2-2 キャンプファイヤーを囲って
平原を歩いていると、だんだん日が暮れてきた。
緑色だった大地が赤く染まっている。
「そろそろ、夜の準備をしましょうか」
シナモン先生は再び脇に逸れた。
そこには大きな湖があった。周囲は雑木林になっているようで、木々に囲まれている。私はその木々に守られているような感覚を覚えた。
シナモン先生は湖のすぐ近くに荷物を置くと私の方を向いた。
「お嬢様は木の枝を何本か拾ってきてください。私は野営の準備をしますので」
「はい」
私は言われるがままに雑木林へと入っていった。
「あまり奥には行かないでくださいね」
そんな声が背中側から聞こえた。
雑木林は次第に森のようになってきった。
とても幻想的な光景だった。
家出した時とは景色の見え方が違う。
木の幹から赤や青のカラフルなキノコが生えている。枯れ草の隙間からはお花が顔を出す。その花は……まるで鬼神の顔のような形をしている。
私は森の中をキョロキョロ見渡しながらも、考えるのをやめなかった。
外と比べて、森の中は暗くなるのが早い。あの時も、真っ暗になった森で迷ってしまった。今も急速に森が暗くなっていく。
私は迷子にならないうちに来た道を戻り始めた。
胸には枝だけではなく、キノコや花も一緒に抱えている。
シナモン先生にどんなものなのか聞かなきゃ!
……なんてことを考えながら。
湖のほとりに戻ると、シナモン先生が小魚を5、6匹ほど釣り上げていたところだった。
私が拾ってきた枝を地面に並べると、
シナモン先生が並べた木の枝に、グローブの着いた手をかざした。何かを呟く。なんて言ってるかはよく聞き取れないけど、さっきとは違う呪文だということはわかった。
やがて、木の枝に火が灯った。キャンプファイヤーの完成だ。
シナモン先生は釣り上げた魚を余った木の枝に突き刺して、炙った。
じゅ~っと、美味しそうな音がする。
魚が焼けている間、シナモン先生は私が持ってきた植物を物色していた。
「このキノコは食べられますね、これも火にかけましょうか」
「この花はオーガソウといって、染料にされたりするんですよ」
「このキノコは毒があります、食べちゃダメですよ。街に着いたら薬の材料としてでも売りつけましょう。」
私は目をぱちくりしながらその話一つ一つを聞いていた。
「そろそろ、焼けますね」
そう言いながら、シナモン先生は懐から塩を取り出す。
「お嬢様、パサンの液が入った瓶があるはずです」
パサンとはこの辺りの地域で採れる柑橘系の果物のこと。とてもすっぱくて、苦いような甘いようなな香りがする。そのまま食べるには向いてない。
その果汁を詰めた瓶を、シナモン先生が用意して、持たせてくれたのだ。
「瓶をください」
言われたままシナモン先生に瓶を渡す。
シナモン先生は瓶の中身を魚にふりかけた。
「召し上がれ」
「いただきます」
ぱくん。
……!
この魚……すっごく美味しい!!
1口食べると、魚の身の味わいと共にパサンの香りが鼻を突き抜ける。塩が良いアクセントになっていて、飽きさせない味だ。
「旅をしていると、こうやって野営をする事も多いでしょう。
ですが、調味料を自然の中で手に入れるのは難しい。だから、こうやって持ち歩くんですよ」
なるほど。
調味料ひとつでも持っているだけで違うのね。
むぐむぐ
食べていると、苦くてどこかクリーミーな味が口の中に広がった。変な味。でも、美味しい。
……といった感じで食べていたら
魚は骨と頭以外きれいさっぱり無くなっていた。
「腸まで食べられたのですね、お嬢様」
シナモン先生は自分の分の魚から、骨を丁寧に取り除きながら言った。
あの苦いのは魚の腸……つまり、内蔵だったのね。
これまで、内蔵を抜いた魚しか食べたことなかったわ……。
旅って初めてのことばかりで楽しいのね!
私は色んなことに驚いては目をキラキラさせてばかりいた。
次第に、夜がやってきた……。




