3-14 新たな旅路へ(その2)
~ショコラside~
ボクはジャーキーと大男の身柄を国に差し出した。
あ、そうそう。嘘つきのジャーキーだったけど、国の依頼ってのは本当だったんだ。ボクの財産が欲しかったのか知らないけど、自分が指名手配されてる事件を紹介するなんて。やっぱり悪党ば馬鹿だな。
国の依頼では身元が捕まえられれば、生きてても死んでても問題ない、との事だったので大男の死体も問題にはならなかった。
役所ではずいぶんぞんざいな態度をとられたが、気にしない。慣れっこだし、どんな態度であれ、お金を出してくれることに違いはないんだし。
役所の事より、ボクの頭には未来のことが浮かんでいた。
ジャーキーに盗まれていた物も取り戻し、国から多額のお金を貰ったんだ。
つまり……
やったぞ! これでボクも、自由の身だ~っ!
ボクも、ようやくこの街から解放される!
旅に出るんだ。昔読んだ本みたいに。
ボクは持ち物から、要らないものを売り払い、今後使えそうなものは魔法の袋に忍ばせた。ついでに銀行の口座もつくった。これで、この魔法界どこからでも金が引き出せるってわけだ。
ボクは街を出るために、王都の門までやってきた。
街を出る前に、サブレ達に挨拶をしようかとも思ったが、やめた。サブレが事件にあったのはボクの責任でもある。合わせる顔がない。
もう二度と会うことはないんだろうな……。
少し寂しい、と思ってしまったのを押し殺して、ボクは門へと向かった。外の世界へとつながっている門へ。
門の前は街から出ていく人と街に入ろうとする人で、人だかりができていた。
門の前の人だかりに紛れたボクは、視線の端に見覚えのある人影を見た。
あれは……。いや、見なかったふりをしよう。
無視していこうと思ったのに、ボクの自責の念など、向こうは気にしてくれないらしい。
「ショコラちゃ~ん!」
弾んだ声が、向こう側から聞こえてきた。
やっぱり、サブレは強引だな。
サブレは人ごみをかき分けてこちらに迫ってくる。
「こんな所でまた会うなんて奇遇ね! どこかに行くの?」
鳥の音のような軽やかな声が、耳に心地いい。
「ま、まあね。ボク、旅に出るんだ」
なのに、なんだか顔を見るのもはばかられて、ボクは目をそらした。
「貴方も旅に出るんですか」
そう口をのは、サブレの後ろについて立っていたシナモンだ。
ボクの上機嫌は薄らいだ。
どうにも、この男は好きになれない。人を殺す瞬間を見てしまったからか……いや、それを抜きにしても、なんとなくムカつくんだよな。
サブレが手をぱちんとたたいた。
「そうだわ! ショコラちゃんも私たちと一緒に行きましょう!」
「え?」「はい?」
サブレの言っている事が理解できずに、ボクとシナモンは素っ頓狂な声を出した。……不覚にも同時に。
「一人で旅をするのは危険でしょう? それに、人数は多いほうが楽しいし! ね、いいでしょう!」
サブレは目をキラキラさせながら言った。
顔を見合わせることしかできない、ボクとシナモン。
「ま、まあ、旅は道連れとも言いますしね……いいでしょう」
シナモンが言った。爽やかな笑顔を浮かべているつもりみたいだけど、苦笑いになってるぞ……。
「やったぁ! じゃあ、これからよろしくね、ショコラちゃん!」
サブレがこちらに歩み寄ってきた。そして、ボクの手をぎゅっと握った。
サブレの顔が目の前にある。かなり近い。
サブレは強引だな。
ボクは赤面した。




