1-1 退屈な毎日
あーあ。御屋敷の生活ってなんでこんなにつまんないのかしら。
私はアフタヌーンティーを飲みながら、溜息をついた。
私の名前はサブレ。フルネームはサブレ・キャメル・グレーパイン。
この国――、『世界の中心を示す国、ファリスティナ王国』の男爵の娘。
私が住む、グレーパイン邸には色々なものがある。
使用人が50人、ドレスが100着、アクセサリ150個、ティーセットが200……。
でも、私が1番欲しいものは無い。
それは、自由。
私はこの広いようで狭いグレーパイン邸の中に閉じ込められている。
1人で外も出れやしない。いつも使用人を1人つけるように言われるの。しかも、使用人ったらちょっと大通りから外れることすら許してくれない。
「危ないですよ」
「お嬢様には早いですよ」
「外には危険がいっぱいなんですから……」
口を揃えてこんなことを言っているけど、私はもう10歳なので子供騙しは効かないわ。
森の中にも入れない。お父様は狩猟が趣味なのに私にはやらせてくれないの。武器も見せてくれない!
あと魔物も見た事ないし、戦闘訓練もさせてくれないし、旅の許しだって……
そう!私は旅に出たいの。
旅に出て、世界中を見て回りたい!この目で。
そう思い始めたのは3年前、御屋敷の書物庫で読んだ本がきっかけ。
本に書いてあった、極彩色の旅路。それはフィクションなんかじゃなくて、この世界に存在するものなの。
私は、いつかこの広い世界を見ることを夢見てる。この目で。
でもそう簡単にはいかない。
もうずっと前から大きくなったら旅に出るんだ、将来は冒険者になるんだって、宣言してるのに、誰一人としてまともに相手にしてくれる人はいなかったわ。
みんな
「お嬢様は面白いことを言いますね」
「旅に出るなんてできるわけないでしょ」
「まだ子供ですから」
……って鼻で笑うの!
お父様に至っては
「そんな馬鹿げたこと冗談でも言わないでくれ!」
って泣き出したのよ!
誰1人、私が本気で旅に出たいと思ってることを知らない。誰1人、私の夢を応援してなどくれない。
ただ、毎日「素敵なレディになるのよ」なんて言われながらお稽古ばかりしている。
ああ、なんて退屈な毎日……。
私はライトピンクの長い髪を、くるくると指にからませながら、溜息を着いた。