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私の箱入り紀行録  作者: raira421
第2章 峠を越えて
14/39

2-4 乗馬


 しばらく歩いていると丘の向こうに村が見えてきた。


 村の周りには稲畑が広がっていた。村の中の道を羊を引き連れたおじさんが歩いていて、大きなパン屋さんの煙突から煙がもくもく。のどかでいい所ね。

 

 私たちは村のはずれにある馬小屋へとやってきた。

 木でできた戸を開けると、藁や動物の臭いが濃く混ざり合った濃厚な風が鼻をかすめた。ちらりと横を見ると、白や茶色の毛並みをした馬たちが草を食べている。

「グレーパイン家のものですが」

 シナモン先生が小屋の奥で作業をしていた人に声を掛けた。

 ここには、お父様が狩猟に使っていた馬を2匹、引き取りに来たの。

「あいよ、ちょっと待っててな」

 職員らしきその人は、にやっと笑みを浮かべると、馬2頭を連れて来た。


 片方は全身が雪原のように真っ白。柔らかな表情を浮かべているように見えた。名はバニラというらしい

 もう片方はお菓子の様な茶色をして、バニラよりも少し筋肉質。名はキャラメルというんだって。

「よろしくね」

 私がぽつりと言うと、2匹はそれを理解しているかのように頭を下げた。


 その後、町の宿に一泊した。


 翌朝。お日様もまだ眠そうな顔しているほど早い時間に私達は出発した。

 (御屋敷程ではないものの)柔らかなベッドと、お気に入りの枕のおかげで、熟睡できた私は、バニラに飛び乗った。キャラメルの方にはシナモン先生がまたがっている。

「さあ、いきましょう」

 と、シナモン先生。

 昨日教わった通りに手綱を掴み、馬を走らせる。

 途端にぐわっと体のバランスが崩れた。

 そんなにスピードは出していないはずなのに、視界が上下左右に激しく揺れる。体の横を突風が突き抜けていくのを感じて、私は肩を縮こまらせた。ぎゅっと目をつむり、うつむく。


 と、その時

「肩の力を抜いて! ちゃんと前を向く!」

 背後からそんな声が聞こえた。

 シナモン先生の声だ。

 私は手綱を強く握りしめた。ゆっくり、顔を前に向ける。

「そう、その調子です」

 深く深呼吸をする。だんだん肩の力がぬけてきた。

「視野を広く持って。景色を楽しんでください」

 言われるままに、周囲の景色に意識を向ける。

 

 私は、はっとした。

 花畑が広がっていた。カラフルな景色がすごいスピードで移り変わっていく。 

 その遠くでは緑の山々が。

「この山の向こうにはどんな景色が待っているのかしら……」

「それを、確かめに行きましょう!」

 ポツリと零した独り言に答えたのはシナモン先生だった。

 とても優しい声。

 私の見ていた景色にシナモン先生が映りこんだ。シナモン先生は大地に生えている花々とは違い、後ろに流れていったりはしない。私の視界のど真ん中を牛耳っている。

 並走しているのだ。キャラメルの茶色い体が目の端に入る。

 シナモン先生はこちらに手を伸ばした。

 私も思わず、そちらに手を伸ばす。

 2人の手が、2頭の馬の間で結ばれた。

 グローブ越しでも伝わる、シナモン先生の温かさ。

 

 初めて、あなたの体温を感じた日を思い出すわ。

 

 

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