして欲しいとの事でした。」
執事は慌てて応えた。
「分かった。伝言ありがとう。」
アミルは頷きながら言うと執事へとお礼を言った。
「はい。私はこれで失礼致します。」
執事はそう言うと部屋から出ていったのだった。
「殿下、お仕事中で申し訳ありませんが私は邸へと戻らせて頂きます。」
アミルは焦った様子でローランドへと言った。
「あぁ。分かった。気をつけて帰れ。」
ローランドは頷きながら応えるとアミルへと言った。
「はい。ありがとうございます。それでは…失礼致します。」
アミルは頭を下げてローランドにお礼を言うと足早に部屋から出て邸へと急いだのだった。
ローランドはアミルが出ていった後もすぐにまた書類に目を通し始めたのだった。
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