1-4 ドレス選びは大変です
それから、5年の月日がたった。
今日は私の15歳の誕生日!
御屋敷の大きなダイニングルームは色とりどりのリボンや風船で装飾さてれいる。お祝いの準備はバッチリと言った感じだ。
私は、自室でドレスの試着をしていた。
メイドが色々なドレスを順番に持ってくる。
まず、黄色い素地に赤い宝石がちりばめられているAラインのドレス。次に、水色のミニスカートのドレス。更にやってきた緑色のドレスにはフリルが施されている。
まだまだドレスは出てくる。赤、青、紫、白。こ、これは、土留色……?
と、何やかんやしているうちにドレスは山のように積み重なっていき、私は埋もれてしまった。
「お嬢様、どれになさいますか?」
「早く決めてください」
「決めて下さらないとパーティが始められません!」
たくさんのメイドが一斉に口を開く。
ええっと、ちょっと、まって……
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「お嬢様、ちょっといいですか……」
ドアの外から聞こえる声。シナモン先生のものだわ。
私の頭にあるものが閃いた。
「そうだわ! シナモン先生にドレスを決めてもらう!」
「はい?」
メイド達は顔を見合わせている。
「先生が、一番似合ってると思ったドレスをパーティで着る! そうするわ」
「は、はい……わかりました」
私の熱意に押されたのか、メイド達は渋々頷いた。
「そうとなれば、まずはお召になってください」
年配のメイドに言われるまま、私は目に付いたドレスを手に取った。
まず、黄色いドレスに身を包む。
目の前にはメイドの用意した椅子に(半ば強引に)座らされたシナモン先生がいる。
先生に見せつけるようにくるりと一回転すると、ドレスのスカートがふわりと揺れた。
「これは、露出が多すぎるのではないですか?」
怪訝そうな顔でコメントする先生。
よし、次!
私が顎をくいっとすると、メイド達がドレスを手渡してきた。
シナモン先生は部屋を追い出される。
今度はこの赤いドレスを着てみるわよ!
「この色はお嬢様には早いですよ! 色っぽすぎます!」
私の姿を見るなり、シナモン先生の顔が赤くなった。
次!
じゃあ、この紫はどうかしら!
「奇抜すぎませんか……?」
と、シナモン先生。
次!
「派手すぎですね」
次!
「サイズがあってないのではないですか?」
次!
「可愛いけど、子供っぽい気が……」
次!
次!次!次!……
数10分後。
メイド達、私、シナモン先生はみんなげっそりしていた。
「これで……30着目ですよ」
メイドが汗を拭いながら言った。
「す、すいません」
シナモン先生が苦笑いを浮かべた。
「お父様のセンスが無いのよ」
私は頬をプクーっとして見せる。
「そろそろ、終わりにしたいところですね」
メイドが1着のドレスを手に取った。
シナモン先生は、10回目頃から部屋から出るのが面倒になり、その場で私に背を向けるようになった。
今回も同じように背を向ける先生。
……そして、再び振り向いた先生は、私にニコリと笑いかけた。
「とても、似合っています。最高です!」
声高らかに私を褒め称える先生。
なんだか照れくさい。
自分の体を鏡で見る。
可愛らしい薄ピンクのドレスが目に映った。レースの施された袖口や裾、ふんわりとした肩、プリンセスラインのスカート、胸元にある大きなリボン。シルクの素地がとても肌触りがいい。
「これにする! これに決めた! とっても可愛い、先生に見てもらって正解だったわ!」
ぴょんぴょん跳ねる私を、先生が椅子に座らせた。
「お嬢様、後ろを向いてください」
「はい?」
後ろを向くと、突如私の頭を柔らかい物が触れた。ブラシだ。
「お嬢様の髪は綺麗ですね」
シナモン先生の声がする。先生に髪をといて貰ってるのね。
私は胸がドキドキした。思わず、口角が上がる。
先生は優しい手つきで、私の髪をハーフアップにした。髪をまとめた、ドレスと同じ色のリボンがとっても可愛らしい。
「では、パーティへと参りましょうか。」
シナモン先生は笑顔で私に手を差し出す。
私の心臓はさらに跳ね上がった。
ああ、幸せ……。
私たちはパーティ会場へと続く階段を降りるのだった。