3-1 ボクから見た世界
~ショコラside~
ボクは生まれてからずっと、この川のほとりで生活している。
川と言っても用水路だ。川の岸は石レンガで覆われていて、各家の水道に繋がっているであろう穴から水が吹き出している。
この石レンガで型取られた街は、賑やかだが……どこか寂しい。
この「橋の下」は特に、ね。
なぜかって?
ここは、この国の貧困層が生活しているところだからさ。
ここを歩いていると、薄汚れた服に身を包んだ人々の視線が突き刺さる。
みんな、泥で汚れたシャツや切り裂けてボロボロなマント、異臭を放つパンツなどなど……なかなかひどい服装をしている。ここに居るのは、まともな服を買う金すらない奴なのさ。
家も持ってない人も多いので、ここは夜になると寝ている人で埋まる。雨風をしのぐのに最適だからね。何も知らない人は、死体の山と勘違いして驚くかも。
まあ、その心配もないに等しい。だって、一定水準以上に裕福な生活をしてる奴らはここに近づきすらしないからね。
みんな臭い物に蓋をして、なんにも知らないかのような顔してる。
そんな人々を眺めるたびボクはつぶやくのだ。
「……幸せ者め」
と。
ボクは橋の下の外れにある自分の家に帰った。
家といってもただの掘っ立て小屋だけどね。ドアを閉めていても外からの風を感じるようなボロ屋。川のほとりにひっそりと建っている。
ボクみたいな14歳の女の子が一人暮らしするにはちっと危ないかなぁ。でも、ボクの場合は問題ない。自分の身くらい、自分で守れるし。
ボクは土がむき出しの床にある蓋をゆっくりと開けた。
ここが、僕の家の中で一番安全な場所。人が入るほどの大きさがないことが悔やまれる。
まあ、いい。
この蓋の下は身を守るためにあるのではない。
蓋の中を覗き込むと、金貨に宝石、使い方がよくわからない魔法道具や紋章の刻まれた武器などが見えた。どれもキラキラ輝いている。
ボクが手にしたお宝やお金をしまうためにあるのだ。
ボクには(他の人には隠しているけど)この貧困層には似合わない財産がある。
数年前から稼いできたのだ。賞金稼として。
賞金稼とは、指名手配されている悪人共をひっ捕らえる専門職だ。街の大きな掲示板やギルドって施設のボードを見ると、指名手配の紙がたくさん張ってある。そいつらを捕まえて、国に献上。国側は悪人が消えて満足。こっちにはお金が入ってくる。そんなwinwinな関係性が築かれているのさ。
この報酬ってのが結構良い値してるんだよなぁ。
で、ボクはそのお金で買った品々やもらった物をここに隠してるってわけ。
わざわざ隠したりしないで、他の人に分け与えたり、裕福な暮らしをしたらいいじゃないか、と思う人もいるかもしれない。
でも、そんなの御免だね。
ボクは人に手を差し伸べるほど優しくない。だからってあんな「幸せ者」の奴らと同じ世界で暮らすなんて尚更嫌だ。
ボクが財産をためるのには理由がある。
それは、この国を出ていくためだ。この財産を使って外の世界を旅するんだ。それがボクの夢。
そんな夢を持ったきっかけというのが……
と、そんなことを考えている時、家の戸をノックする音が聞こえた。
慌てて、蓋を閉じ、鍵を閉める。
「おい、ショコラぁ」
ショコラ。ボクの名前だ。
しゃがれた声が繰り返し、ボクの名を呼んでいる。
「はいよ」
戸を開くとそこにはガリガリにやせ細った男が立っていた。
こいつはジャーキー。ここでは珍しいお人好し。
「なんだよ、急にやってきて」
と聞くと、ジャーキーは何本か抜けてしまっている歯を見せ、にこりと笑った。
「いい知らせだよ、仕事を持ってきたんだ。まだどこのボードにも張り出されてない、とっておきだぞ」
こいつってば、王宮騎士の奴らに知り合いを作ったらしい。王宮騎士ってのは所謂ケーサツってやつだ。
で、肝心な仕事内容っていうのは…
・最近、街中で盗みを働いている輩がたくさんいる
・そいつらは1つの組織として動いていると分かった
・そこのボスを捕まえて、組織を壊滅させたい
……とのことだ。
「報酬も弾むぜ、アンタなら受けるだろ」
ボクは丁度仕事を探していた所だった。お金になるものも溜まってきたし、次の仕事を最後に街を出たくてね。
その、最後のお仕事を待っていたんだ。
「当たり前だ」
そう言うと、ジャーキーはさらに広角を上げた。




