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私の箱入り紀行録  作者: raira421
第2章 峠を越えて
13/39

2-3 貴方の寝顔と小さな1歩


 次第に日が暮れ、夜がやってきた。

 私たちは焚き木を囲い、横になった。

 薄い麻の布に身を包む。硬かった。でも、暖かい。

 

 ……。

 

 水面に写った月がゆらゆらと揺らめいている。

 シナモン先生の方を見ると、丸まった背が目に入った。眠っているのかしら。

  

 ……。

 

 ごろん、と仰向けになる。

 夜空に大きな満月が優しく私たちを照らしている。

 夜の風がふぅっと、吹き抜けた。昼間より冷たい風。でも、心地いい風。

 

 ……。

 

 寝れない!

 

 身体はこんなに疲れているのに、眠くない訳じゃないのに、眠れない……。

 私は再びごろん、と寝返りを打った。

 布越しに、少し湿った草の感触がする。固くて冷たい地面に寝転がっているからか、少し身体が痛い。

 野宿が、こんなにも辛いものだなんて、知らなかったわ……。

 私は御屋敷のフカフカなベッドでしか寝たことがないのだ。ここには柔らかいマットレスもフカフカな毛布も、枕もない。

 そう、枕。これが無いのが眠れない1番の原因。

 私、外の世界のこと、甘く見ていたんだわ……。

 ずっと、本の中の旅人に憧れてた。なのに、私ったら、旅どころか自分の家以外でまともに寝ることも出来ない、箱入りのお嬢様じゃない。

 外の世界ののことなんて何も知らない癖に。

 自分が如何に子供だったかを実感し、胸がチクチクした。

 

 私は何かに縋りたくて、再びシナモン先生の方を見た。

 シナモン先生が寝返りを打ち、こちらを向いた。

 まつ毛の長い目は閉じられており、肩が静かに上下している。熟睡している様だわ。寝ている時も彼がグローブを外す様子はない。

 その穏やかな寝顔を見ていると、昼間の記憶が蘇ってきた。

 

『最初は誰でも未熟です。ゆっくり、ゆっくり、強くなっていけばいいんですから』

 

 記憶の中のシナモン先生。白髪が木々からこぼれる陽の光でキラキラと輝いている。こちらを見つめる目は海のようでもあり、宝石のようでもある。

 素敵で格好良くでやっぱり大好きな、先生。

 

 私は意識を目の前に戻した。

 

 気付けば、私の頭の中から悲しい気持ちは消え果てていた。

 その代わり、シナモン先生が私の頭の中を占領している。

 私は胸の当たりがホカホカする感じを味わった。

 確かに子供じみてはいるけど、私はシナモン先生と一緒なら、きっと旅して行ける。

 謎の自信が湧いてきた。

 1歩ずつ。小さくても歩き出すんだ。

 そして、いつかは……

 

 胸に灯った小さな決意が、消えないように、私はシナモン先生をずっと見つめていた。

 

 胸の中の暖かな炎。微睡み……

 

 …………

 

 ……やがて、夜が明けた。

 私は、ぐっすり眠ることは叶わなかったものの、体の疲れを癒すことはできた。

 

 湖を見つめながら体を伸ばす。

「おはようございます、お嬢様。今朝も魚を釣るので待っててくださいね」

 シナモン先生がにっこり笑うのが見えた。

 胸のホカホカが消えてくれない。

 

 太陽が登りきった、明るい草原。

 2人で歩いていく。

 よく眠れなかったせいか、体が重い……。

「あ、そうそう。これを渡すのを忘れていました」

 ふと、シナモン先生が口を開いた。

「お嬢様、これがないと眠れないでしょう?


 彼が懐から取り出したもの。枕だわ!

 私は思わず枕を抱きしめた。

「……昨夜渡せなくてすいません」

 先生が気まずそうに頭を下げた。

 シナモン先生はベルトを手に取ると、私の背中に枕を固定してくれた。

 

 私たちは、再び歩き始めた。

 1歩ずつ。1歩ずつ。

 

(その日は、眠る時枕からシナモン先生の匂いがして幸せだったわ!)

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