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私の箱入り紀行録  作者: raira421
第3章 初めての事件!?
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3-2 最後のお仕事

~ショコラside~




 ボクは樽の中に入っていた。


 ふざけてる訳じゃないよ! 立派な潜入だ。


 ここは「橋」を渡ったところにある裏路地。

 「橋」ってのは、ボクが生活してる、あの川にかかった橋のことさ。「橋」以外に言いようがないんだよね。

 だって、この橋には名前が無いから。この街の他の橋や川にはあるんだけどね。

 ついでに橋の周りには人通りもない。ボクがいる裏路地は背の高い建物に囲まれているけど、ほとんどが廃墟や空き家。

 つまり、どれだけ大暴れしても問題なし! ……ばれないから。

 だから、悪党共はここをよく通るし、ここでよく悪さをする。

 日常的に悪事を働くやつらって学がないからか、行動がワンパターンするんだよね。

 とまあ、何が言いたいのかというとここは最高の餌場なのさ。


 さて。


 ジャーキーから貰ったボスの顔写真を見る。

毛一本生えてないスキンヘッド、眉間に寄った皺、筋肉隆々の体。いかにも悪者って感じの大男だ。 

 この男も絶対この道を通る。

 ボクは樽の小穴から外を見た。誰もいない。

 ここではこれが普通。そして、これが平和。だけど、今平和が続かれるのは、ちっと困る。

 長時間樽に入っていると、体の節々がちょっと痛くなってくる。樽の中は酒臭いしで、あまりいいものじゃない。

 

 早くボスが来てくれないかな~。

 

 と、まぶたが重くなってくるくらい長~く待ちぼうけしていると……

 どか、どかと乱暴な足音が聞こえてきた。


 ……来た!


 ボクは小穴から外をじっと見た。

 スキンヘッドで人相悪い大きな親父が歩いている。


 こいつだ!


 ボクはスキンヘッドが樽の前を通り過ぎようとするタイミングで、勢い良く樽から飛び出した!


「な、なんだてめえ⁉」

 大男は獣の鳴き声のような低い声で怒鳴った。

 ボクは戦闘になっても大丈夫なように身構える。


 しかし、男はボクに攻撃することもなく一目散に逃げだした!

「待て!」

 とりあえず追いかける。

 その大男は図体に似合わず、かなり速く走っている。ボクらの距離がどんどん広がっていく。

 まずい、このままじゃ見逃しちまう……。


 こういう時は。

 ボクは懐からフック付きロープを取り出した。これは、仕事をする上での必需品だ。


 2、3回手元でクルクルとロープを回し、そのまま上空に向かって放り投げた。投げ縄の要領だ。


 シュッと軽い音を鳴らし、舞い上がるロープ。先端のフックが、建物の壁の突起に引っかかった。

 足に力を込めてジャンプする。ふわり、と体が舞い上がった。


 ボクの靴には小さな翼が付いている。流石に飛ぶことはできないが、高くジャンプできるようになるという魔法の靴だ。さらに、数秒なら上空でキープできるという優れ物。

 ボクはロープと靴を頼りに、建物の壁を走った。上へと走る、走る。

 

 気分は無重力だぜ!

 

 体の位置が高くなったことにより、大男がどこにいるかよく見える様になった。大男は橋の上に差し掛かっていた。

 ボクはもう一本ロープを取り出した。

 そいつを、川を挟んで向こう岸の建物にぶん投げる。よし、こっちもフックが引っ掛かった。ボクのエイム力ってば最高♪

 ボクは右手に1本目のロープ、左手に新しいロープをがっしり掴むと、大きく跳び上がった。

 走るより、ロープに引っ張られた方が移動が早いからね。

 ボクは、2本のロープで宙吊りのようになった。かなり高い。

 横目で下を見る。ボクの体の真下には川。大男は橋の上。


 よし、あいつの目の前に着地してやろう。

 

 右手をロープから離す。

 その時だった。 


 ……プツン


「!?」


 待ってましたと言わんばかりに、ボクが左手に握っていた方のロープがちょん切れた。


 体の支えがなくなったボクは、重力に逆らえず、真下へと落ちていく。

 さっき言った通り、下は川なので、地面に叩きつけられて即死なんてことは免れるだろう。でも…… 


 バシャッ!


 けたたましい水音にボクの思考はかき消される。一瞬にして僕の体が水に包まれた。

 

 まいったよ、ボクは泳げない。


 鼻から大量の水が入ってきた。苦しい。思わず開けた口から更に水が入ってくる。目の前に大きな水泡が浮かぶ。

 

 これ、やばいかも……。

 

 そう思っていると、脳裏に、遠い昔のことが浮かんできた。 

 これが走馬灯ってやつ?

 記憶の映像がクルクル回っている。

 

 ……お母さんのこと、貧困層での暮らし、賞金稼ぎ(バウンティハンター)としての仕事、そして、初めて外の世界にあこがれた時のこと。


 あー、くそ。最悪な人生の最悪な終わり。夢もかなわず、こんな所で死ぬなんて。


 まあ……しょうが、ない……か、な。


 ボクは目を閉じ、藻掻くのをやめた。


 


 



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