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私の箱入り紀行録  作者: raira421
第2章 峠を越えて
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2-1 優しくてまっすぐな目


 青い空にもくもくの白い雲。爽やかな風が、頭のてっぺんでまとめた私の髪をなびかせる。目の前に広がる草原はどこまでも続き、終わりが見えない。

 

 なんて、美しい景色! 私が夢見てきたのはこれだったのね!

 

 私は辺りを見渡しながら歩いた。

 あ、あんなところにスライムが寝てる!

 あ、こっちに咲いているのはなんの花かしら?

 

 「お嬢様、あまり余所見ばかりしてると転びますよ」

 シナモン先生の声が後ろから聞こえた。

 

 私たちは、正式に旅に出た。

 お父様が用意してくれた、度にぴったりなブラウスとミニスカート身にまとい、色々な道具を携えて、大自然を歩く。

 最初の目的地は稲畑の中にある小さな町。

 気分は既にいっぱしの旅人よ!

 

 と、私は意気揚々と平原を歩いていたのだけど、数時間ほど(体感だけどね)歩いたところで問題が起こった。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

 シナモン先生が私の顔を覗き込む。

 心配するのも無理はないだろう。だって、私の顔色は真っ青なんだもの。

「だ、大丈夫よ」

 でも私は無理矢理にっこり。 

 

 この前みたいには行かないわ。

 自分一人でもやって行けるってシナモン先生に証明するためにも、こんなところで怯んではいられない!

 

 と意気込んだものの……私の足はズキズキ。

 今朝初めて履いたブーツが、私の足を締め付けているのだ。こんなに底の浅い靴を履いたのは生まれて初めてだわ。

 それに、長く歩き続けることがこんなに疲れるなんて思わなかった。

 一歩踏み出す度に足に刺激が走る。


 私は額に浮かんだ汗を拭った。 

 シナモン先生は、視線を私から平原に移す。

 目の前には頼りない1本の道がひょろひょろと伸びている。広々とした草原には顔のないスライムやフワフワ浮かぶ不思議な生き物など……すなわち魔物たちが悠々自適に暮らしているのが見えた。そして、ちょっと道を外れて歩いていった先に、森がある。

「お嬢様、ちょっと日陰で休憩しましょうか」

 そんなことを言いながら、シナモン先生は脇に逸れていった。

 私は慌てて後を追いかける。走ると尚更足が痛い。

 シナモン先生は森の中に入っていく。私も後に続いた。

 

 すると、綺麗な小川が流れている所に辿り着いた。ちょうど木々が影を作っており、休憩にはもってこいのスポットだわ。

 シナモン先生はしゃがみ込むと小川の水を手ですくって、ごくり。

 私も真似して、ごくり。

 無味の水がやけに美味しく感じられた。

 私は腰のベルトに手を伸ばした。

 ジャラジャラと色々なものがぶら下げてある。

 回復薬や魔力を回復させてくれる不思議な水。魔力を増幅してくれるジュエリー。

 使用時に緊急を要するもの……つまり、素早く使いたいよねって物はこうして腰や懐などに身につけておくといいんだって。

 また、大きな荷物は背負っておくといいらしい。私も背中に担ぐほどの大きな荷物を持つ日が来るのかしら。

 現に、私の背中は空っぽ。シナモン先生はリュックサックやテントを背負っているけど。

 

 私は腰から空き瓶を取り出すと、水を汲んでおいた。

 

「靴を脱いでください」

 突然、シナモン先生が言った。

「え?」

「いいから」

 突然すぎて彼の考えが理解できなかったが、言われた通りにする。

 シナモン先生の呆れた声が飛んできた。

「やっぱり、こんなに赤くなってるじゃないですか」

 

 ギクッ!

 し、シナモン先生、私が足が痛いってこと、見抜いてたの!?

 

 シナモン先生は溜息をつく。

「前にも言ったでしょう? 勇敢と考え無しは違う、と。

 どうして早く言ってくれないのですか?」

 そ、それは……。

 この前、森で迷った事が心に引っかかっていた。自分はまだまだ未熟だとわかって、その分頑張らなきゃって。

 でも、失敗を取り戻そうと必死になる余り、前回と同じ過ちを繰り返してしまった。

 私は、1人で森で迷子になった時と、何も変わっていない……。 

 

 すると、シナモン先生が優しく笑った。

「失敗なんて気にしなくていいんですよ。

 最初は誰でも未熟です。ゆっくり、ゆっくり、強くなっていけばいいんですから。

 何度も失敗するのは悪い事じゃない」

 シナモン先生は私の顔を見た。

 優しい目。でも、まっすぐ私を見つめてるこの目。

 まるで深い海のよう。私は初めて貴方の目を見た時のように、その目に吸い込まれそうな感覚を覚えた。

 あの日も、あの森の中でも貴方はこんな真っすぐな目で、私を見てくれていたわ。

 私はこくりと頷いた。

 

 シナモン先生は私の足をじっと見つめて、呟いた。

「この者にひと時の癒しを……イアシズ」

 すると、なんと、真っ赤になっていた私の足はみるみるうちに元通りに戻った。

 軽く触れてみる。痛くない!

「これくらいの傷ならこれで十分です」

 シナモン先生はまたにっこり。

 

 これは、回復魔法。名の通り、傷や病気を癒す魔法だ。昔、シナモン先生が存在だけは教えてくれた。

 シナモン先生は扱うのがかなり難しい魔法って言ってたっけ。

 そんな魔法を使えるなんて! シナモン先生ったらすごいわ!

 

「もう少し休憩したら、行きましょう。日が暮れる前にできるだけ町に近づきたいですからね」

 

 先生は私の足にブーツを履かせながら言った。

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