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私の箱入り紀行録  作者: raira421
第1章 旅の始まり
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1-8 森の中でひとりぼっち


 がさ、がさ…… 

 

 う〜ん、ここはどこかしら?

 

 私は御屋敷の裏側にある森の中をさまよっていた。


 暫く歩き続ける。でも、森から抜け出せない。完全に迷ってしまったようだ。

 ディナーをしっかり食べたのが幸いだったわ。食料もお金も持ってないんですもの……。

 お父様を見返してやることに必死になりすぎて、細かい事が考えられていなかったのだ。

 冷たい風が私の横をぴゅーっと通り抜けた。春先とはいえ、夜はまだまだ寒い。私は肩を震わせ、座り込んだ。

 真っ暗な森の中で、木々が不気味にも私を見下ろしている。私の心は途端に心細さに包まれた。

「……でも、こんな所で立ち止まっていられないわよね。私は、誰が何と言おうと、旅に出てやるんだから!」

 私は自分の心を奮い立たせようとした。でも、上手くいかない。

 私の目に涙が溜まった。

 

 やっぱり、ひとりぼっちは怖いよ、寂しいよ……。

 

 その時、

 

「こんな所にいたのですか」

 

 頭上から、温かい声が降ってきた。

 顔を上げると、その声の主、シナモン先生が立っていた。

 

 暗闇の中でも、真っ白な髪がよく目立っていた。グローブのはめられた手をには小さな毛布が握られている。いつもと同じ、あの大好きな先生の姿があった。

 先生しゃがみ込むと、そっと私に毛布を掛けた。

 先生と目線が合う。その青く優しい目を見ていると、心の中に暖かなものが広がるのを感じた。思わず、私の目に溜まった涙がこぼれ出した。

「うっ、せ、せんせぇ……」

 私は先生の胸に顔をうずめた。先生の胸はとっても温かくて、息を吸い込むと、頭が先生の甘い香りに満たされた。

 

 こんな森の奥まで、私を探しに来てくれた先生。こんな薄暗い所まで追いかけ来てくれた、先生。


 安心しきって、歯止めが利かなくなったのだろうか。大粒の雫が次から次へと流れ出た。私の頬も、シナモン先生の胸も、みるみる濡れていった。

 それでも、シナモン先生は嫌そうな様子を見せたりはしなかった。ただただ優しく、ぎゅっと、私を抱きしめてくれた。

 先生の力強い腕を体で感じ、私はただただほっとした。

 

 胸の奥に小さな光が点る感覚

 ……ありがとう。


 一通り泣き終わった頃、シナモン先生が私に言った。

「自分の夢のために、自ら行動に出たとは。立派になりましたね」

 とても優しい声だった。

 こんな不甲斐なくて、何も考えていない私を、褒めてくれるの……?

 本当に先生は優しい人なのね。そうだ。そんな先生だから、私は貴方が大好きなのよ。

 私は、私の中でのシナモン先生の存在の大きさを、再確認した。

 

 先生は私に向き直り、再び私の目をじっと見た。しっかり聞け。と目で唱えているようだ。

 

「ですが、勇敢なのと、無謀なのは違います。思い切った時こそ冷静に。落ち着いて思考をめぐらすことも必要なのですよ」

 

「はい。」

私も、先生の目をしっかりと見つめて、答えた。

 

 『勇敢と無謀は違う』。

 調子に乗ると、周りが見えなくなっちゃうのは、お父様譲りの私の悪い癖。

 そんな私にこの言葉はピッタリだった。覚えておかなきゃ。

 私は先生の言葉を胸に刻むのだった。

 

「では、帰りましょうか」

 シナモン先生に連れられて、2人で屋敷まで歩いて帰った。

 シナモン先生の気配がすぐ隣にある。この安心感。先生の肩と私の肩がかすかに触れ合う。

 さっきまで不気味で恐ろしかった森も、シナモン先生の隣を歩いていると、全然怖くない。それどこか少し暗いこのくらいがロマンチックに感じる程だ。

 私は、貴方と一緒にいれるなら、どんな場所でもきっと大丈夫ね。


 

 ……でも、私が、ちゃんと自力で旅に出られるようになる日は来るのかしら?



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