1-2 新しい家庭教師
「お嬢様、お稽古の時間ですよ」
部屋の外からそんな声が聞こえた。
げげっ!
私は背筋が凍るのを感じた。
数年前、お父様が家庭教師を雇った。今は週2のペースで御屋敷にやって来て私に勉強を教えてる。
私はその家庭教師が嫌いだ。
だってとても怖いんだもの。
薄紫のひっつめ髪に、シワの寄った顔、鳶色の瞳。なんだか悪い魔女みたいな見た目。
しかも、ちょっとでも私が話を聞いてなかったりすると金切り声をあげて、鉄の定規を床に打ち付けるの。
まるで、「次やったらこれで殴るわよ」って脅してるみたい!
しかもお稽古の内容は、お裁縫、そろばん、テーブルマナー……などなど、退屈なものばかり!
せめて魔法くらい教えてくれたらいいのに……。
「お嬢様!」
メイドが部屋に入ってきた!
「お稽古の時間です!」
メイドは私のワンピースの裾をがっしり掴んだ。
「逃げようとしたって無駄ですからね!」
「いやあああああああ~……」
メイドに半ば引きずられるように、私はお稽古の部屋まで連れていかれた。
■
お稽古の部屋に入ると、そこにはいつものこわ~い家庭教師はいなかった。その代わり、見慣れない1人の男性が立っていた。
「お嬢様、紹介いたします」
メイドが言う。
メイドが促すと、その男性は口を開いた。
「私、本日よりお嬢様の新しい家庭教師となりました。シナモンと申します」
シナモン、と名乗るその男性は深々とお辞儀をした。
窓から差し込む光が反射して彼の白銀の髪がキラキラと輝く。手には黒いグローブを付けていて、なんだかかっこいい。
まるで海の様に青い彼の瞳がまっすぐ私を見つめてきた。
後で聞いた話によると、前の家庭教師の先生は腰を痛めて御屋敷まで来れなくなったとか。
「これから、よろしくお願いします」
彼の切れ長の目と薄い唇が、ニコリと笑顔を作った。
なんて、綺麗なお顔……。それにとっても優しそう。
「こちらこそ、よろしくお願いしますわ」
私も思わず笑顔で返した。