3-4 私から見た世界
~サブレside~
私は生まれてからずっと、御屋敷の中で生活していた。
でも、今はそんな私じゃないわ!
だって今、御屋敷からずっと離れた、王都に来てるのよ!
辺りには人間、エルフ、ドワーフ、悪魔やよく分からない見た目の魔族などが沢山歩いている。周りをキョロキョロ見渡していると人にぶつかりそうになる。
「危ないですよ」
シナモン先生が私の手を握ってくれた。
広々とした道の両脇に石レンガで出来た背の高い建物がそびえ立っている。街の中心に近づくと、そこに色とりどりの屋台が増え、様々な料理の美味しそうな匂いを漂わせている。
私たちはまず、旅に必要なものを買い揃えることにした。
袋、頑丈なロープ、追加の非常食等々。
さらに、可愛らしい襟のついた、空色のケープを買ってもらった。胸元に黄色いリボンがついている。そのまま着て行くことにしよう。
この街では、どれも初めて見るものばかりで私の胸は踊った。
そして、シナモン先生は青い屋根の屋台で、立ち止まった。
「先生?」
先生の方を見る。先生は真面目な表情で屋台の商品を見つめている。それは武器屋の屋台だった。
刃のキラキラしたロングソード、私の身長より大きなバトルアックス……。どれも近接攻撃向けの金属武器だ。
「……これをください」
その中で先生が選んだのは小さなナイフだった。
魔獣の皮でできたケースにしまわれている。
ケースから出すと、小ぶりの刃が陽の光に反射神し、きらりと輝いた。
本当に小さなナイフだわ。
シナモン先生が私の前でしゃがみこみ、こちらに視線を合わせた。
「これは、お嬢様が持っていてください。護身用です」
いつもの、優しくてまっすぐな目がこちらを見つめていた。
「はい」
あまりに丁寧な手つきでナイフを渡されたので、私は言われるままに腰のベルトにナイフをぶら下げた。
「あ、腰じゃなくて、どこか見えにくいところに入れて置いてください」
「え?」
見えにくいところ?自分の体をまさぐってみる。
あ、ケープの裏側に小さな内ポケットがあった。
その様子を見て、
「よし、これで大丈夫ですね」
シナモン先生はにっこり笑った。
その後、腹ごしらえとしてミニドラゴンの尻尾の串焼きを買って、私たちは歩いた。
ミニとはいえ、ドラゴンはドラゴン。大きなお肉が串に突き刺さっている。そこに甘辛いタレがかかっていた。とっても良い匂い!。
串にかじりつくと、独特の旨みとクニクニとした食感がした。豚や牛とは違う、ちょっと豪快な味。こんなに濃厚なタレも今まで食べたことない。御屋敷の食卓に並ぶのは大抵ワインソースだったから。
「きっとこれが旅の中での出会いってやつね! ワクワクするわ!」
そう言うと、シナモン先生はまた微笑んだ。
数十分後。
街を歩いていると川のほとりに辿り着いた。
「しまった、こっちの道は……」
シナモン先生が小さな声で呟くのが聞こえた。
「? どうかしたの?」
「あっ……」
シナモン先生が苦笑いを浮かべた。聞こえないように言ったつもりみたい。でも私は地獄耳なのよ。
「なんでもありませんよ……あの、こっちの道を行きましょうか」
シナモン先生は私の手をしっかり握り、川とは逆方向に歩き出す。
そちらに着いていこうと思ったその時、私は気づいた。
川で1人の女の子が流されている。
薄汚れたケープを着た女の子が、川に浮かんでいる。
「先生、待って。……助けなきゃ」
先生はまず、私の顔を見て、次に川の方を見た。
先生も女の子の状態に気づいたようだ。
「はい」
先生が川に向き直った。
「助けましょう」
その時の先生の表情は、まさに正義のヒーローだった。




