4-8 霧の中の道
~ショコラside~
翌日から一行は街道沿いのルートを進むことにした。そして、できるだけ宿をとるようにした。
しかし、ヴァルターティーヌは国土の9割が森に囲まれた国。ファリスティナよりはるかに田舎だ。街道も木々に覆われているし、宿や村もあまりない。
ボク達は見通しの悪い森の中を探り探り進むしか無かった。
サブレは目の前の珍しい動物や赤、青、緑と色とりどりの植物に目をキラキラさせている。
彼女の顔に余裕があるのが、まだ救いだった。
数日歩いた頃。
ボクたちがテントから顔を出すと、雨が降っていた。
雨と言っても小雨程度の雨だ。周囲にやや霧が立ち込めてはいるものの、まだ進めなくはない。
ボク達には2つの選択肢が与えられた。
テントの中で雨が止むのを待つか。霧雨の中先へ進むか。
ボクたちは後者を選んだ。
確かにテントの中で待つのは安全だ。雨に濡れる心配もないし、霧の中に突っ込まなくて済む。
だけど、いつ攻撃されるか分からない現在。こんな所でとどまっている場合じゃなかった。ボクたちは一刻も早く王都に着かなければならない。
サブレの事はシナモンとボクで守る。どちらにしろ危険だっていうなら、早く目的地に着ける方を選んだ。
霧の中をボク達はどんどん進む。
はぐれないように、ボクはサブレの手を取った。
どんどん霧は深くなっていく。
「よく前が見えないわ」
サブレが初めて不安を口にする。ボクは、心の中が嫌にぞわぞわするのを悟られたくなくて、サブレの手をさらに強く握った。
霧は、晴れることなく、どんどん、どんどん深くなっていく……。
やがて霧は完全にボク達を包み込んで、視界を塞いでしまった。
前に進み続けるのは危険か?とも思うが、この霧では今更出発地点に戻るのも難しい。
ここら辺は地面が木の根っこや植物のせいででこぼこしてるから、テントも立てようが無い。
……今だからこそ思うが、朝、あの選択をしたのは失敗だったのかもしれない。
進みようが無くなり、ボク達は途方に暮れてしまった。
「こうしていても仕方ありませんね」
シナモンが言う。
とりあえず、ボク達は腹ごしらえをすることにした。
普段の食卓と違ってどんよりした雰囲気だ。
ボクとサブレは木の根っこに座ってドライフルーツを食べる。湿度が高いせいか、ベタついていた。
シナモンは干し肉を軽くつまむと、すぐ立ち上がった。
シナモンが軽く呪文を唱えると、手から小さな風が巻き起こる。
悔しいけど、シナモンも魔法の腕は確かなんだよな。
「私は道を確保してきます。お2人はここでじっとしていてください」
それだけ言うとシナモンは歩きはじめた。
「待って」
サブレがそう言いかけたが、シナモンの手から出る風を見て、黙ってしまった。
サブレには霧を払う方法がない。
……それはボクも同じだ。
なら、ボクには何が出来る? サブレを守ること? でも、どうやって?
ボクはそんなことを思いながらシナモンの後ろ姿を見ていた。
シナモンが霧を払っているので、彼の背中がだんだん小さくなっていくのがよく見える。
シナモンは迷うことなく真っ直ぐ進んでいた。
ちらりと横を見ると、サブレがうっとりしているような、でもどこか寂しそうな目でシナモンを見ていた。
ボクが、テントに留まる選択をしていれば……胸がチクチクする。
しかし、シナモンの後ろ姿がすっかり見えなくなったところで、いきなりボク達の視線は再び霧に覆われてしまった。
「なに!?」
「先生!」
ボクとサブレは同時に叫び、立ち上がった。
確かにシナモンは霧を払っていたはずなのに、何故また霧が? しかも突然?
ボクの頭は疑問でいっぱいなった。それはサブレも同じなのか目を白黒させている。
こんな霧の現れ方、自然現象として有り得るのか?
もし、有り得ないとすれば……。
ボクは腰からサーベルを引き抜いた。
サブレもつられるように、杖を構えた。
「おい! 誰かいるのか?」
そう声をかけると、霧の中から人が現れた。1人だけでない。
2人、5人、10人……。
沢山の、仮面をつけて、こちらに弓を構えている、人、人、人……。
ボク達は囲まれていた、得体もしれない奴らに。
全て、仕組まれていたんだ!




