1-6 家出
バタン!
私は御部屋に駆け込むと、わざと大きな音を立ててドアを閉めた。
チク、タク、チク、タク……
部屋の中は柱時計の音だけが響いている。
一方、私の頭にはお父様への文句や不満が浮かんでは消え、浮かんでは消え……。
私は、いつ誤解していたのかしら。ちゃんと話せばわかってもらえるなんて。
結局、お父様も使用人のみんなも、十年前と何も変わってないのよ。私を、子ども扱いして……。
考えれば考えるほど、モヤモヤは募っていく。
十年前から変わっていないのは、私も同じか。
十年前と同じ様に、お父様の言うことを聞いて、十年前と同じ様に、夢を見て……。
このままじゃ、駄目ね。馬鹿にされて当然だわ。
私がもう子供じゃないってこと、お父様に知らせてあげなきゃ!
思い立ったが吉日。私は早速行動に移すことにした。
自力で旅に出るのだ。もう、お父様の許可なんて求めないわ!
と、私は興奮冷めやらぬ頭で考えた。
乱暴にドレスを脱ぎ捨てる。せっかくのドレスがしわになってしまったが、この時の私はそんなことに目を向けてなどいられなかった。
タンスからワンピースを取り出し、着た。長いスカートだったが、ドレスよりかはましだろう。
これで服装はOK。
次に私は、御部屋をぐるりと見渡した。
私の御部屋は御屋敷の2階。
下の階へ降りるにはメイドやお父様がうじゃうじゃいる1階の廊下を通らなければいけない。
でも、それは出来ない。
じゃあ、どうやって脱出する?
私は御部屋のカーテンを引き剥がした。
2つのカーテンを結ぶ。大きなカーテンだったので随分と長くなった。
私は部屋の窓を開けてバルコニーに出た。下には裏庭。
よし、誰もいないわね。
結んだカーテンの端をバルコニーの柵に巻き付け、もう片端を外に放り投げる。
カーテンロープの完成ね!
これは、小説の中でお姫様が魔王の城から脱出するのに使っていた方法だった。
本当に成功するかしら? 落ちちゃったらどうしよう……?
ちょっと怖いけど、ここでウダウダしてられないわ!
私は意を決して、バルコニーから身を乗り出した。
ロープにしっかりと捕まり、下へ、下へ……。
どしん!
いった~い!
結論から言うと、カーテンロープは長さが足りてなかった。
飛び降りても怪我しない程度の高さだったので手を離したものの、尻もち着いちゃった……とほほ。
お尻がまだちょっと痛いけど、私は走り出した。
こうして私は家出した。