1-5 私の誕生日
シナモン先生に連れられて、ダイニングルームに入る。
気分はさながら、王子様にエスコートされるお姫様だわ!
私の姿を見るなり、お父様は目をキュッと細めた。
「サブレ、綺麗だよ」
「ありがとう、お父様!」
そして、私の誕生日会が始まった。誕生日会といっても、お父様とシナモン先生と私の三人で食卓を囲む、小さなものだけどね。お父様ったら、私と2人だけでお食事をするつもりだったのよ。でも、シナモン先生が参加するように私が頼んだの。
おいしそうな料理が運ばれて来た。
レモラという魚の身をレモン香るドレッシングで味付けした、カルパッチョ。甘い人面ジャガイモのヴィシソワーズ。メインディッシュは赤ワインのソースがかかった、牛フィレ肉のタリアータ。季節のフルーツで作った特製ジュースとともに味わう料理はどれも、とっても美味しかった。
そろそろデザートが来る頃という時、お父様が口を開いた。
「サブレももう15歳だ。将来のことを考えたりもするだろう。」
やけに深刻そうな口調だ。
「……そこで、だ。 お前の将来の為にも、フィニッシングスクールに通ってみないか?」
え?
「この屋敷では学べないことも勉強できる。ここから通うのにもそう遠くない」
「絶対いやよ!」
間髪入れずに、私は叫んだ。
いやに決まっている。学校なんかに入れられたら、シナモン先生との勉強ができなくなってしまう。それに何より、私は狭い学校の型にはめられながら『立派なレディ』を目指すなんてまっぴらごめんだわ。私は、自由に旅がしたいのに!
お父様が笑った。
「なに、そう心配しなくても」
「不安だから嫌だと言っているわけではなくってよ!」
再び、お父様の発言を遮る。
「私は、立派なレディになんて最初からなりたくなかったのよ!
私は昔から今までずっと、自由に世界を旅してみたかった!」
何年ぶりかしら。お父様に自分の意見を言うのは。自分の夢について、口に出すのは。
お父様の顔が赤くなるのが見えた。
「サブレ、お前は何子供みたいなことを言ってるんだ!」
その言葉に、私の怒りが頂点に達した。
「子供みたいですって⁉ 何も知らない癖に、そんな偉そうなこと言わないで!」
今まで出したことのないような大声が出た。
「もういい! お父様の分からず屋!」
ぴしゃりと言い捨てた。
私の怒りはおさまらなかった。もはや、冷静に考える余裕なんて残っていなく、私は乱暴に立ち上がると階段を駆け上った。自分の部屋に入り、鍵を閉める。
階段を登る前、シナモン先生がのんきに
「バースデーケーキがまだなのに」
と、つぶやく声が聞こえた。でも、私は無視した。
今日は最悪の誕生日だわ!




