4-3 私の才能
~サブレside~
待てども、杖を振り回しても、呪文を唱えなおしても、炎の魔法は発動しなかった。
「今度は、水の魔法を試してみましょうか」
シナモン先生が、苦笑いを浮かべながら言った。
そ、そうよね。諦めるのは、早いわよね。
数分後。
私は落胆していた。
どれだけ踏ん張っても水を呼び出すことはできなかった。花を咲かせる魔法を試してみたけど、何をやっても地面はびくともしない。
私、才能ないんだわ……。
ふと、御屋敷で剣を振ってみたとき、一晩経っても上達しなかったことを思い出した。
私は、剣術も、魔法も使えない。弓や拳で戦えるほどの力もない。
私とシナモン先生と、新しい仲間のショコラちゃん。この3人の旅。
以前みたいに誘拐されることはないとしても、旅には危険がつきものだ。これから、戦わなければならない時がきっと来る。
そんな時、私は……私の存在はきっとお荷物だ。私は守られていることしかできない。
シナモン先生は家庭教師だから付き合ってくれているけど、こんな私のお守りなんて好き好んではしないだろう。
ショコラちゃんだって、彼女自身の旅があったはず。それを、強引に私の旅に誘いこんだ。なのに、私はショコラちゃんの負担にしかならない。
私は……。
「お嬢様、そう落ち込まないでください」
シナモン先生の優しい声が聞こえてきた。
「自信をなくすと、ますます魔法が使えなくなりますよ。
普通、人が上手に扱える魔法は1属性。多くても2属性だけなんですよ。
まだ、風が残っています」
私は先生の言葉通り、魔法を使ってみることにした。
風ーー。
私の髪をなびかせる、穏やかなそよ風。鮮やかに、大地を走り抜けるつむじ風。爽やかで、優しく、時に恐ろしい、あの風ーー。
その時、私はお腹の底のあたりからビリビリとした、まるで電流が走るかの様な感覚がした。
そのビリビリは、私のお腹から、腕へ。さらにその先、手や、爪先へと伝わっていく。ビリビリが何度も何度も私の体を駆け巡る。
私は気づいた。そのビリビリは私の体から、私の持っている杖へと流れているのだと。
体が熱くなる。何故か息が荒くなる。
不思議な感じ。初めての感覚。
その時、私の頭の中に謎の言葉が浮かんできた。
これまで聞いたことがある訳では無い。なのに、何故か懐かしくなる、聞いていると心が軽やかになりそうな不思議な言葉。
頭の中で1文字1文字、確かに形成されて行く。
そして、それを唱えるべきだ、唱えたいと思った。
私は口を開いた。
「吹き荒れろ! 風よ! 桜の木が靡くほど激しく、稲畑が揺らぐほど鮮やかに!
テンペスト!!!」
私は無意識に、カッと目を開いた。
杖を見る。
すると、凄まじい勢いの風が、杖の先のピンク色の宝石から空へと伸びていくのが見えた。
そこから先のことはよく覚えていない。




