4-5 魔法禁止令
~サブレside~
私はふと我に返った。
「あ、あれ?」
周囲は数時間前と何の変わりもない長閑な風景。私の魔法は成功したのかしら……?
目の前に額から大粒の汗を流しながら、肩で息をしているシナモン先生が立っていた。
先生はまだゼーハー言いながらも思いっきり拍手をする。
「素晴らしいです、お嬢様!
お嬢様には、風の魔法の才能があるんですね」
魔法は成功のようだ。
やった。私にもできることがあったんだわ!
私は大きな達成感を感じながらも安堵して、大きく息を吐いた。
視界の端に、拍手をしながらこちらに走ってくるショコラちゃんの姿が見えた。
「サブレおめでとう! やっぱりすごいや!」
その場でぴょんぴょん飛び跳ねるショコラちゃん。私もつられるようにしてはしゃぐ。
ショコラちゃんが今夜はお祝いだ〜、だとか、魔法の成功をまるで自分のことのように喜んでいた。
「ですがお嬢様」
そんなお祝いムードを、シナモン先生の一声が遮った。
「あなたの魔法は実に強力。それも危険な域です」
シナモン先生は額の汗をハンカチで拭いながらも淡々と続ける。
「今回は私の魔封じの術で効果を抑えましたが、毎回そういう訳には行きません」
そうか、唐突に魔法の効果が切れて、私が我に帰ったのは、先生が魔法を封じ込めたからなのね。
シナモン先生が真面目なあまりにも表情をしていて、私は不安になる。
「魔法の力がコントロールできるようになるまで……魔法は使っては行けません」
ええっ!?
「おい!」
ショコラちゃんが先生のことを睨みつけた。
「ショコラさんも見たでしょう。あの魔法を。お嬢様の実力は素晴らしいものですが、そのせいで不必要に他者を傷つけられては困ります」
「……。」
ショコラちゃんは黙ってしまった。
私も、何も言い返せない。
威力が大きいだけではないわ。私は魔法に集中しすぎて、周囲の様子が全く分からなかったのだもの。
シナモン先生が私の目を見た。
「とにかく。本当に必要な時以外、魔法を使っては行けません」
先生の確かめるような言葉に、私は頷くしか無かった。
ショコラちゃんの落胆するような声が耳に届いた。
■■■
翌朝、私たちは停留所を後にし、ヴァルタティーヌ王国に踏み入った。
ヴァルタティーヌ王国は国土のほとんどが森。街に着くまでまだ距離がある。
「しばらくは野宿ですね」
シナモン先生がそう言った。
目指すは、ヴァルタティーヌ王国、王都よ!




